<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「ひぐらしの啼くケロに 穀潰し《ごくつぶし》編」(さる作)
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その様子を見ていた96は不審・・もとい不思議そうに小首をかしげ徐にこう呟いた。

『嘘だ・・・本当は何考えてたのカナ?カナ?』

その顔が余りにも嫌味な薄笑いを浮かべていたのにK一は驚いたが、ここで引く訳にもいかない状況でもあるので一先ず笑顔で誤魔化そうとした。

《 ゲロ・・なんつう嫌な表情を・・・・いや、しかしここで引く訳にも・・・》

『い、嫌だなぁ96・・どうして俺が嘘つかなきゃならないんだよ〜〜。』

『嘘だ!?』

普段からは考えられないほどの大きな声でK一の言葉を否定する96・・・その行為に驚き言葉を失ったK一に96が追い討ちの様に言葉を続ける。

『・・・どうして嘘つくのカナ〜〜?何か後ろめたい事でもあるのカナぁ?・・・ククク〜〜K一さん・・・怒らないからちゃんと言って欲しいな?』

何かもうどうして良いのか分からなくなりかけているK一だったが、ひとまず冷静になろうと努力し始めた。しかしそれも96の疑わしい満載の眼差しに押されままならない・・・・そこでK一は苦し紛れにこんな事を口走った。

『え〜〜と・・・その・・・じつは〜〜祭・・そうお祭りで何か一発芸でもと思って練習していたでありますよ!?』

一瞬・・・空気が肌に突き刺すほど凍り付いた感じがした―――。
96のリアクションの無さに、Kーはやっばり通じる訳無いか・・と冷や汗をかいていた。普段大人しい子ほど怒ると手がつけられないと言うし、先程の勢いからしてそうとう言われるだろうと半ば覚悟を決めていた・・・しかし、96は意外にもニッコリと微笑んで嬉しそうに話し始めた。

『うわぁ・・・Kーさん、それは凄いねぇ!きっとギーちゃんや皆も喜ぶよ〜〜。』

『ゲロ?・・そ、そぅお?やっぱり?』

余りにもアッサリ受け入れられた事に、Kーはかえって不気味さを感じた。しかし自分から話を蒸し返す事も出来ず、取り敢えず浮かべた苦笑いを続けるしか無かった。
96は何とも言い難い嫌な笑みを浮かべながら、練習の邪魔をしちゃ悪いからと帰るねと言った。

『じゃあね・・K一さん、練習頑張ってね?ね?』

『あぁ・・が、頑張る・・・って言うか、送って行かなくて良いのかな?』

『ん〜〜送って行ってほしいけどぉ〜〜・・・邪魔になるから大丈夫・・ククッ!』

・・・いまの“邪魔になる”と言うのはどっちの意味かな〜〜と思いつつ、Kーは96を見送る事にした。

『じゃあな、気を付けろよ。』

『はぁい、ばいば〜い。』

そうして96は夕暮れの山道を、振り返っては笑い・・振り返っては笑いしながら去って行った。Kーはそれを見ながら段々と気持ちが傾いでいくのを感じていた。

『・・・・何なんだ・・・ま、まぁ気持ちを切り替えて我輩も帰るとするか!』

薄闇に暮れていく山道を、Kーはゆっくりと歩きはじめる。始めの内は聞いた話や皆の事を考えながら歩いていたが、ふとした瞬間から妙に背後が気になり始めた。
何と無くではあるが、もうひとつ足音がする・・・そんな気がしてならない・・・しかし振り返って見てもそこに人影は無く、今歩いて来た山道が奥へと続いているだけだった。

『ゲロ・・・何か気味悪ぃな・・・早く帰るであります。』

少し向こうには民家の明かりが見えている。とにかくそこまで歩けば、この妄想・・・と言うか人がいるかも知れない幻想も消えるはずとKーは思った。だが・・・・Kーが歩みを早めれば早く・・・・遅くすれば遅くなるもう一つの足音は、確かにKーの誰もいない背後から聞こえて来るのだ。
背筋が氷水でも流されたように冷たくなる・・・徐々に上がる鼓動が、息苦しさまで伴いはじめる・・・走り出したい衝動を抑え、これは気のせいだと無理矢理恐怖を押さえ付ける。

『あと少し・・・あと少しでお家の前〜♪』

と・・・明るく振る舞い慰めのような独り言を呟いた瞬間、Kーの肩を誰かが思い切り掴んだ。

『ゲ――ロ―――!?』

絹を裂くようなKーの悲鳴は辺りに響き渡った。

『おた・・お助け・・・じゃなくて、だだだだ誰だ!』

半ば腰を抜かしへたりこんだKーは、涙目になりながらも振り返りそう怒鳴り付けた。
そんなゲームで言うならばバーサク状態のKーがそう怒鳴り付けてみても、何の反応も返っては来る筈も無く・・・そこにはただ山道が続いているだけだった―――。

『――――っ!? 何か分かん無いけどごめんなさ――――い!!』

Kーは真っ青になりながらそう叫ぶと、猛スピードで村の中へと走り去って行った。そして何処をどう走ったのか分からぬまま家に着くと、物凄い勢いで自室の布団の中に飛び込んで行った。

『Kー?帰ったの??』

しばらくして母がドアをノックしながらそう問い掛けて来た。Kーはその声でようやく我に返ると、慌てて返事をした。

『あ、あぁ帰ったよ!』

まだ多少動揺している様な声だったが、母は気付かない様子でKーを窘めた。

『あなた“ただいま"も言わないし、ドアも凄い勢いで開けて・・・どう言うつもりなの?』

まさか何か得体の知れない物に驚いて帰宅したとは言えないKーは、とっさに苦し紛れの言い訳を口にした。

『あ・・・えと・・・と、トイレ!トイレに行きたくてさ――!』

『は?』

『その・・何か腹痛くて・・・かなり切羽詰まってたと言うか・・・。』

ドアの向こうの母からの反応は無かった。そりゃそうだよな〜〜ちっと苦しいよなぁ〜〜とKーが考えた時、ドアの向こうから笑い声が聞こえて来た。

『・・・ぷっ!フフフフ・・・ヤダー!それなら納得よね〜〜クスクスクス・・・で?もう大丈夫なの?薬持って来る〜〜?』

『や、もう大丈夫!ととと取り敢えず、何か温かい物が欲しいかな〜〜。』

『はいはい・・ホットミルクでもいれるからリビングに来なさいね?』

『わ、分かったでありま〜〜す。』

Kーの返事を確認した母は、まだ笑いながら台所へと歩いて行った。

『・・・ゲロ・・・通じちゃったよ・・・。』

去って行く足音を聞きながら、Kーはそう呟いた。そして我が母ながらなんて呑気なんだろうと思った・・・しかし、その呑気さ故に自分の気持ちが落ちついたのも感じていた。
・・・同時に感じているこの激しい動悸・・・それは先程体験した恐怖と逃げる為に生じた物なのだと改めて認識する。それを感じながら自分の掌に目をやれば、冷たくなる体温とは裏腹な汗が滲んでいた。

『何だったんだ・・・さっきのあれは・・・―――。』

小さく呟く事で蘇る掴まれた感触に身震いする・・・。

『・・・・ま、まいっかぁ〜〜〜!あんまり考えても仕方が無いしぃ〜〜分かんない物は分かんないし、うん!止め止め―――!・・・と、そうと決めればお茶でも飲むかぁ――!?』

Kーは考えれば考えるほど嫌な方向にしか行かない思考にストップをかけ、得意の切り返しでその出来事自体を忘れる事にした。元々器用なのが幸い(?)して、Kーが夕食を食べ終わる頃には綺麗サッパリ忘れられていた・・・。

『んじゃ、俺・・部屋に戻るね〜。』

満足げな笑みを湛え、母にそう告げる。

『あら?デザートは?今日はスターフルーツなのに・・・。』

足早に自室に向かっていたKーの足が止まり、まるで巻き戻した映像の様な足並みで戻って来た。思わず吹き出してしまいそうな行動に、母は込み上げる笑いを必死に堪えスターフルーツの乗った皿をKーに差し出した。

『うひょ〜〜〜、うっまそう〜〜〜!いっただっきまぁす!?』

そう言うが早いかKーは両手にスターフルーツを掴むと、幸せそうに食べはじめた。母はそれを見つめ安心したのか、にっこりと微笑み呟いた。

『やっとKーらしくなったわね。何を考えてたのか知らないけど、Kーらしくなくなっちゃ駄目よ?』

まるっきりバレバレの母の言葉に、Kーは思わずスターフルーツを吹き出しそうになった。そして照れ臭そうに母の顔に視線を上げ、バツが悪そうに口を尖らせながら問い掛けた。

『・・・何で・・・分かった・・・?』

その問い掛けに、母は大笑いをしながら軽く答えた。

『そりゃあ何時もいらないくらい元気が有り余ってるKーが、今日帰宅したらずっと部屋にこもりきりでしょ?・・・あんた小さい時から嫌な事とか気まずい事があると篭るもんね・・・で?どうしたの?ギ音ちゃんと喧嘩でもした?』

今度は本当にスターフルーツを吹き出したKーは、物凄い動揺っぷりで母に言葉を返した。

『な・・・ど・・・・ギ・・・?』

ほとんど言葉になっていないにも係わらず、母はケロリと返事をする。

『何でって?あんたが帰る少し前に、ギ音ちゃんが来たのよ。どうしたのって聞いたら、Kーにすまない事をしたって言って・・・駄目よ〜〜、あんなに可愛い子虐めちゃ〜〜。』

ギ音がワザワザ来てくれた?・・・照れ臭いやら、悪い事って何だとかを考えるKーに母は留めを差す。
ゆっくりとKーの耳元まで近付くと、ニヤリと笑いながらこう囁いた。

『で・・・何処までいってるの・・・?』

『 !? な、な、な・・・何を言ってんで―――!!』

立ち上がりかけたKーは、椅子の足に躓きそのまま後へとひっくり返った。その余りの動揺っぷりに目を丸くして驚く母に、Kーは顔を真っ赤にしながら必死に答える。

『ちょっと―――!何言ってんの―――!?我輩とギ音はそんなんじゃ無いでありますよ―――!!・・・って言うか、母さん親父臭―――!?』

『あらぁ違うのぉ?そっかぁ〜〜残念・・・。』

心底残念そうな母に、Kーは脱力感を覚えた。そんな母を見詰めつつ、まぁ・・・来てくれた事に関しては、嬉しかったのは事実なんだよなと一瞬考えた。すると、まるでそれを見透かしたかの如く母はKーにこう告げた。

『とにかく女の子に悲しい想いをさせちゃ駄目よ?ギ音ちゃん良い娘だし、母さんお嫁さんにするならギ音ちゃんが・・・』

『わ、我輩部屋に戻るでありま―――す!?』

Kーは残っていたスターフルーツを皿ごと手にすると、脱兎の如く居間を後にした。
階段を一気に駆け上がったせいで胸がドキドキしているのか、母に言われた事でドキドキしているのか分からないがKーはかなり動揺していた。

『・・ま、まったく、突然何を言い出すのかと思えば・・・はやとちりも良いとこでありますなぁ。』

そう言いながらも、実際はギ音の事は気になる・・・そんな気持ちを見透かされたのかなと、Kーはスターフルーツをひとつ口に放り込みバツが悪そうに頭を掻いた。

『・・・そんなんだったら、あんなに慌てて帰って来ないっつぅの・・・。』

ドスンとベッドに腰掛けると、家に飛び込んだ原因を思い出した。掴まれた肩の感触・・・振り返り誰も居なかった道・・・怖い物見たさが無い訳ではないが、それはあくまでも“自分は部外者”的な立場での事・・・・・自分自身が体験するとなると、意外に自分が臆病だった事に気付かされ嫌な気持ちになる。

『・・・気分直しにガンプラでも作るかな・・・。』

Kーは何時の間にか空になった皿を机に置くと、押し入れの扉を開け大切に保管して置いたガンプラを取り出そうとした。

『ん?・・・あれ・・・っかしいなぁ〜〜・・・みんな空箱でありますか?』

そう呟きふと思い出した。

《はっ!・・・そうだ!? この前、我慢できなくて最後の一つを・・・・え!? じゃあ、無いって事ぉ!!》

Kーは崖の上から突き落とされた上に、踏まれて蹴られた様な衝撃を受けた。どんなに嫌な事があっても、ガンプラを作ればすべて忘れられた・・・まさにKーにとってのオアシスが消失してしまったのだ・・・。
その落胆振りは並外れた物となった。ガックリと肩を下ろすKー・・・購入する事も考えたが、町の玩具屋にある訳も無く通販するにも日数がかかり過ぎる・・。

『ど・・・どうすれば・・・』

他に音楽を聞くとか本を読んでみるとかありそうだが、Kーの頭の中はもうガンプラで一杯になっていた。
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