(´ω`)φ【wammy's invention laboratory】


□「The Most Powerful Thing In The World」(さる作)
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『今日も無事、終わりましたね・・・。』

『あぁ・・・そうだな。』

眼下に広がる紅蓮の世界・・・今日も俺は生き延びる為に、戦いに身を投じ勝利を得た。
心に何か・・・消えようの無い染みを1つ付けながら・・・・・。

帰還する間も帰還してからも、その染みは消える事無くゆっくりと俺を蝕んでゆく。
食べる時も寝る時も何をしていても―――。
背中に覆い被さる《罪と罰》が思考を止めようとしている。

戦わなければ自分が消える。
自分が消えれば何が残るのか。
他人を消して自分に何が残るのか。

考えてはいけない事だと知りながらも、止めようの無い思考に心は益々苛まれる。
国を・・・自分を守る為に理性さえ捨て、狂気に近い心で銃を持つ。

俺はいったい何なのか・・・。
俺に価値はあるのか・・・。
世界に価値は必要なのか・・・。

誰も居ない薄闇の部屋で、毛布に包まりながら震える手。
窓から差し込む光は本当に街の灯りなのか・・・。
的を探すサーチライトの光ではないのか・・・。

現実と非現実の境目で、俺は何かを捜して蠢く。
手に取るのは銃、高まるのは鼓動。
俺は何をしたいのか、俺は何を求めてるのか。

思い浮かぶのは最後を悟る者の瞳。
悲哀、恐怖、憤怒、思慕・・・・
そう言った物を感じてしまう俺の心の弱さ。

俺の存在意義とは・・・・?
カチリ・・・銃が音を立てる。
差し込む灯りに浮かぶのは、本当に俺の影なのか?

すべてを闇色に塗り替えてしまえば、こんな答えの出ない思考から抜け出せるのか・・・。
そんな思いに囚われそうになる。
動く影・・・乾く唇・・・鳴る電話・・・。

『・・・・あ、センパイ? 俺、俺〜〜。』

耳に響くのは唯一の・・・・。
思い掛けない自分を呼ぶ響きに、先程までの自分が消えて行く。
何故か浮かんだ涙。

『クルルか・・・? どうした・・・?』

『ん? んにゃ、特に用は無ぇよ? 無事に帰還したっつ――から・・・寝てた?』

何気無い会話・・・温かくなる胸・・・戻ってゆく思考・・・。
俺は何をしようとしていたのか。
俺は《罪と罰》を放棄しようとしていたのか。

俺が相手から取り上げた物、これから先に続く道を奪った事。
どんな言い訳も通用しない。
俺が軍人である限り、この想いは続いて行く。

『・・・・センパイ・・・・大丈夫か? いまから行こうか?』

思いやる心・・・熱くなる想い。
見せてはいけない、感じさせてはいけない。
俺が見てきた物、感じてきた物すべてを―――。

『お前が会いたいからじゃないのか?』

『あんれ・・・・分かっちまった〜〜?』

『はは・・・・来ても良いぞ。美味いコーヒーを淹れてやる。』

『マジ? おっしゃ、速攻行くぜ〜〜!』

受話器を置く自分の手はもう震えていない。
これが俺の現実、ここが俺の生きている国。
戦う事を選んだのは自分。

愛しているから、守りたいから、求めているから。
安全で安心できる平和を、人々の家族の恋人の笑顔の為に。
平和を求める為に戦う、例え矛盾する考えだとしても。

何時か・・・・遠い未来に、戦わずともいられる世界になるまで。
俺は自分の守りたいものの為に戦う。
引き裂かれる想いに、心が悲鳴を上げても。

紅蓮の世界に身を置き、漆黒の雲に世界が覆われても
その先にある自分が生きている世界に戻る為に
俺はこの手に銃を持ち続ける。

―――きっとすべての者が望む、同じ思いを抱え俺は立ち上がる。
奪ってしまった者達への敬意を示し、真っ直ぐに背を正し歩き出す。

想い人と再び抱き合う為に・・・俺を待つすべての人々の為に・・・俺は向き合って行く。

そして人生最後の時・・・この手の中に残るのは何なのかを見る為に。
見る世界は違えども、同じ様に生きる為の戦いをするあなたに―――。
この想いを力に変えて、俺は俺を想う人の所へ戻って行く。

『センパ〜〜イ・・・来ったぜぇ〜〜♪』

ノックもせずに飛び込んで来る無作法な恋人。
その満面の笑みに救われる心。

『おう、来たな。』

灯りを点すのは、部屋なのか・・・心なのか・・・。
触れる手の熱さに生きている喜びを感じる。
《罪と罰》を背負いながら―――。       《完》

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