頂き物
□空に咲く炎の華
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――――剣で負けたのは、何時以来だったろうか。
真っ先に思い出されるのはあのクリード=ディスケンスとの死闘だが、あれは一種の例外だ。
純粋な決闘、それも剣同士では、最後に負けたのは何時だったかまるで思い出せない。
呆然とそんな事を考えるセフィリア=アークスを余所に、彼女の眼前に佇む一人の青年は、乱れた呼吸を整えながら愛剣を腰に収める。
「俺の勝ち、だな?」
「…………ええ、悔しいですが」
長く、重力に逆らって跳ねた黒髪。灼熱の炎を連想させる、真紅の瞳。
男というには優し過ぎ、女というには鋭過ぎるその端正な顔を緩めながら、青年―――――ラスティ・ウル・メタ=リカーナは、意地悪に言い放った。
とある国に存在する、秘密結社クロノスの支部。
鍛練室、とプレートが掲げられた部屋から、二人の男女が退室してくる。
ラスティと、セフィリアである。
…………事の発端は、数日前に遡る。
何時ものように老人たちの命で反逆者を抹殺しに赴いたセフィリアの眼前に、ラスティが「落ちて」来た、それだけの事。
しかも身体中が裂傷、火傷、凍傷のオンパレードであった。
どうすれば、此処までボロ雑巾の様になれるのか。
明らかに不審ではあるが、本来は心優しい彼女であるからして、傷付いた彼をそのまま放置、という行動を取るはずもなく。
意識を失っていた彼は、セフィリアによってクロノスの病院に運ばれる事となった。
そして数日後に目を覚ましたラスティは、何が何だか分からないままセフィリアと模擬戦をする羽目に。
彼は知らない事であるが、この模擬戦には当然というか、裏があった。
傷だらけで、美しい短剣を持っている青年。
加えて自然治癒の速度が半端ではなく、無駄のない身体付きをしているとあれば、一般人でない事は明白。
「危険なようであれば、消せ」
―――――――彼女がラスティと戦う前、老人達に言われた言葉である。
セフィリアは、基本的に殺生を好まない。
剣の達人である彼女にとって、相手が振るう剣で人物を推し量る事は、不可能ではなかった。
そして、もう一つ。
それは、可能であればラスティをクロノスに引き込め、というもの。
敵対組織が多いクロノスである、自然治癒に長けたラスティを、有効に活用しようと思ったのであろう。
「して、何故また突然模擬戦を?」
「はい。その事なのでが……………」
――――結果は、予想外のものであったが。
「時の番人」を束ねるセフィリア=アークス、彼女が敗北するとは、誰も予想しなかったであろう。
しかし、当事者である彼は、ラスティの剣を素直に「美しい」と感じた。
繊細にして苛烈。大胆にして正確。緩から急への切り替え。
技術一つ取ってみても、一朝一夕で完成されたものではない。
一つの事に打ち込める、その信念。
「単刀直入に言います。仲間に、なりませんか?」
だからだろう。
セフィリアは自分でも驚く程、素直に勧誘の言葉を口にしていた。