飛影夢短編
□誓(ちかい)
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生まれた頃から霊力が高く、人間界でも五本の指に入ると言われている“霊光波動拳の幻海“を祖母に持つ私が、霊界探偵に任命されて数年経った。
最初こそミスをしたり、洒落にならない怪我を負うことも少なくなくて。
上司のコエンマ様やおばあ様に多大なる心配と迷惑をかけまくって来たけれど。
さすがに数年も任務にあたれば、戦闘にも慣れ要領も掴めてきたのか、そういったこともなくなった。
でも一番変わったのは、たぶん私ではないと思う。
「名前」
「あ、飛影!久しぶりっ」
「ん」
それが今私の部屋の窓から姿を現したこのひと、飛影だ。
彼とは私が霊界探偵になりたての頃からの付き合いだ。過保護なコエンマ様が私を心配して、補佐役にと派遣してきた使者、それが飛影だった。
でも魔界で王を定めるトーナメントがあって以降、魔界あちらで迷い込んだ人間がいないか見回るパトロール隊に入って。
それからは補佐役は解任、たまに仕事が休みになるとこうして人間界に顔を出してくれるようになった。
「今日は休みなの?」
「ああ。暫く人間界にいる」
勝手知ったる様子で窓から入り込んでくる彼に聞けば、私の側まで寄るとやおらそう告げた。
飛影の何が変わったって。まず背が伸びた。
出会った頃は私より少し小さかったはずのその身長は、こうして横に並ぶと私より頭ひとつ分は大きくなっている。
「そっか、よかった。三ヶ月連絡もなくて心配してたんだよ?…それじゃあ、私大学行ってくるから。好きに過ごしてて」
「なに?」
夕方には帰るね、と背を向けると、肩を捕まれて視界がぐるりと反転。あっという間に壁に背を押し付けられ、若干不機嫌そうなつり目の相貌が私を見下ろす。
「ようやくお前に会いに来た俺を秒で置いて行こうとは、いい度胸だな」
「あ、いや…心配、してたよ?」
「三ヶ月お預け食ったんだ、とっとと観念しろ」
「でも単位がね、…んっ」
突然の壁ドンから逃れようともがけば、顎を捕まれ否応無く口が塞がれてしまった。
飛影の最大の変化はこれだ。
霊界探偵と補佐という関係から始まった私達は、時には互いに命を預けて任務を遂行してゆくに連れ、ゆっくりと、でも確かな甘い関係となっていた。
最初なんて、貴様だの馬鹿だの阿呆だの、とんだ言われようだったのに。
いつしかきちんと私の名を呼ぶ声に甘さが含まれるようになり、戸惑いながらだった抱擁は、次第に独占欲を隠さなくなった。
飛影の性格からして、明確に好きだとか、言われたことはないけれど。言葉より行動で物を言うタイプだから。今の、こんな風に。
ツンデレが吹っ切れると怖いもの無しだという良い例だ。
「ん、ふ、あ、…ちょっ、だから!夕方に…帰って、くるって、…やっ」
「知らん」
顎を掴んでいた手がスルスルと下に伸びてゆき、服の下にひたりと冷たい掌が這い出せば、もうそれからは向こうのペース。
結局ベッドに連行されて足腰立たなくなるまで解放されない、いつものパターンが待っている。
飛影も飛影だけど、まぁなんだかんだそれを許容する私も私だと思う。
ちなみ授業にはきちんと遅刻した。泣いた。