the walking dead

□あと10秒
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「速すぎる…」

ダリルと一緒に居たくて、狩りに行く彼に着いてきた私は現在、彼の足の速さに着いていけず、ちょっと先に居る彼を必死に追いかけています。

そもそも、狩りに行きそうな様子の彼に、一緒に行ってもいい?と聞いて、私をジロリと見た後、無言で森へ行ったもんだから、俺についてこい的な感じかと思って喜んで来たけど、ついてくんな的な感じだったのかな。彼はあまり言葉にしないから分からない、難しい。

少しづつ遠くなっていく彼の背中を見て、まるで心も遠くなって行くような感覚に襲われる。…心は近づいて居たのかも怪しい。いや もともと近づいてすらいなかったのかも。

徐々に沈んだ気分になってく私に、まるで追い討ちをかけるように、右後方からウォーカーが2体近づいてきた。ウォーカーとのお近づきはお断りしたい所だ。

そうも言ってられない。
私はナイフを取り出して先に近づいてきた一体の頭にナイフを刺す。
未だに人に…いや、人だった者にナイフを刺す事は慣れないが生きる為だといつも言い聞かせながら刺す。

どれ、もう一体も始末しなければ、とそちらへ視線を移すともう一体のウォーカーは倒れていた。
なんだ、私の事なんて全く見えていないのかと思ってたけどちゃんと見ててくれたんだ。
倒れていたウォーカーの頭に刺さっている矢がそれを物語っていた。


「気をつけろ」


ウォーカーの頭に刺さった矢を抜きながらダリルは言った。
ちゃんと私を見ててくれた、彼はそういう人だ。そんな彼の不器用な優しさに私は惹かれたんだ。
自然と溢れた涙はスルスルと出てきて私の頬を伝っていく。
ダリルは少しギョッとした顔で私を見た後、服の袖で乱暴に私の涙を拭き取って泣くなと言った。
ほんとに優しい、やっぱり好きだなぁ。


「えへへ」


泣きながら笑った私を見て今度はなんだコイツ的な顔で見てきた。仕方がない。
なんだか色んな感情が溢れてしまった。


「好き」


なんてこった。思いが溢れてつい言葉にしてしまった。もっと仲良くなってから伝えようと思ってたのに。まあでも、この想いを知って欲しい気持ちも少しあったから後悔はしていないけれども。

伝えたものの、ダリルの顔は見れない。
どんな顔してるんだろう。またさっきみたいに なんだコイツ的な顔でもしているのかな。怖くて見れない。

ダリルは無言のまま、自分の頭をガシガシしたであろう素振りをしている。

そしてチュッと触れるだけのキスをして、行くぞと言って背中を見せた。


…ちゅ?


ダリルが私にキスした!

「っ」

きっと傍から見たら私の顔は真っ赤な茹でたこの様な色をしてニヤニヤしている変質者だろう。
でもどうだっていい。こんな世でも突然輝いているようにみえる。
あの背中を向けて、先程より少し歩くペースを落としてくれた彼のおかげで。


私が駆け出して彼の背中に飛びつくまであと10秒。







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