夜・桜SS

□noise
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もうすぐ梅雨だというのに
よく晴れている。

まるで真夏のような日差し
けれど、風は程良く涼しくて
夏が好きな自分としては
今日は最高の天気だった。

土曜日 いつもの呼び出し
…だが、今日はデートじゃない。


「そろそろトランスの訓練をしましょうか。」

と、昨日学校からの帰り道で
雨宮にポツリと言われて。

…そういえば俺、トランス出来ないんだっけか…

いつも誰かがしてくれるから
自分から発する事が出来ないのを
すっかり忘れていた。


「…情けねぇ。」


完璧を求める訳ではないけれど
出来ないからと言って他人に頼りっぱなし…

それは 嫌だ。


「もっと強くなりたい」

それは常々思う。

だから、強化の必要がある部分がはっきりしたのは良い事だ。


約束は 雨宮の部屋
向かう途中の道には
色とりどりのアジサイが咲いていた。

濃紺、紫、赤紫
ピンクに…白

「あ…」


淡い水色の花に目が止まる。

理由は すぐに気づいた

…アレ、雨宮の髪の色だ
それから 隣の深い青が俺。


あまり身長の変わらない俺達が
並んで歩いていたら、あんな色に見えてるんかなぁ…?


明るい日差しの中
鮮やかな色。

空の青とも違う
花のグラデーション…

純粋に綺麗で見蕩れていた。



多分、俺が気づいていないだけで
かなり長い間、そこでボーっとして居たんだと思う。


ポケットの携帯が鳴り響いた。
慌てて取り出して通話ボタンを押す

「…約束、時間過ぎてるわよ?」

「ご…めんなさい。今途中っす」

プツ…ッ
ツーッ ツーッ ツーッ


一言だけで切られた…。

「はぁぁぁぁぁ…」

自分は何時間でも人を待たせるクセに…

ほんの少しだけイラっとするが
それよりも玄関を開けたら
雨宮がどんな顔をしているか…

「はぁぁぁぁぁ…」

それを心配する自分の方に腹が立って
二度目の溜め息を盛大に吐いた。


***


ピンポーン…

マンションのオートロックのドアの前で反応を待つ。



ガチャッ!!

「…??」

返答が無いのに 勝手にドアのロックが解除される。


…そ、そんなに怒ってんの?

ドアを開けるのを躊躇っていると
マイクとは違う場所から雨宮の声が聞こえた。


《もう!何してんの?早く入りなさいよ》

あ…

見上げると、マンションの屋上らしき所から
WMJが自分に向かって伸びているのが確認出来た。

《テレキネシスで部屋の解除キーを押しただけ。びっくりしないで》

《あー…ビックリはしたんだけどさぁ》

《何よ》

《…いや、雨宮怒ってんのかなって…》


…暫しの無言



《別に。それより早く入らないとまたロック掛かるわよ?
二度も手間を取らせたら…怒るわ》

「!やっべ!!」

急いでエントランスへ滑り込む。

《今日は部屋じゃないから。最上階のボタンを押してね》


そこで ふ…っと、接続が切れるのを感じた

いつも この瞬間が何故か切ない。


エレベーターに乗り込み
言われた通りに一番上の階のボタンを押した


微かな機械音と上下する重力。

スーッとエレベーターの戸が開く

屋上だとばかり思っていたが
着いたのは普通に最上階。

「…?」

辺りを見回していると
見覚えのある水色の髪…

しかしソレは通路の外にあたる場所にぶら下がっている

「…何してんですか…雨宮さん?」

「んっしょ!あ…眼鏡落ちちゃう。こっちよ、ここを足場に登りなさい」

逆さ吊りの少女が指を指したのは
どう見ても[外壁]にある梯子…
のようなモノ。

「りょーかい。」

普通の人間がこれを登れと言われたら[自殺しろ]って意味になりそうな所だ。


柵に登り、ライズで跳躍して梯子を掴む。
下を見ると、豆粒くらいの大きさの人間が数人往来していた。


「ほら!見つかったら大家さんに怒られちゃう!早く上がりなさい」

いきなり近くで声を掛けられ
少し手が滑った。

「…今行きマース…」

いくらライズが使えようと
この高さから落ちて無傷でいる自信は無い。

俺はいそいそと梯子を登りきった。



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