我が名はヒーロー (オリジナル)
□1.ことのはじまり
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1.輸送船
故郷はもうすでに遠く離れて、影すらもみえなくなってしまった。
ああ、石もて我を追いし故郷よ。母なる大地よ。
さらば。
いつの日か必ず帰る、その日まで。
「せんぱーい、サント・クリスタスバーグってどんなとこなんでしょうねぇ。」
突然、気の抜けた声が俺を現実に引き戻した。
小汚い輸送船の一室。汚れた窓にうつるのは、暗い宇宙。そして、隣には男。ああ。
「あほ。人がひたってるときにはちょっと遠慮しろ。俺はなぁ、望郷の思いでいっぱいなんだ。」
「でもー、先輩、もう三日も、そうやってひたってるでしょ。いいかげんにしないと体に悪いですよ。」
「余計なお世話だ。」
「首都って、ほんとにテレビで見るみたいなのかなぁ。ゆーめー人に会ったら、どうしよう。」
なおも隣で、スサはぶつぶつ言いつづけている。どうしようもないやつだ。
スサは女みたいなヤサ男のくせに、酒は強いし、けんかもできる。頭だって、悪くない。ところが、どうも一本抜けている。
俺、シーアとは故郷、惑星エトナの新聞社で一緒だった。それ以来の腐れ縁だ。
腐れ縁というのは、ちょっと当たってないかもしれない。
二人でマフィアのネタに首を突っ込みすぎて、やばくなった。
俺たちの故郷、惑星エトナは今、マフィアに支配されてしまっている。
その「あんたっちゃぶる」に触ってしまった俺達の将来は、コンクリ履いてどぼん確実となってしまった。
で、俺のおやじと親友だった新聞社の社主が、エトナで唯一の聖域である駐留帝国軍に手を回して、俺達を入隊させてくれた。
マフィアににらまれて書きたいことも書けないような新聞社の社主でも、さすがに社主だ。頭いい。
帝国軍なら、マフィアだろうが、腐れ政治家だろうが、手が出せない。
というわけで、本来ならスサと俺とは「戦友」といってもいい間柄なのだが、どうもこいつと一緒にいると、保父さんにでもなったような気がする。
「サント・クリスタスバーグで僕達、何をするんでしょうねぇ。訓練かなぁ。でも、訓練だったらエトナの基地でも出来ますもんねぇ。僕達、エトナにいたら基地から一歩も出られないから、かわいそうに思って首都見物に出してくれたのかなぁ。」
いっぺん、へそかんで死ね。帝国軍に、一体何人ひとがいると思ってるんだ。
政策が拡張主義から現状維持へと変わったことで往年の勢いはなくなったとはいえ、帝国軍は辺境惑星に散らばる数百の勢力をおとなしくさせておくだけの力をもっている。
反対勢力も、帝国の屋台骨を揺るがすようなことをしでかさない限り、中央が地方政治に介入してこないことを知っているから、表向きはおとなしくしている。
目立たない悪党ほど始末が悪いってことだな。
ともあれ、帝国軍は現在、帝国内最大かつ最強の軍事組織だ。
そんな組織が、ど田舎の新兵をかわいそうに思って、遠足に出してくれたりするか。
「さあな、俺達があんまり男前なんで、きっとお姫様の護衛にでも付けたいと思ったんだろ。」
スサのレベルにあわせた答えをしたら、生意気にもやつは吹き出した。