(´ω`)φ【wammy's invention laboratory】


□「シーラカンスは夜 空を飛ぶ」(月夜野さる著)
1ページ/15ページ

第1話  始めの1は死の匂い


この日は確かに変な日ではあった―――。

高校2年になったある日の晩飯時、『あんたもそろそろ本腰入れないと、何をやるにしても不味いんじゃないの?』と母親に言われた事が始まりだった。
何時もならば『あぁ。』と気の無い返事をして適当に流し特に思う事は無かったのだが、この日は何が如何した事か・・・俺にしては前向きな考えに陥ったのだった。

母親⇒専業主婦、趣味は近所のおばちゃん達との井戸端会議&スーパーのチラシチェック 明るいやりくり上手

父親⇒保険会社の営業課長さん、趣味は読書&ランニング 話せば分かる生真面目人間  
妹⇒中学1年生、俺が言うのも何だが・・割合可愛い系 成績俺と同じ中の中 今時ではないが、かなり口は達者 趣味はアクセを買ったり作ったり

犬⇒柴犬の黒で名前はマロ(父命名) 5歳 散歩は走るものと言う認識で育ってしまった忠犬 

そして最後に俺・・・万唆斗(まさと)17歳高校2年、成績中の中の健康男子 趣味はゲーム&ネサフ へんてこな名前のお陰でだいぶからかわれたりしたが、その辺の事はもう慣れたお陰で気にならない・・・・ん?特に変な名では無いだろうって?
・・・・下に名前だけならな・・・・苗字と並ぶと少し・・・特に社会科とか古文とかの先生が言い出す事が多いかな?・・・・苗字は・・・・八百(やお)・・・・続けて書くと八百万唆斗・・・・同級生あたりは八百屋と言われる位で済むのが(それも嫌だが)、先生に掛かると捻られてしまうのが物凄く困るのだ。

『お前の名前は八百万なのか?凄いな、神様の集まりなのか?』

やおよろずと読んで八百万・・・八百万と書いてやおよろず・・・・日本には神様がこんなに沢山居るのよ〜〜〜って・・・・・・。
違ぇ―――――よ!人の名前を勝手に続けて読むなよ!? 俺は八百 万唆斗だ!! 普通の男子高校生だぁ――――――――!? そう言う事をあんた達が言うから、神様〜〜とか言って拝まれたりすんだろうが―――っ!!・・・・・・・・・すまん、熱くなってしまった・・・・・話を戻そう。

そんな家族構成の俺がこの日の母親の言葉に何かを感じたのは確かで、何を思ったのか飯が終わってから直ぐに勉強なんぞし出してしまったのだ。
試験前ですら母親に口煩く言われようやく勉強を始めたものの、小一時間ほどでゲームに興じてしまうこの俺がなんと深夜までやってしまったのだ! これは俺的にも人生の10大事件として入る出来事だった。
何て言うとどれだけ普段やってないんだと突っ込まれそうだが、今日・・・この日突っ込むべき事は此処ではなかったのだ。問題はこの後の出来事だ。

ふと気付けば深夜も1時を回った所・・・あぁもうこんな時間なのかと俺にしては頑張ったなと考えながら、気分転換の為に部屋の窓を開けた。初夏の香りはするものの、夜は若干冷たい空気が残るこの時期・・・・夜空を見上げれば満月がぽっかりと浮かび、その周りを星が煌いている。
空を見上げるなんて久し振りだなと思いつつ、働きすぎて火照った頭を冷やすべく優雅に月なんてボ〜〜っと見ていたりした訳だ。そう言う人が思い切り油断している時に限って物事っつーのはサプライズを送って来るんだよな。そう・・・散歩してたらカラスのフンが降ってくるとかみたいに・・・・。

この時もそうだった。俺がボ〜〜〜〜っと月を見上げていたら、その月の中に何か得体の知れない物が俺の視界に入って来たのだ。

『・・・・ん?・・・・』

疑念の声が思わず零れる程の異常な風景・・・そう言わざるを得ないそれは見ている自分の目を疑った。
だってそうだろう?いくら珍しい事を俺がしているからって、魚の様な物体が満月輝く夜空を泳いでるなんて・・・・もう、夢か幻かって―――の!

『風船・・・だよな・・・?』

そう呟き纏めに入ろうとする俺の意図に反して、その魚と思われる物体は西から東に移動していたのをいきなり進路変更して下降して来たのだった。
その行動に俺はまたまた驚かされるも、それを表面に出したら負けた気がするので平静を装ってみる。

『!?・・・・ら、ラジコンかぁ?まったく・・こんな夜中によくやるよなぁ。』

しかし、声にはかなり明確な動揺が出てしまっている。一先ず落ち着きを取り戻す為にも、ここはひとつ目を閉じて深呼吸してみようと俺は考えた。きっと慣れない事をして疲れているのかもしれないし、もしかしたら本当の俺はもう寝ていて夢オチなんてパターンもある。
で、早速俺はそれを実行してみせた。鼻から息を深〜〜〜〜く吸い込み、そして口からゆっくりと吐き出す・・・。耳を澄ませば何時もの様に風の音と微かな葉擦れの音・・・たまに車の通り過ぎる音とか犬の遠吠えもあるが、確かに俺が普段過ごして来た日常の音だ。

『・・よし!?』

勝手な考えだとは思うが、俺はこれで全て元通りだと思った。目を開ければさっきの出来事は終わっているか、寝ている俺が起きてくれるはず・・・と根拠の無い自信を持って俺は思いきって目を開く。

・・・・次の瞬間・・・・俺は更に不可思議な物を見る羽目に陥る。
目を開けた俺の視界いっぱいに、明らかに魚の真正面的な顔が徐に存在していたからだ。ホラー映画ならば悲鳴のひとつでも上がるシーンなんだろうが、意外な事に人は驚き過ぎると声も出ないらしい・・・。って言うか、見ている魚の顔が余りにも間抜けだから驚くよりも固まる方向に行かざるを得ないのだろうか・・・?
しかもこの本来水の中を泳いでいるべき物体は、やたらとでかく形も奇妙だった。何時だったか・・・・多分小学生辺りに行った博物館で見た覚えのあるこの魚・・・・。

『シーラカンス・・・だよな?』

しかしシーラカンスってぇ魚は、どっかの外国の海に居て空を飛ぶものではない筈だ!だから!現在!目の前にフワフワと浮いているこれは偽物で、玩具で誰かが操っているのだ!?

『そうだよなぁ、んな事ぁちょっと落ち着いて考えれば分かるよなぁ〜〜。ははは・・・騙されそうになっちまったよ、良く出来てるもんなぁ〜〜。しっかし夜中にこんな物・・・飛ばすなよなぁ?・・・・良く見りゃ間抜けな顔だなぁ。俺が見たシーラカンスって、もっと凛々しい感じだったぜ?』

半ば無理矢理そう決め付け、やたらと喋りまくる俺をシーラカンスモドキはジッと見てい・・・つうか睨んでる?
いやいやいや・・・・そう言う不思議ちゃん的な発想は捨てないと、自分的にもうお腹一杯なのだからと心に言い聞かせる。

『・・・え―――・・・と、特にこの目がだらしないよな。何と言うか魚の死んだ目と言うか・・・・・。』

気を取り直しつつそう言いながら指で触ろうとすると、そのシーラカンスモドキがいきなり勢い良く回転した。そしてあろう事かその馬鹿でかく太い尻尾で、俺の横顔を思い切りひっぱたいたのだ。
そりゃあもうスパーンと言う良い音が深夜の住宅街に響き渡り、俺は自分に起きた出来事が事実だと言う事と左頬に残るかなりの痛みに目を丸くせざるを得なかった。

そんな俺に対しそのシーラカンスモドキは、再びクルリと回転し正面に向き直ると予想外に低い爺声で捨て台詞を吐きやがった。

『誰が間抜けの顔か、この愚か者が・・・。』

それだけでもかなりインパクトのある出来事だが、俺はそれに付け加えひっぱたかれている・・・しかも尻尾で・・・・。普通ならこの辺で悲鳴&失神、もしくは悲鳴&逃走のどちらかだろうが俺は違った。
きっと慣れない勉強なんぞしていたせいと、奇妙な理不尽さに腹が立ち頭に血が上り始めている。そりゃそうだろう?いきなりパコーンとやられりゃあ、どんなに温和な奴だって怒るだろう?

《まったく・・近頃の若い奴は・・》とかブツブツ愚痴を垂れながら再び空へと向かうモドキに、俺はあらん限りに腕を伸ばし怒りまかせに声を荒げた。

『ちょ・・・・・・・っと待てコラァ! 人の事思い切り叩いておいて、詫びも入れずに帰るって――のはどう言う了見だぁ――――!?』

冷静になってから考えれば夜中に大声で空飛ぶ魚に啖呵を切っている俺は何なんだろうかと思うが、この時の俺にはそんな世間様がどう思うかと言う事など考える余地など無かった。むしろ得体の知れない物体が、俺を叩いた上に俺に対して文句を言いながら去って行く事自体が許せない事なのだ!
何故か?・・・・・相手の得体が知れない物過ぎるからだ!? 例えて言うなら可愛いと思いつつ頭を撫でようとした子犬が、野太いオッサンの声で《何や兄ちゃん、気安く触んなや。》と嫌な笑いを浮かべつつ言われ驚いてムカつく様な感じだ!!
しかし俺の伸ばした手は虚しく空を切り、シーラカンスモドキは小馬鹿にした様な表情を浮かべつつ飛び去って行った。だがそこで諦めるほど俺も潔くは無かった。俺はシーラカンスモドキを追い掛けるべく部屋を飛び出し、そのまま一気に階段を駆け降りる。その凄まじい勢いに驚き何事かと廊下に出てきた妹が、玄関で靴を履きいまにも飛び出して行こうとする俺に声を掛けてきた。

『え―――? ちょっと何事ぉ? お兄ちゃん、こんな夜中にどこ行く訳ぇ??』

その問い掛けに真面目に答えようとして、俺は言葉を詰まらせる。・・・・《シーラカンスモドキに顔を殴られ、頭に来て追い掛けシバき倒そうとしに行く!》・・・等と言った所で白い目で見られるか心配されるかの二択だ。ここはひとつ適切な状況判断にて言葉を選ぼうと、俺は妹にこう答え家を飛び出して行った――――。

『エロ本買いにコンビニ行ってくる!鍵は持ってるから戸締まりしておけ!?』

『・・・は?』

背中で呆れた声でそう言う声を聞いた様な気もするが、現在はあのシーラカンスモドキを取っ捕まえる事の方が先決な俺は道路へと飛び出した。
深夜の住宅街だけあってこの時間帯での人通りは全く無く、見回せばチラホラと灯が点いている部屋はあるものの外を覗く様な気配も感じられない。

『あんの干物魚!どこ行きやがった!?』

怒りに任せてそう呟いてはみたものの、近所に気を使って小声になってる辺りが情けない。しかしひっぱたかれていなければ、俺でさえ信じられない空飛ぶ魚なんて説明するのも嫌だった。
何故ならそんな事を言ったら、確実速攻でおかしなお兄さんとして一躍有名人なること請け合いだからだ。そうなれば母親の怒りを買い、妹からは白い目で見られ・・・父親からはゲンコツのプレゼントももれなくついて来る事だろう。それを避ける為にも是が否にでも奴を取っ捕まえ、証拠として提出する必要性があるのだ。
まぁ、それ以上に殴ってくれた礼がしたいのだが・・・・。そんなこんなで奴が飛んで行ったらしき方向へと視線を向けると、電柱の街灯3個先にそれらしき物がフヨフヨと泳いで(飛んで?)いるのが確認出来た。

『見つけたぞ〜・・取っ捕まえて、ギッタギタにしてやるからな〜〜〜〜。』

そうほくそ笑み駆け出そうとする俺の背後から何かが駆け寄り、一声掛けたかと思うと頭上を飛び越して走り去ったのだ。

『・・・・そこを退け! 』

『んぇ?』

そいつは俺と同じ高校の制服を着た、長い黒髪の女の子だった―――。
俺の身長は程よい175cm・・・その上を軽々と飛び越し、月明かりに照らされながら舞うセーラー服の女子高校生・・・俺はまたひとつ、人に話すには引かれそうな危うい物を目撃してしまったのだ。しかもそいつは驚いて見上げる俺の顔を見て、着地すると同時に胸倉を鷲掴みそのまま走り出したのだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ