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□futuro
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【第3話】続パシリちゃん
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山田花子は窓からの風が心地よくうつらうつらとしていた、その時山田花子の携帯のバイブがなる。6月、衣替えも済んで男子生徒も女子生徒も、授業の黒板を向く後ろ姿は夏服だ。そんな4限目の心地よい風と共に気持ちよく寝てしまいそうになっていた山田花子は一気に陰鬱な表情になる。この約1ヵ月、件のベル先輩からのお使い、もといパシリは続いていた。ゲンナリした顔でラインを開けば『いつもの』という文字のみ。
(ラーメン屋かあたしゃ)
と山田花子は大きな溜息を吐いた。
(せめて…せめて牛乳と焼きそばパン買ってきてお願いハートくらい可愛げがある文面なら…ちょっと考えなくもないし?そこまで言うなら?買ってあげなくもないし?)
なんて考えてはみたものの、やはり(お世話係じゃないんだから…)そんな思考を巡らせている間に、4限の終わりを告げるチャイムが鳴る。




「あ」
「ん…?」
もう習慣付いたなぁなんて、向かってる自分に疑問を覚えている山田花子は早く届けようと落ち着かない歩みで屋上への階段を上がっていた時である。後ろから声がして振り返るとベル先輩が近くの教室から出てきたばかりだろうか。階段をまさに登ろうとしていたところであった。声を掛けようか一瞬悩むが
(これじゃ私が好きで話しかけてるみたいじゃん…)
なんだかんだ女生徒に人気な先輩には、対面してもまだ慣れず緊張する。山田花子は振り向こうとした。

のだが、山田花子は自慢じゃないがおっちょこちょいな部分があり、本人の意図しない形で発揮され度々自己嫌悪に陥ることもしばしば。何故そんな話をしたかというと、彼女は見事振り向きざまに自分の足に蹴躓いて階段から転げ落ちたのである。幸いな事に階段からと言っても4〜5段程で大怪我には至らなかった。が…

山田花子は顔面からうつ伏せの状態で硬直している。そこから地の底から出した声で
「………痛い…先輩痛いです……」
「ベル先輩…なんで避けたんですか……」
不貞腐れた声で山田花子は呟く。そうこの男は山田花子が落ちるその時「おっと」とヒラリと避けたのだ。避けたのである。この男は。この男は……痛い… これが後輩の女の子に対する仕打ちか?態度か?人間のすることじゃねぇ…
関わりたくない……届けに行かなきゃなと言うこの思考が駄目なのだと山田花子は考えていた。見事なパシリちゃんである、どうやったらパシリちゃんから抜け出せるのだ?

「普通避けね?」
「避けませんよ!!そこは受け止めるところじゃないですか!!」
ガバッと山田花子は起き上がり涙目で訴える、この男といるとろくなことがない、画面にサッカーボールは当てられるわパシリにつかわされるわ階段は転ぶは…いや最後は自分自身のせいと自己嫌悪に陥っている。挙句にはベル先輩の同級生らしきクラスメートから
「その子が例のー?」
「そーそー」
という会話が聞こえてきた。
(絶対ろくなこと言ってねー、おもちゃができたって言いふらしてんだ山田花子残酷物語…)
(意味分かんない意味分かんない…全部意味全部意味分かんない…私ががなにをした…私はただ焼きそばパンを届けにきただけなのに)

(冷たい悲しい…)
山田花子は本格的に泣きそうになってきた。


「いつまで座ってんの」

誰のせいでこけたのだろうと山田花子は思ったが…自分のせいだった…
「でもベル先輩が受け止めてくれたらこけることなかったんですけどなぁ!痛いなー痛いなぁ!なんかちょっと血が出てるなぁ!」
「えーまじでどこどこ?」
「ここ!ここ!!目が隠れてるから見えないって?!そんな馬鹿な?!サッカーボール蹴れるくせに?!!」
擦り傷だらけの傷を見てベルフェゴールは
「あーコリゃ痛そうー」
と呑気に言ってみせる。
山田花子はもうこんな目に会いたくない、けどまた転けることがあったらせてめ次は……
(次も避けそうだなぁ……ちょっとだけ希望を持つ)

「背中乗れ」
と言ってきたのは山田花子の中の暴君悪魔意地悪人間NO.1から発せられた意外な言葉だった。
「なんか仕組んでないませんか?!」
確かに身体中痛いし、そんな…後ろに背負ってもらえるとは…見返り求めてるのかと山田花子は思ってしまう。
「私…何も、お金持ってないですよ…お金だけはやめて下さい…生きていくのに必要なんです…」
「バーカ!早く乗れって」
そう言って急かされる。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて。」
と本格的におぶられてから気付いたが昼休み時間の他生徒の周りの目が恥ずかしかった。
(ベル先輩、背高いから目立っちゃうよぉ…)
恥ずかしくて先輩の背中をぎゅっと強めに額を押し付ける。すると意識していなかった先輩の匂いが香ってくる…先輩の背中を直で感じていて
(広い背中だ)
(あったかい…)
と感じてしまっていた。
(あれ私気持ち悪い?!)


保健室につき、意外にも丁寧な所作でおろして貰えた。


しかしその次の第一声が

「はい、じゃあいつもの頂戴♪」
と両手を差し出して言われた。

(あー…)
「え、あ、パンですか?…あ、はい。パンでーす…」
「はい、じゃーねー」



あ、ありえねーーー!!!パンだけ徴収して行きやがった。さっき背中の体温や匂いを感じてドキドキしてた自分が馬鹿みたいに思えた。


/担当おちゃぴ

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