Main

□身長
3ページ/4ページ


 次の日、朝練を終わらせて教室に帰ると、篠岡が黒板を消しているのを発見し、声をかけた。

「手伝おうか?」
「あ、水谷君。だいじょーぶだよー」


 黒板消しをしている篠岡は上の方に手が届いていない。ジャンプして辛うじて届くくらいだ。そんな篠岡を見て、唐突に昨日のおにぎりの時の会話を思い出した。


「ね、しのーかは、なんで男子になりたいって思ったの?」


 俺の質問に、篠岡は目を丸くした。


「男子になりたいわけじゃないけど・・・
 男子って、高校野球に出られるのもそうだけど、背も高くなって、体力もついて、一人で何でもできるでしょう?だからだれにも迷惑かけずに済むだろうなぁと思って・・・。」

 それを聞いて、無意識に黒板消しに手が伸びていた。


「しのーかはそのままでいーの!
 それにしのーかはさ、卑屈になりすぎ。しのーかにしかできないことだっていっぱいあるよ?昨日のおにぎりも、対戦相手のデータも、この前の阿部の怪我みたいに、試合中に手当てしてくれるのもしのーかでしょ?それは俺らにはできないことだよ。
 だから、できないことは素直に頼ってよ。近くに居る誰かに。」


「そう、だね!それ聞いてなんかすっきりしちゃった。ありがとう!」


 篠岡は部室で見たときよりも満面の笑みになっていた。

 黒板消しの作業も終わり、鐘が鳴って俺たちは席に着いた。




 篠岡の笑顔を見てうれしくなったのだが、『近くに居る誰かに』じゃなくて『俺に』って言えなかったことをすごく後悔した。


.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ