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□やられたら。
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「としちゃん」

そう呼べば、あなたはきょとんとした顔で私の言葉を待ってくれる。
その顔があまりにも可愛くて。

「…なんでもない」
「え、なんだよぉ」

唇をとがらせて抗議の声を上げるとしちゃん。
今日も愛しの彼女はかわいい。

「としちゃーん」
「なにー?」

間延びしたへにょへにょ声。
本人は嫌だと言っていたけれど、私はとしちゃんの声がだいすきで聞こえるだけでも私の心を安心させてくれる。

「ふふ、呼んでみただけ」
「えぇ?どうしたの?」
「んーん、どうもしないよ?」

眉毛を下げて心配そうに私の顔を覗き込んでくるとしちゃん。普段こんなことしないから心配させちゃったみたい。

「きくちゃん」
「ん?」
「なんでもないよ?」
「わぁー…やりかえされた」

名前を呼ばれたと思ったら、なんでもない、なんて。としちゃんはしてやったり顔。

「へへ、ばいがえしだー!」

近づくとしちゃんの顔。
唇が頬に触れた。
ちゅっと可愛い音を立てて離れていく。
としちゃんの頬はみるみる赤くなって、目も少しうるうるしている。
さっき私の頬に触れた柔らかい唇はきゅっと結ばれていて。
その顔、かわいいじゃん。

「てれてる」
「むぅ…」
「としちゃん、」
「ん?」



きくちゃんも、ばいがえし、してもいいかな?
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