パパは◯◯です!
□パパは呪氷使いの凍矢です。
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パパは呪氷使いの凍矢です。
「名前!」
ここはひろいひろい魔界。暗い空に、よどんだ空気。今朝も雷が、ばりばりどかーんと鳴ってはどこかに落ちています。
魔界の天候は今日も絶好調です。
「はーい、パパ」
わたしの名前は名前。まだ小さいけれど、これでもれっきとした魔界に住む妖の子。
今日もよい天気だな、と高い所から空を眺めておりますと、下の方から何やら焦った様子のパパの声が聞こえてきました。
「そんな所で何を…!」
「氷のお城だよー、みてみてすごいー?」
「降りてきなさいっ」
「えー」
「降りてきなさい!」
「ぶー」
せっかく早起きして作った氷のお城のてっぺんで、気持ちよく風に吹かれていましたが。パパに叱られてしまっては仕方ありません。しぶしぶ降りることにしました。
「あ、」
立ち上がった拍子にうっかりと、足がつるりと滑らせて。そういえば足元も全部氷だったのを忘れていました。
わたしはそのまま地面に落ちていきます。けれど。
すとん!
「着地!」
これくらいの高さは、どうってことはないのです。空中でくるっと回転して、しゅたっと着地できました。
「名前…」
「あ、パパ。名前ちゃんと降りれたでしょ…、わっぷ」
わたしはてっきり、うまく着地できたねと、褒めてもらえるかと思っていたのですが。
珍しく息をきらせて走って来たパパは、ひざを地面につくとわたしをぎゅうっと抱きしめて、大きなため息をつきました。
「…はぁ、無事で良かった」
おおげさだよと言いたかったのですが、とてもそんなこと言える雰囲気ではなさそうです。
パパの方がふだん、もっと危ない修行とかしてると思うんですけど。
「パパ、名前ケガもないし、大丈夫だよ?」
「そういう問題ではない。それから、パパではなく父様と呼びなさい」
わたしのパパは元魔界の忍のひとりで、凍矢いう名前です。氷を操ることができる、目元が涼しげなかっこいいひとです。
…でもちょっと過保護なのが玉にキズです。
「でもパパ、」
「… 名前?」
「と、う、さ、ま!」
そして育児はやや厳しめです。
「しかしまた…なんでこんな物作ったんだ?」
「こないだみんなで、幻海師範のとこ行ったでしょ?夜にテレビ見てたらね、えいが?やってて。そこで女の人が氷でお城を作ってたから。名前もやれるかなって」
「……」
上手に出来たでしょ?とパパを見上げて言うと、なぜか目頭を押さえてうつむかれてしまいました。
パパ、…違った、父さま。そこは呆れるところではありませんよ。
…このあと、氷でお城を作ることは危ないからと全面禁止になってしまいました。
わたしの父さまは、“ちょっと過保護”ではありませんでしたね。
“ものすごく過保護”です。