(´ω`)φ【wammy's invention laboratory】


□「千夜一夜」(さる作)
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戦いが終わり、平和な日常がやってくる。

大きな犠牲の果てに得たこの平和を、俺は素直に喜ぶ事が出来ない。
それは・・・俺の大切なパートナーを失ったと言う事実に突き当たるからだ。

アイアンハイド・・・・出会ってから失う日まで、俺の傍で共に戦い続けて来た戦友・・・・いや・・・・家族と言えるその大きな存在・・・。
あいつはセンチネルの裏切りの犠牲になった。
俺の目の前で・・・声も無く・・・砂塵の様に脆く崩れ去った―――。

俺はそれを横目に見ながら、反射的にサムを守り部下に指示をしていた。
軍人としては正しいその行動を・・・命を守るその行動を・・・お前は如何思っていたのかもう聞く事は出来ない。

きっと何時もの様に『お前は正しい事をした。』と・・・『俺も同じ事をした。』と言ってくれるだろうと思うのは俺の勝手だろうか・・・?
親友を失った気持ちは分かると皆は言う。
その言葉に頷き、笑ってみせる俺が居る。
あの戦いの前の夜―――あの出来事がなければ、きっとこんな思いは抱えずにいた。

あの日・・・お前から誘ってくれた事を鮮明に思い出す。

『レノックス・・・お前、今日非番なのだろう?少し俺に付き合え。』

久し振りの休暇・・・と言っても、たった1日だけのものだ。妻や娘に会う事も出来ず・・・かと言って基地内で過ごすのも退屈だと考えていた矢先のお前の言葉に俺は直ぐに乗った。

『なんだ?デートのお誘いか?』

ふざけて笑いながらそう言う俺に、お前は苦笑いを浮かべ肩を竦める。

『・・・・・まぁ・・・似たような物かな。どうせ退屈なんだろ?見てもらい物もあるし、少し時間をくれ。』

それは珍しい事でもあった。
オプティマスの傍に何時も雄々しく立つアイアンハイド・・・そんなイメージが定着していたからかも知れない。
お前のその申し出に戸惑いを感じながらも、俺はここに居て暇を持て余すくらいならと言う軽い気持ちでそれを受けた。

『〜〜〜〜・・よし、良いぞ。ただ余り遠出は出来ないからな?』

『分かっている。月がこの基地の真上に来る頃には帰還できる距離だ。』

何処となく嬉しそうな表情のお前に、俺はつられて微笑しトランスフォームするのを見守った。
何時もの黒いピックアップ・トラックにトランスフォームしたお前は、俺にさっさと乗れと言いたげにドアを開けクラクションを鳴らした。

『分かった分かった・・・そう急かすな。ほら・・・何処に連れてってくれるんだ?』

開かれたドアから運転席に乗り、ハンドルを握りながらそう言うとお前は急発進して基地の南を目指し走り出した。
余りの急発進に俺は運転席に押し付けられる形になったが、ぐんぐん遠くなる基地と流れ行く景色に気分は良くなっていった。
ここ数日続いていた緊張感から解放されたのも手伝ってか、俺はお前とのドライブを心の底から楽しむ。そんな時・・・お前は珍しくラジオを点け、軽快な音楽を鳴らしてくれたのを覚えている。
何時もはうるさいからと言って鳴らさなかったお前が、この時だけはバンブルビーのように自分でチャンネルを弄り選んでくれたのが嬉しかった。

『・・・・・着いたのか?』

小1時間程走った所・・・周りの景色が一望できる場所で、お前はゆっくりと停車しエンジンを停めた。
基地が小さく見える・・・心地良い風が開かれた窓から頬に触れ去って行く。あのまま基地に残り、休暇だと言うのに皆に振り回される事を考えれば確かにここは良い場所だった。だが・・・・。

『まぁ・・・・確かに眺めも良いし、気分もさっきのドライブで良くなったが・・・・見てもらいたい物ってまさか・・・・これなのか?』

本当のデートじゃあるまいし、小高い丘の上で景色を見せるなんて・・・俺がそう思い口にした言葉に、お前はクラクションを低く鳴らして反論した。

『違うなら何だ?・・・・勿体ぶらずに教えろよ!』

少し大袈裟に腕を広げ、声を大きくすると不意にラジオから音声が響き渡った。

《・・・・・笑うなよ・・・・》

それは良くあるドラマの台詞のようで、声も聞き覚えのある俳優の物だった。

『何を笑うなって言うんだ?・・・おい?・・・アイアンハイド?』

そう言い不思議がる俺の問いには答えず、アイアンハイドはエンジンすら沈黙させる。妙な緊張感が漂う中・・・それは急に始まった。
俺の隣・・・つまりは助手席側のシートが突然金属を刃物で切るような耳障りな音を立て、トランスフォームし始めたのだ。それはあっと言う間に人の形を取り、僅か数秒の内に見慣れない大柄の男へと変貌したのだ。
俺は驚きの余り声も出せず、ただそのトランスフォームが終わるのを見守っていた。そして男の目がゆっくりと開かれ、何時もの見慣れた碧い瞳が俺を見据える。

『・・・・・よお・・・どうだ?・・・人間に見えるか?』

ぎこちなく動いた唇が語る声は、確かに聞き慣れたアイアンハイドの声だった。

『・・・・見えるも何も・・・・人間そのものじゃないか!? いったいどうやって・・・!?』

『以前、サムが人型の奴に襲われただろう? そいつの破壊されたボディを参考にして、俺達大型の奴に利用できるようにラチェットが改良したんだ。と言っても・・・まだまだ試作段階で、俺にしか組み込んでないがな。一先ずお前から見た外見具合は合格みたいだな。』

そう言いながら、やはりぎこちなく笑う。俺は驚き過ぎて、もう声を出す事が出来ない。確かに外見上は人間そのものだが・・・それの大元は助手席のシートだ。
触感がどうなのか・・・やはり彼等の技術により完璧にスキャンされているのか・・・もし、これがアイアンハイドではなく、ディセプティコンだったら・・・?
俺はそんな事を考えながら、恐る恐るアイアンハイドらしき物の肩に触れた・・・。

『・・・・・・思ったより柔らかい・・・な・・・。』

『やはりおかしいか?』

『え・・・っ!?・・・あ、ち、違う!大丈夫だ、骨格に似合った筋肉の固さも表現出来てる!?・・・・俺が言ったのは・・・その・・・肌の感触がだな・・・・!?』

話しているうちに段々と顔が熱くなって、自分が妙な事を言っている気がしてきた。そんな俺の慌て振りを、アイアンハイドは優しく笑いながら見詰めている。

『良かった・・・どうやら本当に外見上は問題は無いらしいな。俺に伝わる感覚の方も上手くいっていると・・・ラチェットも喜ぶな。』

車の正面を向いていた身体をゆっくりと動かし、俺に向き直りながらそう言うアイアンハイド・・・。俺はイマイチ事態が飲み込めないのか、再び似たような質問を繰り返した。

『・・・どうして・・・こんな事を・・・?ホログラムとかあるじゃないか・・・?』

するとアイアンハイドは、やはり肩を竦めながらアッサリと答えを告げる。

『確かにそうだが、光の加減によって透けてしまうだろうが。人目を憚らず、確実に任務を進ませる為の一歩とでも言っておくか・・・・まぁ色々だ。』

何処となく誤魔化されている気もするが、急な展開に俺自身が付いていけてないのでその場では敢えて追求はせずに居た。

『俺に・・・見せたい物ってこれだったのか?』

『そうだ・・・お前に見て欲しかった。』

見慣れない顔の筈なのに、その碧い瞳が俺に安心感を与える・・・。アイアンハイドのその言葉に、俺は如何とは言えない気分になる。そこでその気持ちを誤魔化す為に、色々な事を聞きまくった。

『え・・・と、そ・・その顔!お前らしく出来てるが、どうやって作ったんだ?』

『これか?これはお前の部隊全員の顔をスキャンして、俺の体格と声に合わせた物をラチェットが作り上げたんだ。あくまで自然に見えるように、けれど味方に判別できるようにと瞳はブルーにしてあると言ってたが・・・・ちゃんとなってるか?』

『勿論!・・・と言っても、普段のお前はでかすぎて間近で見た事はないけどな。その身体はお前の本体であるこの車とは分離しているのか?自由に外出とか・・・。』

『いや、まだそこまでいってない・・・見ろ・・足先に何本かケーブルが出ているだろう?ここから必要なデーターとエネルゴンを補給し形状を維持している。だからいまの所はこの車内・・・もし外に出れても、ドアの外に出て終わりだな。』

苦笑いとも取れる微笑に、俺もつられて笑った。

『ははは・・・そりゃ便利だ。で・・・オプティマスは?この事を知ってるんだろ?何と言っていた?』

俺のその質問に、アイアンハイドは照れたように頭を掻き答える。

『・・・・オプティマスには言っていない。これは俺とラチェットだけの秘密だ。』

その答えに俺は少し驚いた。オプティマスの片腕であるアイアンハイドが、彼に秘密で開発させる事もあるのかと言う戸惑い・・・と言った方が正しいかも知れない。
そんな俺をアイアンハイドは真っ直ぐに見詰める。何処までも濁りない・・・碧い碧い瞳は何処か寂しげだと感じた。

『・・・レノ・・・?』

急に黙ってしまった俺に、アイアンハイドが訝しげな声を出す。その声と向けられる眼差しに、俺は何故か心乱れそれを悟られまいとおどけて見せた。

『あ・・・いや、お前がオプティマスに秘密にするなんて珍しいんでな。何か悪巧みでもしてるのかって思っただけだ。』

『・・・・馬鹿言え・・・・オプティマスはオプティマスでやる事も考える事も多い、それに武器開発担当は俺の役目だ。少しでも役に立ちそうなら、それをある程度まで出来上がらせてからでも遅くはない。』

『そんなもんかねぇ・・・それよりも、俺は少し腹が減ったがお前は?それともそこまで開発出来てない?』

からかうようにそう聞く俺に、ホンの少し怒ったような表情を作る・・・・それが本当に人間らしくて、【アイアンハイドと言う人間】が俺の目の前に存在しているかと錯覚してしまうくらいだ。そうしてアイアンハイドは小さく首を振ると、急に俺の肩に触れシートの背もたれから身体を僅かにずらした。
するとシートが後方に倒れ、後部席と同じ高さに落ち着く。出来上がった空間は、ちょっとしたリビングのように変形したのだ。これにも少し驚いた。

『・・・残念ながらお前の言う通り、俺は飲食は出来ないしそこまでしようとは思わん。だがお前の分の食料はそこのクーラーボックスに入っている。好きに喰え。』

『・・・・随分至れり尽くせりだな・・・・だがどうやって用意した?』

『簡単だ。俺がアーシーに頼んで、アーシーがエプスに頼んだ。俺はお前達の食料など分からんからな、アーシーに頼んだのは細かい所まで気付くからだ。エプスだけだととんでもない物が入りそうだったしな。』

『・・・・はははは!・・・それは言えるな。とんでもなく辛い物とか入れられそうだ・・・まぁ気を使ってくれて助かるよ、遠慮なく頂くな。』

そう言いクーラーボックスの中に入っていたビールとサンドイッチを取り出し笑う俺に、アイアンハイドは頷きどうぞと言わんばかりに肩を揺らした。
渇いた喉に冷たく冷えたビールの炭酸が心地良く降りて行く・・・・。丁寧に包まれたサンドイッチの包みを開き、思い切り噛み付くと野菜とハム等がバランスよく入っているのに気付く。これをエプスの奴が、アーシーに文句を言われながら作ったのかと思うと自然に笑いが出てしまう。

『美味いか?』

『あぁ、基地で食べる飯よりも遥かにな。』

『そいつは良かった・・・。』

そんな他愛ない会話を交わしたり、作戦について話し合ったり・・・普通の人間同士がするような事を俺達は初めてしていた。
それが妙に嬉しくて・・・アイアンハイドが何処となく嬉しそうなの事に安堵感を覚えて・・・あっと言う間に時間が過ぎて行ってしまった。
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