拍手書庫

□飛翔
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午前中はいつに無く忙しかったので
全く気がつかなかった。




メール受信件数:7件




 !?7件!!??




 わー…。全部ケンさんからだよ…




何事かと思いつつトイレの個室でメールを順に開いてみる



『おはよう。…寒いよ〜』



『寒いんだよ…』



『さーむーいー!!』



『おーい。    寒いよ』



『…寒い、マジで寒い』




『…さむい』




『・・・・。』






 ・・・・・。

最後のメールが15分前。

これは…

返信急ぐべき?っていうか、電話したほうがいいのかな?




一先ず、メールを返してみる。

『おはよう。ごめんね、メールに気がつくのが遅くて。
どうしたの?何かあった?
今日は撮影じゃないの?
今から電話してもいいならかけるよ』


…ヴヴヴ

!!


速攻返事が来てまたも驚く。




『撮休。寒い。電話、わいがする。』

 

 え?
 かけて来る?
 今すぐってか!!?


…ヴヴヴ、ヴヴ…
 
 !!!

 来たし。




「もしもし」慌ててトイレを出て、非常階段を目指す。
あそこなら誰にも聞かれない。




『…寒いんだ』

「うん。」

『…元気?』
「うん、ケンさんは?ちょっとまた鼻声だね」

『寒くて』
「大丈夫?」

『……』

「ケン…さん?」

『大丈夫…じゃない』

「…うん…」

『…嘘。大丈夫』

「……」

『ただちょっと寒いんだ』

「……」

『…ちょっと、怖いんだ…』
 
「・・・・・・」
 こんなに胸騒ぎがするのは久しぶりだ。
 ケンイチが、混乱してる…。







彼のいる町へと続く空を見上げる

ここも、今日は少し寒いよ。



『ね…呼んで?』

「ん?名前?」

『うん。わいを呼んで?』




「研一」

音には変化は無くても、私は“研一”と心に文字を描きながら呼ぶ。

『…うん』

「研一」

『……うん』

「研一…研一…研…一。」

『…っふ…ちょっと恥ずかしい』

「研一」

『はい』

「研一。私も寒い。今すぐ逢いたい」

『!!??』

「逢いたい。
でもどうしたって今は逢えない…。
だけど、研一のことぎゅーっと捕まえてるから」

『……』

「研一は、私が絶対に捕まえてるから。
だからケンさんは迷わなくていいよ。
大丈夫だよ。きっと」


『・・・・・』

余計なことを言ったかもしれない、と思うけど後の祭り。

「・・・・」

『怖いんだ』

「うん…」

『声が聞けて…嬉しい』

「…うん。私も」

『ごめん、へんな電話して』

「ううん、へんじゃない、謝らないで。」

『うん…』

「…寒い?」

『…いや、おさまった…かも』

「……」

『ホントだって』
少し笑ったような声。

「……」
(また電話して)

『…また電話する』

「…うん」
(メールも…)

『メールもする』

「…うん」
(逢いたい…)

『…でもやっぱ逢いたいな』

「……っ」
(……)

『…逢える日まで、わいを絶対離さずに捕まえててよ…』

「……ん。」










 私の背中に
 翼があればいいのに。

 大きい翼
 
 

 そしたら
 飛んでいける

 


 そしたら
 凍えるあの人を
 包んであげられる。







うす雲のかかる空を見上げて
心を、見えない風船にくくりつけて
そっと飛ばしてみた。

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