夜・桜SS

□サイレンナイト
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***

パタン
ガッチャン。

部屋の鍵を閉める。


閉め切った暗い室内は
まるで私の中みたいだと

ぼんやり思って…







〔♪♪♪〜♪〜♪♪〜♪…〕

!!

突然の着信に
心臓が飛び出すかと思った。


…これは、祭先生の…


ピッ
「…はい。」

「よーう!桜子!元気にやってるかぁー?」

いつもの 先生の明るい声。


「………せんせぇ…」

「!? どうした桜子!何があった?具合が悪いのか?」

「ううん ううん…違うの。ちがうのぉ……!」

「桜子…」



また 涙がぼろぼろ出てきて
声が うまく出せない。

「桜子、落ち着いて。ちょっと深呼吸してみな?」


言われたとおり、胸いっぱいに空気を吸い込む。

ひっく…と 嗚咽が漏れる。

先生は、しばらく何も言わないまま 待っていてくれた。





「…どうだ 話せそうか?桜子」

「うん。先生…」




うまく説明できたかは解らない。
でも、先生は最後まで
静かに聞いてくれた。


「…そっか。」

「…今もね、全然どうしたら良いか解らないの。解らない事だらけなの 先生」

「うん。…でも、桜子さぁ」

「はい?」

「良かったな。」

「…!!」

「胸が空っぽになるまで喧嘩できたんでしょう?それって…
う〜ん、上手に表現できないけど 歩み寄りの第一歩でしょう?」


歩み寄り??

「桜子を泣かしてるって事は絶っっ対!許さないけどなアイツめ。
帰国したら問答無用で殴ってやる…!!」

「…っふ、ふふふ…」

「お、ようやく笑ったな桜子。良かった…って!菊池テメェ…!!
スケジュールなんか知った事かといつも言ってんだろぉコノお〜!!」

…電話の向こうで、男の人(菊池さん?)の喚く声が聞こえる。

「先生、ごめんね?忙しいのに…」

「忙しくない!!ちょっとそのまま待ってろ桜子 ぉぉぉ」

………

ああ。
きっと菊池さん、締め技かけられたか、殴り飛ばされたか…。

遠くで バタン!と
扉を閉める音が聞こえた。

「…はぁ、はぁ 待たせたな…」

どうやら、締め出しに成功したらしい。

「いいの?お仕事…」

「いーの!桜子より大事な仕事なんかありませんよー!!…っと。」

「あはは…」

「なぁ、桜子。〔どうしたら良いのか〕を考えようとするから、きっと解らなくなるんだよ。
〔どうしたいのか〕。
ちょっとソレを考えてみな?」

「…どうしたいのか…?」

「うん。もうこのまま一生話したくない?会いたくない?」

「…違う…と思う。」

「でしょ?じゃあ先ずは、会って。それから話さなきゃ。」

「うん。でも、どうやって…」

「そりゃ、電話でも良いし、学校でも良い。
桜子さえ良ければ、二人きりで会っても良いじゃない?」

電話の向こうで、先生がニヤッとしたのが解った。

「…先生のイジワル。」

「ははは…まぁ、今日はちゃんと飯食って。ゆっくり風呂入って、ぐっすり寝な?
その辺りの事は、目が覚める頃には自然と決まってるもんよ。」

「…先生も…おんなじ様な事あったんだ…?」

「む!!それは今はノーコメントだ。…またゆっくり話そう。」

「うん。本当に ありがとう祭先生。」

「よしよし。桜子は良い子だ。無理しないでな?
また掛けるから。じゃあね」

「お仕事頑張ってね。先生も無理しないでね…また。」


ピッ

ツーッ ツーッ ツーッ



…玄関に座りっぱなしで、足が痺れちゃった。

ゆっくり立ち上がって、カーテンを閉めに行く。

空は もう真っ黒だった。






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