夜・桜SS

□noise
2ページ/3ページ


***

「ほ!…っと。」

コンクリートに両足を乗せる

漸く落ち着いた所で雨宮を仰ぎ見た。


日傘を差した彼女の表情は
心なしか曇っている。


「…遅くなりました。今日はトランスの訓練、宜しくお願いします!!」

先手必勝…!!
勢い良く頭を下げて、とりあえず…
とりあえず、謝っておく。


「…怒ってないよ、夜科。大丈夫…。」

「…? 雨宮??」


顔を上げて 再度顔色を伺う。

…アレ…?

「なぁ、雨宮…調子、悪くねぇか?何か顔色が良くないぞ。」

見間違いではない
やっぱり何処かが変だ。


「…自分のね、祭先生とのトランスの訓練を…思い出していたの…。」


そういって雨宮は東を見た。

その面持ちは 何だか辛そうで…



真っ青な空によく映える
白い日傘。

穏やかな風にサラサラとなびく髪は…

やっぱり あのアジサイの色だ。


俺はそんな事を思いながら

雨宮は、多分祭先生の事を思い出しながら


しばらく二人で立ち尽くしていた。






「さてと…!」

雨宮が振り返る。

「訓練、始めましょうか。」

「お願いします…。」


正直、あの雨宮が青ざめるような訓練なんて想像が出来ない。

一体何をするんだか…


「不安?」

「あ…うん。まぁ。」

「大丈夫よ。私が付いててあげるんだから。」


そう言って、小さな折り畳み椅子をどこからと無く取り出し
広げてそれにちょんと腰掛ける。


「…で」


立ちっぱなしの俺は

一体何をするんですか…??


「もし気分が悪くなったら、すぐに跪きなさい。」





「…倒れるといけないからよ。」


えええええええ!?



「先ずは、さっき私が此処一体に散らしたトランスの残留思念を感じ取ってみて。」

「あぁ…ただボーっとしてたんじゃなくて、準備してたんだ。」

「あまり長くは残らないのよ…ほら、目を閉じて。」

言われた通りに目を閉じる。

「心を、澄ますの。」

「??心を…」

「話さないで!何も考えないで、先ずは空っぽになりなさい」


………。


何も考えるなって…


ん?どうするんだ?



あぁ、心の中でも[言葉]を発しちゃいけないんだろうか。




………




(ガタン…ゴトン…)

(きゃははは)

(ピピピ…ピッ…)

(ガシャ、パリーン!)



「………。」


「どう?自分が静かになっても、色んな音が聞こえてきて難しいでしょ?
つい反応しちゃうわよね?」


あああ、確かに。

すっごく集中できねぇよ

何か割れたりしてるし。


「でもそれで良いのよ、その調子。次に、もっと深く自分の心を鎮めるの。
そうね…例えるなら、目を開けずにもっと周りを感じてみなさい」

「?」

「色、音、風の感覚や匂い…そういったモノを身体でなく心で享受するの
…やってみて。」


………




感じ取る…とゆうより
想像するのに近いんだが。

目を閉じたまま

先ずは 空の色を思い浮かべる

鳥のさえずりから
飛んでいる様を

風が揺らす木の葉

遠くの電車

ジリジリと肌を焼く太陽



…俺を取り巻く空気一帯。


あぁ、なるほど。

[心の耳を澄ます]

そんな感じだろうか。


2メートルも離れない所に
雨宮が座って居て…


んん!?


「あれ?何で祭先生が此処に…
…って、アレ??」


思わず、目を開ける。

「今、雨宮の隣に祭先生が…」


「居たような気がした…でしょ?」

「あ…うん。」


「合格よ、上出来じゃない![祭先生の存在]の残留思念。
上手く感じ取れたみたいね。」

「何か本当に居るみたいでビビッタよ…」

「よしよし。先ずは[享受]の初歩、クリアね。」

そう言って満足そうに雨宮が笑った。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ