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□身長
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次の日、朝練を終わらせて教室に帰ると、篠岡が黒板を消しているのを発見し、声をかけた。
「手伝おうか?」
「あ、水谷君。だいじょーぶだよー」
黒板消しをしている篠岡は上の方に手が届いていない。ジャンプして辛うじて届くくらいだ。そんな篠岡を見て、唐突に昨日のおにぎりの時の会話を思い出した。
「ね、しのーかは、なんで男子になりたいって思ったの?」
俺の質問に、篠岡は目を丸くした。
「男子になりたいわけじゃないけど・・・
男子って、高校野球に出られるのもそうだけど、背も高くなって、体力もついて、一人で何でもできるでしょう?だからだれにも迷惑かけずに済むだろうなぁと思って・・・。」
それを聞いて、無意識に黒板消しに手が伸びていた。
「しのーかはそのままでいーの!
それにしのーかはさ、卑屈になりすぎ。しのーかにしかできないことだっていっぱいあるよ?昨日のおにぎりも、対戦相手のデータも、この前の阿部の怪我みたいに、試合中に手当てしてくれるのもしのーかでしょ?それは俺らにはできないことだよ。
だから、できないことは素直に頼ってよ。近くに居る誰かに。」
「そう、だね!それ聞いてなんかすっきりしちゃった。ありがとう!」
篠岡は部室で見たときよりも満面の笑みになっていた。
黒板消しの作業も終わり、鐘が鳴って俺たちは席に着いた。
篠岡の笑顔を見てうれしくなったのだが、『近くに居る誰かに』じゃなくて『俺に』って言えなかったことをすごく後悔した。
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