(´ω`)φ【wammy's invention laboratory】


□「大人の階段」(さる作)
1ページ/4ページ

その夜・・・バンブルビーは眠りにつく事ができないでいた。

薄明かりの中・・・頭からシーツをかぶり枕を抱え、背中を壁につけたまま1人震えている。
僅かな物音に怯え、誰かが来るのを待ち続けていた。
そう・・・今夜のように眠れない日には必ず誰かが部屋に来て、自分が眠りに付くのを見守ってくれるからだ。その大概はオプティマスやアイアンハイドだったが、今日は2人が来れるかは分からなかった。
その理由は現在バンブルビーが怯えている事に繋がっている。それは今日の戦いでの事だった―――。

その日の戦いは何時になく激しく、互いの存在を確認しあう事さえ難しかった。そんな中・・バンブルビーは数体の敵に囲まれ、劣勢を強いられていた。1体を倒しても1体がまた襲い掛かる・・・身体中に走る痛みと戦いながら、誰かに届くようにと通信を繰り返した。
きっと誰かが来てくれると信じながら・・・。そして残り1体になるまで戦い抜いたものの、僅かな気の緩みから首を掴まれ宙に吊るされる。


『!?』

『捕まえたぞ!・・・・このチビが・・・・どうやって殺して欲しい!?』

多くの仲間をやられ、自分自身もバンブルビーに傷付けられている敵は凄みのある声でそう言った。戦場では良くある光景・・・そう言えば片付いてしまう事だが、バンブルビーにとっては身も凍る記憶に繋がる物だ。
それは遠い記憶の隅に置かれた恐怖の記憶・・・メガトロンに声を奪われた時に体感した痛み・・・・。それまで勇猛果敢に戦っていたバンブルビーは、その蘇る恐怖の記憶に背筋を凍らせ逃れようともがく。
だが・・・敵の身体はバンブルビーの倍もあり、いくらもがこうと逃れる事は出来なかった。

『・・・・まだ抵抗するなら、その首砕いてくれる!?』

敵の雄叫びとも言える言葉に、バンブルビーは自分の終わりを予感し怯えた。ミシミシと軋む音が耳の響き、息苦しさがその身を襲う・・・霞む意識・・・遠くから自分を呼ぶ声を聞いたのはその時だった。

『バンブルビーを放せ!?』

『何・・・っ!?』

その声を聞き、敵が振り向いた瞬間・・・バンブルビーを掴んでいた腕が切り落とされる。獣の叫びのような声が上がり、同時にバンブルビーは切り落とされた腕と共に地面へと落下した。
そんなバンブルビーを受け止めたのは、敵の腕を切り落としたサイドスワイプ本人だった。サイドスワイプは空中で回転しながらバンブルビーを傷付ける事無く腕を切り落とし、着地と同時にその傷付いた身体を優しく受け止めたのだ。

『・・・・大丈夫か!?』

その心配そうな問い掛けに、バンブルビーは弱々しく頷く。そんな2人の遣り取りを大人しく見ているディセプティコンではない。

『て・・・・手前ぇ!・・・よくもやりやがったな!?』

腕を切り落とされ激しく怒る敵は、もう一方の腕に武器を構え2人に襲いかかろうとした。だがサイドスワイプは微動だにせず、怯えるバンブルビーを優しく抱き締めたまま敵を睨み付けていた。

『2人纏めてぶった切ってやる!?』

敵の構えた武器がいまにも振り下ろされるその刹那・・・その腕に見覚えのある鎌型の武器が巻きつきそれを静止した。次の瞬間・・・それに驚く敵の背にディーノの紅い姿が怒りに燃えながら立っていた。

『・・・手前ぇ・・・誰の許可得てうちの可愛い子苛めてんだぁ・・・・?』

『・・・・放せ!?このクズが・・・・!?』

何時の間にか自分の背に飛び乗ったのか・・・そんな事を考える敵にサイドスワイプの冷徹な声が響く。

『・・・・ディーノ・・・・遊んでないでとっととやれよ・・・・。』

『Si・・・言われなくともすぐやるさ・・・。』

そう言いながらディーノは腕に巻きつけていた武器を解き、それとほぼ同時に右腕の武器を敵の胸元へと叩き付けた。サイドスワイプはその瞬間、バンブルビーの視界を遮り見せないようにする。そしてそのまま背を向け、オプティマス達の元へと向い始めた。

《・・・サイドスワイプ・・・ディーノは?ディーノを置いて行くの?》

心配そうに問い掛けるバンブルビーの遮っていた視界を開放し、優しい笑顔を向けるサイドスワイプはこう答えた。

『ん?なんだバンブルビーは?そんなに兄貴達が信用できないか?』

《そう言うんじゃないけど・・・》

『あいつの事なら心配すんな。あんなのにやられるほど弱かねぇよ。』

ニッコリと微笑むサイドスワイプの顔は、何時もの穏やかなものだった。優しく・・・穏やかで、自分にとっても双子にとっても良い兄貴分であり戦いの指導者でもある。遠ざかって行くディーノも同じ様に想っているのに、今感じているこの例えようもない差は何なのだろうか?
・・・・バンブルビーはこれが自分に足りない物なのだろうかと、そう感じてしまう。

『それよりも怪我が心配だ、早くラチェットに診て貰おう。オプティマスも心配する。』

《・・・・あ・・・うん・・・。》

そう告げスピードを速めるサイドスワイプの腕にしがみ付き、徐々に遠ざかるディーノをバンブルビーは見詰めた。

『バンブルビー!?・・・・大丈夫か!?おぉ・・・これはだいぶ手酷くやられたな。来なさい、ジョルト!手伝ってくれ。』

自分達の基地に戻り、ラチェットと顔を合わせるなり矢継ぎ早にそう言われる。そんなにたいした事は無いのに・・・と思いながらも、皆に心配を掛ける訳にもいかないバンブルビーは大人しく治療を受けた。

『ビー・・・少し痛むかも知れないけど我慢しろ・・・。』

頭を一撫でしながらそう言い、傷の手当てを始めるジョルトもバンブルビーには優しかった。ラチェットは何も言わないが、時折目が合うとニコリと微笑んでくれる。
こんなにも皆が優しいのは、やはり自分が未だ1人前と認められてないからなのかと感じる。

『・・・・うん・・・・外傷以外は特に心配する事はないな。これなら少し休暇を取れば直ぐに治るだろう。だが、もう1人離れて戦闘してはいけないぞ?今回はたまたまディーノとサイドスワイプが間に合ったから良いものの、あと少し遅かったらお前は生きてここに戻れなかったのかも知れないのだからな・・・。』

窘める様にそう言うラチェットに、バンブルビーは俯き小さく頷いた。

《・・・・オプティマスに言うの・・・?》

余り心配を掛けたくないバンブルビーは、ラチェットにそう問い掛ける。声を失った時と同じ様な状況を知ったら、オプティマスが気に病むと思ったからだ。あの時も傷を診てくれたのはラチェットだった。

『・・・一応報告はするが、細かい状況までは言わないでおこう・・・今後、気を付けると約束するならね。』

困った様な表情を浮かべながらも、ラチェットはバンブルビーにそう答える。彼もまた、あの時のオプティマスの悲しみと後悔を知っているからだ。そんなラチェットの答えに、バンブルビーは大きく頷きようやく微笑んだ。

『俺達もお前から離れて悪かった。後でディーノにも言っておくから、お前は部屋で大人しくしていろ。』

『そうだよ、サイドスワイプとディーノがもっとしっかりしてたら、バンブルビーは怪我しなくて済んだんだぜ?全く・・・駄目兄貴だよな――?』

『だから・・・・悪かったって!』

真剣に謝るサイドスワイプにジョルトが笑いながらそう言うと、今度は少しむきになってそう言い返す。そのやり取りがおかしくて、バンブルビーは微笑みながら2人を見詰めていた。
そのバンブルビーの微笑みに、2人もまた安心感を覚える。少しでも恐怖が緩んでくれるならば良いと願いながら・・・・。

『よし・・・じゃあバンブルビーは部屋へ行こう、私が許可を出すまでは休んでいるように。オプティマスに報告をしたら又見に行くからな・・・大人しくしているんだぞ。』

『ほら、ビー・・・送っていくから来い。』

ラチェットの言葉に促され、サイドスワイプが再びバンブルビーを抱き抱える。初めの内はバンブルビーは自分で歩けると言い張って降りようとしたが、サイドスワイプはそれを許さなかった。

《い・・・良いよ!自分で歩いて行く!?》

『こら・・・暴れるんじゃない!良いから大人しくしてろ。お前が思ってるような軽い怪我じゃないんだからな・・・・これぐらいさせろ。』

こう言う時のサイドスワイプの優しげな顔は卑怯だなとバンブルビーは思った。断り難いを通り越して、断れない雰囲気になるからだ。無論、本人もその事を計算して言っている。
ようやく大人しくなったバンブルビーを、サイドスワイプは難なく部屋まで送り届ける事に成功した。室内に入ると真っ直ぐにベッドへと向うサイドスワイプは、静かにバンブルビーを降ろしその身体を横たえた。

『サイドの灯りは点けておくからな。後で水と何か軽い物を持ってきてやる・・・大人しくしてろよ?』

《・・・・そんな何回も言わなくても大人しくしてるよ・・・。》

少し膨れっ面になりながらそう言うバンブルビーに、サイドスワイプは笑いながら頭を撫で部屋を後にした。1人部屋に残されたバンブルビーは、物音がしなくなった事に急に寂しさを感じる。その寂しさから逃れる為にベッドに潜り込み、目を閉じるが眠る事などできる筈も無い・・・浮かぶのは不安から来る考えばかりだった。

《・・皆だったらこう言う時どうしているのかな・・・オプティマス・・・心配かけちゃう・・・・もっと強かったら・・・身体が大きかったらこんな事無いのかな・・・・。》

1度そう言う思考に嵌ってしまうと、直ぐに抜け出す事はできない。抜け出そうともがけばもがく程、余計に深みに嵌ってしまう・・・。そして思い出してはいけない場面へと思考は進み、恐怖が再びバンブルビーを蝕み始める。
今日の敵の顔がメガトロンに重なる・・・あの時のメガトロンはもっと恐ろしく、圧倒的に強く自分がいま生きているのが不思議なくらいだった。あの時・・・・叩き付けられた痛みも・・・声を奪われた時の痛みも覚えている・・・。

《・・・駄目だ・・・駄目だ・・・こんなんじゃ・・・。》

逃れられない恐怖と戦いながらも、誰かが傍にいてくれたらと願ってしまう。きっと大人だったら・・・・ディーノやサイドスワイプくらいに戦えたら、こんな風に考えたりしないんだろうとバンブルビーは枕を抱えた。
そんな時、ラチェットが先程告げたようにバンブルビーの部屋を訪ねてきた。

『バンブルビー・・・まだ起きているか?』

《・・!?・・ラチェット・・?うん、起きてるよ。》

ラチェットの呼びかけにバンブルビーは慌てて枕を放し、僅かに顔を上げその姿を見る。

『あぁ・・・無理をするんじゃない。ほら・・水と食事だ。ここに来る途中でサイドスワイプに頼まれてな・・・食べられそうか?』

《いまはいらない・・・けど、後で食べるよ。で・・・あの・・・オプティマスは何て?》

不安そうに聞くバンブルビーの表情に、ラチェットは小首を傾げながら優しく答える。

『ん?あぁ・・・彼は何度も怪我の具合を聞いて来たが、任務を放り出して帰還するほど悪くは無いと言っておいた。休養すれば何時も通りになるとね。だがやはりなるべく早く帰還すると言っていたな・・・。』

《そう・・・ごめんね、嘘付かせて・・・。》

項垂れながらそう言うバンブルビーに、ラチェットは小さく溜息を付きながら近付き頭を撫でた。

『何を言う・・・お前が元気になれば私は嘘吐きにはならない。それに家族の心配をするのは当り前だろう?』

ニコリと笑うラチェットに、バンブルビーも笑顔を返し頷く。その笑顔を確認したラチェットは、急に真面目な顔をすると再びバンブルビーの傷付いた首元に手を沿え確認し始める。

『・・・・・うん・・・・さっき診たとおり、以前の傷への更なる損傷は何とか免れてはいる・・・。外見上の傷も通常の戦闘時に付く程度に少しおまけが付いた程度だ。だがなバンブルビー・・・我々はもうこれ以上仲間を・・・家族を失いたくは無いのだ・・・1人で戦う事は、例えオプティマスでも危険な事なのだからもうしないように・・・良いな?』

優しく窘められる事が辛く感じるのは、ラチェットの瞳が本当に悲しそうだったからだ。バンブルビーは何も言う事が出来ず、そのままじっとラチェットの顔を見詰めていた。
ラチェットはそんなバンブルビーに横になるように言うと、差し出されていた手を握った。

『オプティマス達が戻るまで休むと良い・・・1人で眠れるか?ここにいた方が良いかね?』

皆の意志であり、友人であるラチェットは全ての健康状態を把握している。それは精神の健康状態も含まれているからこその言葉だった。
その言葉にバンブルビーの胸はトクン・・と鳴る。不安を見抜かれている事と、少しの安心感出だった。きっとここにいてくれと言えば、ラチェットは朝までいてくれるに違いない・・・だがバンブルビーはその申し出を断った。

《・・・・・・・ありがと・・・でも大丈夫。それに後から戻ってくるディーノとかオプティマス達が怪我してるかもしれないし・・・向こうで待っててあげて?》

『しかし・・・』

《大丈夫だよ・・・恐くなったら呼ぶから・・・ね?》

これ以上負担を掛けたくない・・・そんな想いから出た言葉だった。ラチェットは一抹の不安を感じながらも、恐くなったら呼ぶと言うバンブルビーの言葉を信じ部屋を後にする。
少し心配そうにしながら部屋を出て行くラチェットを見送り、再び薄暗い部屋に1人残された。遠ざかる足音が聞こえるうちにシーツに潜り込み、そのまま強引に瞳を閉じてみる。だが眠れる訳もなく、耳鳴りがするほどの静寂がバンブルビーに再び襲い掛かってきた。
それが自分で情けなくて・・・嫌で・・・泣きたくなって来た時、自分の部屋に近付いて来る足音に気が付いた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ