<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「●〓△ fix the boundary △〓●」(月夜野さる著)
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静かに駐車場に足音が響き渡る・・・身を潜め見守る長官の手には銃が握られ、その手は緊張の為か汗が滲んでいた。ワタリはゆっくりと歩きながら辺りの気配に気を配り続ける・・・殺気にも似た何者かの気配はある一定の距離を取り、こちらの出方を伺っている様だった。ワタリは長官の車に近付くと辺りを何度か見回し、鍵を開けようとポケットの中に手を入れた。
それを確認したのか、急激に近付いて来る気配にワタリは振り向き突き出されたナイフをかわした。

『 !? 』

切りかかって来た若い黒髪の男は、驚きながらもナイフをかわしたワタリの方へと振り返す。ワタリはその振り回して来た腕を掴み、ナイフを奪うと男を思い切り床に叩き付けた。

『ぐわっ!』

奇妙な呻き声を出しコンクリートの床の上で悶える男を見下ろしながら、ワタリは違和感が拭いされない事に気が付いた。

《 殺気を出していたのは・・・・この男・・?・・・・・いや、違う・・・!? 》

ワタリの次の行動を封じる様に、背中から何か強い衝撃が身体中を駆け巡った。

『 !? ・・・・しま・・・った・・。』

そう言いながら床に膝を付くワタリの背後から、ゆっくりとした足音が聞こえて来た。その足音はワタリの攻撃範囲外で止り、呆れた様に低い声で呟いた。

『・・・流石はFBIの長官と言った所かな・・・それともこの銃の威力に問題があるのか・・・・?まぁ良い・・・おい、だらしない奴だな・・・・さっさと立て。』

先に襲いかかって来た男にそう言うと、若い男は痛みを堪えながらも立ち上がりワタリの顔を蹴り上げた。ワタリの唇からは血が流れ、その身体は床に転がった。

『・・・ウルセェな!相手がジジィだと思って、少し油断しただけだ・・・このクソ野郎が!?』

再び蹴り上げようとする足をワタリは掴み捩じ上げると、男は意図も簡単に尻餅を付いた。後から近付いて来た低い声の男は呆れた様に呟き、ワタリに近付く事なく何かを撃って来た。チクリとした痛みが右の太腿辺りに走った。
その部分に手をやるワタリに低い声が告げる・・・。

『安心したまえ・・・単なる麻酔だ。直ぐにきいて来るから暫く眠るが良い。息子に会えるぞ?』

その言葉を告げると、若い男に向かって足音が近付いて行くのをワタリは感じた。若い男は近付く者の徒ならぬ殺気に怯えながらも、自分の主張をし始めた。

『・・・な・・・何だよ!?俺は失敗したけど、結果オーライじゃねぇか。ちゃんと約束した報酬くれよな!!』

ワタリは若い男に降り懸かる災難を予見しつつも、身体が思う様に動かないでいた。その様子を一瞥しながら、低い声は冷酷にこう言った。

『哀れな男だ・・・これから降り懸かる災難に気付かないとはな・・・。』

『 ? ・・・あぁ、そうだな。あんたがこいつをどう料理しようと勝手だが、俺には関係ない事だろ?さっさと・・・・!?』

男の声はそこで途切れ・・・冷たい床に崩れ落ちた。薄れて行く意識で、ワタリはきな臭い硝煙の臭いを感じ取った。自分の油断が引き起こした悲劇だと思うも、どうにもならない身体に苛立ちを感じ・・・・そして意識が閉じた。若い男の身体からは鮮血が流れ、辺りを染め上げて行く―――低い声の男はそれを冷たい目で見下ろし、馬鹿にする様に鼻で笑うとワタリを運ぶ為の準備に取り掛かった。
2台離れた場所に止めてある車までワタリを引き摺り、後部座席のドアを開ける。せして物でも放り込む様にワタリを積み込んだ。横たわるワタリの両手を後に回し、用心の為に手錠をかけドアを閉めた。辺りを見回しながら車に乗り込む男を確認した長官は、直ぐに自分の携帯を取り出し自室にいる部下達に今目の前で起きた事態を伝えた。

『・・・・スミス!緊急事態だ!?急いで駐車場の出口に向かえ!?白の車・・・ナンバーは・・・FJ7602だ・・・ワタリが白髪の男に拉致され、そいつはご丁寧に仲間を殺していきやがった!!確保するな、泳がせてアジトを探るんだ!!』

電話を受け取ったスミスは、部下を1人連れて部屋を飛び出した。エレベーターホールに走る途中、携帯を取り出し階下に居るであろう部下に命令する。

『トーマス、今何処だ!』

『スミス捜査官!?一階ロビーです。』

『外だ!白の車が駐車場から出る、それを追うんだ!?但し確保はするな・・・早くしろ!!』

トーマスがロビーから外を見ると猛スピードで走り去る一台の車が見えた。急いで飛び出し路上に停まっていた車から運転手を引き摺り降ろす。

『・・・おい!いきなり何しやがる!?』

怒りを顕にする運転手にトーマスは、バッジを見せ自分の身分を明かすと車に乗り込んだ。

『FBIだ!緊急事態が起きた・・協力を要請する!?』

『えぇ!?』

『ご協力感謝する。』

トーマスは有無を言わさずにそう言い切ると、アクセルを踏み走り去った。呆然とする運転手・・・エレベーターで降りて来たスミス達は、残された運転手の元に駆け寄り質問した。

『おい・・今白い車を誰かが追い掛けて行かなかったか!?』

その質問に運転手は不愉快そうに言葉を返す。

『追って行ったぜ?俺の車でな!』

身振り等を混ぜ嫌な気持ちを表現する運転手を物ともせず、スミスは何事も無かったかの様に答えた。

『そうか!?何色の車だ?』

『 は!? 』

『君の車だ!?』

『・・・赤のフォードだよ。』

怪訝そうに言う運転手を後目に、スミスは自分達の車に乗り込むとエンジンをかけ走り出した。運転する自分の部下に赤のフォードを追う様に告げると、再び携帯を取り出しトーマスに連絡を取った。
一定の距離を取りながら白い車を見失わない様に運転するトーマスの携帯が鳴り響く・・・。

『トーマスか!?今何処だ!!』

『高速を東に向かって走行中、今の所異常は見受けられません。』

『分かった、こっちはお前の信号をナビで追いながら向かっている。決して見失うんじゃないぞ!』

『了解。追跡を続けます。』

スミスは携帯を切り車に積んである追跡システムでトーマスの信号を追うと、トーマスはスミス達よりもかなり離れた所を走行している・・・追い着くには暫く時間が掛かりそうだった。

『くそ・・・』

悔しげに呟くスミスは前を行く車の群れを恨めしげに睨んだ。

もうどの位の距離をあの赤い車は追跡しているのか・・・いい加減鬱陶しく感じ始めていた。上手く隠れているつもりだろうが、赤の車を選んだ時点で失敗する事だとも考えていた。

『さて・・・・予定内の事とは言え、如何した物か・・・。』

何処か楽しむ様に呟く男の声に、ワタリは意識を取り戻した。若干視界はぼやける物の、後遺症も支障も無さそうだと考えていた。その状況の中、現在の自分の状況を把握すべく目を動かす。フロントガラスの向こうに見える標識から、高速に乗って移動している事が伺えた。運転席には先程の男が見える・・・同乗者がいない事、協力者を簡単に始末する行為から単独犯である可能性が高い・・・用心深いのだろう、自分の両手は背後で拘束され身体には未だ痺れが残っていた。指先を動かそうとしても微かに反応するだけで、完全に動く様になるまでには未だ時間を要しそうだった。ワタリはそれでも力の入らない指に力を込め、自分のしている腕時計のボタンを如何にかして押した。

“さっきの衝撃波で故障していなければLの元に信号が届く筈・・・”

嫌な汗が身体や額に浮かぶ・・・それでも意識を失わない様にするワタリに男は気付き振り向いた。男は体格の良い中年で、目撃談通り白髪だった。そしてその瞳は薄い水色で、その冷笑に色を添える程だった。男はワタリの様子を見て驚きながらも、楽しんでいるようだった。

『これはこれは・・・もうお目覚めかね・・・?』

男の言葉に何か言おうとするワタリだったが、その考えとは裏腹に声が出る事は無かった。

『・・・未だ眠いようじゃないか?ゆっくりしたまえ・・・もう直ぐ息子にも会えるしな。だが・・・その前にハエを追い払わないといけないな・・・。』

ハエ・・・・?異変を察知したFBIが追って来ているのか・・?追い払う・・・?そう考えるワタリに再び冷笑を浮かべると、男はダッシュボードから銃を取り出した。

『 !? な・・にを・する・・・つも・・り・だ・・。』

辛うじて出た声に男が銃を手に振り向く。

『はっは・・・驚いたな。これは流石だなと言うしかないな!・・・見ての通り・・・ハエ退治さ・・・・』

『や・め・・・ろ・・』

無駄に殺すな・・・ワタリはそう言い掛けた。だがその声は男の声に消された。

『止めろ?・・・嫌だね。これは復讐への第一歩に過ぎない・・・お前はそこで何も出来ない悔しさを抱えながら寝ていれば良いんだ。』

復讐・・・・?逆恨みか・・・それとも・・・・考えようとするワタリの意識が薄れて行く・・・。それに抵抗しようと首を振るワタリに男は冷笑を浮かべながら言った。

『・・・俺の名はファタ・・・この先お前達親子に希望など無い・・・これは開始を告げるラッパの音だ。』

ワタリの目の前が暗くなり、音だけが聞こえて来る。ファタは車のスピードを一旦上げ、追跡するトーマスから離れた。トーマスはその様子に慌て、アクセルを踏み込む。ファタの車は高速を降り、一般道へと降りて行くのを辛うじて確認したトーマスは急いで後を追った。高速を降りる車と一般道を走る車が交差し、似た様な車も増えて来る・・・ナンバープレートも確認し辛い状況にトーマスは焦った。

『く・・・スミス捜査官に連絡を・・・!』

交差点の信号で止まるトーマスは携帯を掛け始めた。その直ぐ横に静かに白い車が停車する・・・

『・・・・早く・・・』

中々出ない電話にトーマスは苛付き、ハンドルを叩いた。そんな時・・・目の端に白い車が見え、ゆっくりと振り向き・・・愕然とした。自分の直ぐ横ギリギリに車が止まり、その窓がゆっくりと下がって行く・・・・その窓から現れたのが黒く光る銃だと知った時は全てが遅かった―――。
信号が変わった瞬間・・・車のバックファイアの様な音が鳴り響き、一斉に停車していた車が走り出す・・・。ファタの乗る白い車も窓を閉じながら走り出し、その場から去って行った。ただ一車線だけ・・・先頭の車が動かない為立ち往生していた。何度クラクションを鳴らしても動かない車に、後続の運転手が車から降りトーマスの車を覗き込みながら怒鳴り付けた。だが、その怒号も直ぐに悲鳴に変わった。

『・・ったく、テメェ何してやがんだ・・・?あ・・・し、死んでる!?』

トーマスは頭から血を流し、ハンドルに寄りかかる様にしていた。その手に握られた携帯からはスミスの声が虚しく響いていた―――。

『・・・マス・・・トーマス!?如何した・・・・!!』

高笑いし車を走らせるファタの声を、ワタリは意識が完全に切れるまで聞いていた。

暫くして現場に着いたスミスは、既に到着していた警察官達の合間を縫いながら車に近付いて行く。それを見た警官数人がスミス達の行く手を阻んだ。

『おい・・此処は立ち入り禁止だ。』

そう言って前に立ちはだかる警察官達に、スミスは上着からバッジを取り出し掲示した。それを見て互いの顔を見合わせる警察官達にスミスは現場から退く様に命令した。

『この件は我々が処理する。君等には聞き込み等から得た情報を後で提出して貰うからひとまず下がりたまえ。』

『はぁ?』

若い警官が反発心を顔に顕にしながらそう言うと、スミスはその顔を見ながらこう言い切った。

『何か言いたい事があるなら何時でも本部に来てくれたまえ。歓迎するぞ。』
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