小説

□【ルカスパ】冷たい水をください、できたら…
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ルカは、勘付いていた。彼の様子がおかしい。イリアに聞いてみたが、案の定火山の時と同じ答えが返ってきた。ルカには正直、彼がお腹が空いているようには見えなかった。このテノスの雪の中、敵も強くなってきたため、ルカ達一行は戦闘慣れのために魔物と戦っていた。皆がふとした瞬間に寒そうにしている中、一人だけ、一切そのような素振りを見せない人物がいた。彼も初めは、寒い、と言っていたし、もともと我慢強い性格であるため、誰も気に留めてはいなかった。
しかしルカの中では、違和感があったのだ。不思議なことに、ルカのそれは、今まで何度も的中した。面白いほどに、何度も。
しんしんと降る沫雪の一粒が、ルカの頬を、わずかに濡らす。
事実を確かめるため、戦闘の終わりに、ルカは緑髪の少年のもとへ駆け寄る。
「ねえ、寒くないの?スパーダ」
問いかけると、銀灰色が、ルカの姿をとらえた。通常は不屈の精神を灯して輝く彼の瞳が、いつになくおぼろげに感じられた。
アンジュからシャツのボタンを止めればいいのに、と言われたのにも関わらず、そこはガラ空きのまんまで、見ているこちらが寒い。
「別に、寒くねェけど。いきなりどうしたってんだよ」
予想通りの答えが返ってくる。ルカは、ほぼ確信した。自分の直感が正しかったことを。
「ちょっと、確かめたいことがあったんだ」
「?ルカ、何やってんだよ」
ルカは、スパーダの額に軽く触れる。いきなりのことに、スパーダは少し戸惑った。
「…スパーダ。君、もう休んだ方がいいよ」
触れた指に、平熱とは思えない熱さが伝わり、ルカは肩を落とす。
「あァ?何でだよ!オレはまだまだ戦えるっての!」
「でもこれ、絶対熱あるよ」
突っかかるスパーダに、ルカは至って冷静に返した。
「え?あ…そういや、体が動かないような…」
ルカに言われて、スパーダは戦闘中自分の身体が妙に重かったわけにようやく気付いた。それと連動して、戦いに集中しすぎて忘れていた寒気と倦怠感が、一気に襲ってくる。
「今まで、気づいてなかったの?」
「ああ…」
「そう。…とにかく、街に戻ろう。これ以上戦ったら、身体に良くないよ」
「いや、でもオレは…」
スパーダは反論しようとする。どうしても、仲間の足を引っ張ることだけはしたくないという思いからだった。
「でもじゃないよ。僕、医者になりたいって言ったでしょ。それなのに、具合の悪い人を戦わせるなんてできないよ」
ルカは譲らない。しっかりとした口調で自分の意見を言い、スパーダを射抜くような碧い瞳で見つめた。因果なことに、ルカがここまで強くなったのは、スパーダの影響だった。
二人は、しばらくどちらかが先に折れるのを待った。
「…わかったよ、オレは街に戻る。じゃあな」
スパーダが、先に折れた。ルカの意思を、尊重しようと思ったのだ。スパーダはよろけながら、その場を去ろうとする。
「待って!一人で行動しちゃダメだよ!」
「いや、街に着けりゃ、良いだろ?そのくらいは持つって。お前はここで…」
「何言ってるの、そんなふらふらしてる人、放っておけるわけないじゃないか。僕も行くよ」
確かに、街に着くまでは、スパーダの痩せ我慢は続くだろう。迷惑をかけたくない気持ちもわかる。しかし今のルカは、病人を放っておく自分を許せそうにはなかった。
「…ハァ。調子狂うぜ…ルカも、大したヤツになったもんだ」
諦め半分で、ため息をつく。ルカの成長が嬉しいような、残念なような。たぶん前者のほうが上回って、スパーダは少し笑った。
ルカは仲間に街に戻ることを告げて、よろけるスパーダの身体を支えながら歩いた。いいって、と断られたが、ルカも引き下がらなかった。回雪が風にのって、二人の頬を叩きつける。傍から聞こえるスパーダの息が荒い。ルカは、一刻も早く宿に着かなくては、と心の中で呟いた。
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