アンバランスなキスをして

□十話
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どれくらいそうしていたのだろう。

深みの底から意識が浮上してくる。
体も重ければ、瞼も重い。

「う、ん…?」

それでもなんとか目を開けてみると、知らない天井があった。
一般的な白いクロスの貼られた部屋に、蛍光灯。そして室内のベッドに横になっている自分。

私、どうなったんだっけ?

「気が付いた?」

ぼんやりと考えていてると、聞き覚えのある声音が側から聞こえてくる。
頭だけ動かして見てみると、そこには。

「…南野君」
「おはよ、…っていう時間でもないかな。まだ深夜だよ」

側の壁に背を預け座す、南野君がいた。
なんで彼がここにいるんだろう…と間の抜けたことを考えたのは一瞬で、私の頭が高速で起動する。

自宅での妖怪…反吐鬼の襲撃、連れ去られた先に飛影と南野君が駆け付けてくれたこと、そして、私自身の…。

引いた波が押し寄せてくるかのように思い出される昨夜の出来事に、気が逸る。
南野君の怪我は大丈夫だろうか、飛影は?

「あのっ、昨日は…、ひゃあ!」

跳ねるように起き上がると体中にビシビシと痛みが走り、危くベッドから転落しかけてしまう。
そうならなかったのは、それを予測した南野君が支えてくれたからだ。

「あまり動かない方がいい。体の傷は簡単に手当てをしておいたけど、霊力を使い果たして肉体に負荷がかかり過ぎている」

言われた通り、私には手当てのあとがあった。
反吐鬼の攻撃を腹部に受けたはずの南野君が心配になるものの、間近で見る彼の動きを見ても支障はなさそうで、ホッとする。

「南野君、飛影は…昨日一緒に居たあのひとは大丈夫?私、昨日、ふたりに…あんな、」
「とりあえず落ち着いて、体に障るから。…ちょっと話そうか」

私を助け起こしてくれると、少し間を空けてベッドに腰掛けた彼は、色々と話して聞かせてくれた。

飛影に特別怪我はないということ。
彼とは古い仲で、人嫌いの彼が最近やたらとの周りに姿を見せるので何かあると思い、失礼を承知で調べていたということ。
それから、自分の正体が妖狐という妖怪であること。
あの反吐鬼とは因縁があり、今回の件はそれに起因していたこと。

点と点が、結ばれてゆく。

「それじゃあもしかして、あの時家に招いてくれたのも?」
「あぁ、君が霊界の使いをしているのなら、最近また現れ出した反吐鬼の情報を持っているんじゃないかと思ってね。結果は違ったわけだけど」

そう言って南野君が渡してきたのはなんと、例のコエンマ様からのビデオで。
目を丸くして驚く私に彼は「すり替わってたの気が付かなかったでしょ?」と、平然と言ってのけた。当然気付いていなかった。

しかし、私が霊界探偵をしていることまで知られていただなんて。極秘任務とは、一体…。

「南野君の素ってそんななんだぁ」

目の前にいる南野君はいつも教室で見かけるのと同じ笑顔のはずなのに、なんだか別人に見えてくる。それは勿論、昨夜のことも大いにあるわけだけど。

「“蔵馬”でいいよ。隠し事はバレちゃってるしね、お互い。俺もこれから名前で呼ぶから」
「うん、わかった…えっとね。ところでここってさ、もしかして…」

改めて宜しく、と挨拶も終えて。目を覚ましてから気になっていた点に触れる。

前回お邪魔に上がった時は彼の部屋には入らなかったから、目が覚めた時すぐ気が付かなかったけれど。状況からしてこの部屋は…。

「俺の部屋だけど」

やはりそうでしたか。
まともに異性とお付き合いの経験もない私には、異性のベッドで寝るのは如何せん、レベルが高すぎる。

「ご、ごめん…私ひとのベッド使っちゃって…、退くから、というか帰らなきゃ」

ふたりの安否がわかって安心したのと、焦りと羞恥から油断して、慌ててベッドから降りようとしてしまった。再び体中に痛みに走る。

忘れていた、と思う頃には時すでに遅かった。可愛げの欠片もない「ぎゃあ」という叫び声が上がり、痛みで硬直したまま、今度こそ転倒してしまう。

「だから動いたら駄目だって言ったのに」
「…すみま、せん」

そこは流石というかなんというか。まるで流れるような動作で私を救い上げてくれた南野君…蔵馬によって、床に体を叩きつけることだけは難を逃れた。
何をやっているんだろう。私は。

「何を遊んでいる」
「へ?」

痛みの余韻を引き摺っていると、急に湧いた声に肩が跳ねる。
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