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□出会い、そして恋の始まり。
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つまらない。
何もかもがつまらない。
「はぁ...。」
ため息をつき左腕を擦る。
何で学校なんかに行かなきゃならないのか。
高二のあの頃はそんな事ばかり考えていた。

元々馴れ合うのが嫌いだった私は
クラスにいても息が詰まるだけ。
かと言って教室から出ても何かあるわけじゃなかった。
屋上行ってみるか...。
階段を上がり扉を開け屋上へ出ると真夏の空は快晴で
日差しの眩しさに目を細めた。
「眩しっ...」
給水塔のハシゴを少し登り腰掛ける。
「ここいいところだな...」

2年に進級して2ヶ月ほど。
いい避難場所を見つけた。
この学校は海に近いためここからの位置だと
海が良く見える。
不意に左腕を擦る。
これは癖。
私は左腕に大量にリスカしてた時期があって
それの名残というかなんというか
無意識に触ってしまう。
今も痕は残っている。
最近はしてないけど
前はしょっちゅうしてた。
血が流れ出る感触が好きで。
こうやって人は死ぬんだなって思うのが好きで。
これで死ねたらどんなに楽だろうかって何回も思った。

私のリスカの事が学校で広まると
今まで普通に仲良く話していた「人」達に
一気に距離を置かれるようになった。
元々友達だなんて思ってなかった。

だけど馴れ合うのが嫌いな私にとっては嬉しかった。

コツン コツン
階段上がる音がする。
「...誰か来たかな」
入口から出てきたのは先生らしき人。
白衣着てるから理科の先生かな...。
見たことない先生だな...。
ってかめっちゃ美人。
するとその人はこちらに気づいたようで
入口の段差の部分に座りながら
「そこでなにしてんの〜?」
なんてゆったりした口調で聞いてくる。
私はハシゴを降りて先生から少し距離を置いて隣に座る。
私は先生の問いに
「逃げてきた」
と素直に答える。
「へぇ〜、名前は?」
「齋藤飛鳥。」
「何年生?」
「2年生」
「ふ〜ん、そうかそうか。」
聞いといて興味なさげな返事。
いつの間にやら口元にはタバコ。
何なんだよ....
「先生の名前は?」
「奈々未。」
「奈々未...。苗字は?」
「橋本。」
「奈々未先生の担当教科なに?」
「美術」
「えっ?嘘だぁ」
「ホントだよ?」
「何年生の担当?」
「三年生。」
この学校は学年ごとに校舎とが違うため
見たことない先生がいることもしばしば。
だから見た事なかったのか。納得。
しかし美術とは。ってか
「なんで白衣着てるの?」
「ん〜何となく?」
「あははっ何それ」
「やっと笑った。」
え...あっ..
「ははっ。ビックリしてる」
何を考えてるのか全くわからない。
でもなんだかこの人と話すと
落ち着くと言うかだんだんと彼女に引き込まれていった。
「タバコ吸うんだね。吸わなそうなのに。」
「まぁ、たまにね。嫌だった?」
「いや、別に。親も吸ってるし慣れてる」
「そうかそうか。」
ふと横にいる先生の横顔を見る。
高い鼻、まつ毛の長いぱっちりしていて凛とした目。
私はしばらくその横顔に見とれていた。
「...何?」
「うぇっ?いや、なんでも」
突然こちらを向いた先生に間抜けな声が出てしまった。
私は顔を逸らし質問する。
「...先生って彼氏とかいるの?」
ドキドキを抑えるために話を変える。
別にこんな話したいわけじゃないんだけどな。
すると先生は
「ないしょ。」
ニヤッと笑って私の方を見て言う。
その笑顔にドキッとした。
ドキドキを抑えようとしてドキドキしてしまった。
その時に私は気づいた。
なんでさっきから私はドキドキしてるんだ?
こんなの、はじめてだ...

その時の私にはその感情が分からなかった。

すると先生は
「あ、そろそろ時間だわ。」
「え...」
「んじゃ、またね。」
「待って!」
「ん?」
「いつもこの時間にここいるの?」
「まぁ、うん。」
「そうなんだ。ねぇ、またお話しちゃダメ?」
「飛鳥が大丈夫なら」
「じゃあまたここで話しない?」
「あははっ。いいよ。でも授業にはでなよ?」
「うんっ!」

真夏の太陽が眩しく輝くあの日。
タバコの煙が残る屋上。
私は初めての恋に落ちた。
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