頂き物

□空に咲く炎の華
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結論として、ラスティはクロノスに入隊した。

最初は渋っていた彼だが、しばらく暮らしていく内に、徐々に気が付いたのだ。

すなわち、此処が自分の居た世界ではないと。

そもそも、自分が生きている事すら不思議に思える位である。

彼が現状を受け入れるのに抵抗はなく、寧ろ生きていた事を好都合と捕らえた。

まあ、死ぬ気で決戦に赴いたのだから、当然であるが。


それはともかく、生きるためには必要な物があり、「職」もその一つである。

ラスティにとって、セフィリアの提案に乗らない手はなかった。






―――――そんな事があったのが数年前。

「ラスティ、そちらに」

「分かって、いるっ!!」

とある都市の路地裏で、屈強な男達を薙ぎ倒す二人の姿があった。

語るに及ばず、ラスティとセフィリアである。

勧誘の際、クロノスなる組織が如何なる物か分かっていなかったラスティ。

そんな彼が、一つだけ出した条件がある。

自分と剣を交えた相手、つまりはセフィリアと行動を共にさせる事。

これは戦って感じたラスティの所感なのだが、彼女のような澄んだ瞳を持つ人間に、悪人はいない。

故の提案だったのだが……………


「これで全部、か………怪我は無いか?」

「ええ。お蔭様で」

「そうか。よかった」

「…………」


…………提案だったのだが、その際の発言が下味かった。

ここに来て、竜王子の悪い癖が発現してしまった。

「その女性がいる事が、条件だ。他には、誰も要らない」

…………天然タラシ。

まあ、当時は冗談や社交辞令と流していたセフィリアだったが。

何だかんだでラスティとパートナーになり、一緒に活動するに従って、そうもいかなくなって来た。

彼の言動には、一々ドキリとさせられる物が多過ぎるのだ。

勘違い、という事もあるだろうが、セフィリアとて女性。

正真正銘の「王子様」の雰囲気、行動が、気になって仕方がない。

……………何時からだっただろうか。

ふとした彼の仕種を、目で追うようになってしまったのは。


「今日は、もう終わりか?」

「そのようですね………意外に早く終わってしまいましたね」


何気なく交わすこのやり取りですら、心地良い。

このまま会話を続けていたら、自分はどうなるのか。

――――ああ、これは………駄目だ。


本当に。



何時から自分は、彼にこんなにも参ってしまっているのだろう…………?


「どうかしたか?」

気が付けば、目の前にある竜王子の顔。

真紅の瞳には、どこか遠くを見つめたような自分の顔が映っている。

―――――いけない、顔に出ていたようだ。

「な、何でもありません」


すぐ目前にある端正な顔に胸を高鳴らせながらも、それを表に出す事なく返答。

踵を返し、既に用事が終了した路地裏を出て行こうとする。


「暇でしたら、少し付き合ってくれませんか?」


さりげなく、誘いの言葉を残して。

それを聞いたラスティは、苦笑しつつ返答し、彼女の後に続く。

セフィリアにとっての幸は、ラスティが自分に寄せられる「好意」に対して、神懸かり的に鈍い所であろう。


ラスティとセフィリア。

二人の関係は、微妙なところ。

恋人というには遠すぎ、仕事仲間というには近すぎる。

「分かったよ、相棒」

―――――相棒。

これが、適切な表現であるのかもしれない。

まあ、それでも彼女がラスティに一番近い場所に居る事は、確かであるが。
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