kira事件、特別捜査本部・二千五◯二号室


□「In the ATMOSPHERE」(さる作)
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胸が痛い  息が出来ない  頭の芯が痺れて行く 俺の人生が終わる時、感じた痛み・・身体の痛みは俺と言う意識が、この身体から離れて行けば消えてしまう物。だが・・・お前に二度と会う事も・・触れる事も話す事も出来ないと言う心の痛みは、身体が消滅しても残ってしまう。俺はお前に勝ちたかった。勝って言いたかった。“俺とお前は対等なんだ”と・・・。今、こうして大気の中漂っているのは少しでもお前に会いたくて・・抱きしめたくて・・此処には誰も居ない。Lはあの男の所へ降りて行った・・俺達が止めるのも聞かず・・迷いの無い眼で“彼が私を求めているので”と一言だけ残して奴の所に行ってしまった。何時か悠久の砂に成り果てても、あの男と居る事を選んだLは凄いと思った・・。俺は、二アの元へ降りて見た。きっと分かりはしないだろうが、急に会いたくなった。魂だけの身体は移動がとてもスムーズで、想うだけで直ぐ傍に行く事が出来る・・あいつは笑っているだろうか・・・?夜神月と言う最大の敵を倒し、勝利に酔い痴れているだろうか・・?誰もいない静まり返った暗い廊下・・誰も寄せ付けない様に閉ざされたドア・・お前は今、何を見ている・・?
俺はドアを擦り抜けた。灯りの消えた寒々しい部屋の中、お前は何時もの椅子に座り膝を抱えていた。虚ろに・・俺はお前の勝利に酔い痴れた顔を見に来たのに、何故お前はそんなに悲しい顔をしているんだ・・!?生気の無い顔・・沈んだ瞳は空を見つめている。時折溜息を付いては髪を弄ぶ。足元には沢山の玩具が転がり、主人の手を求めて泣いている様に感じるのは、俺が魂だけの存在だからなのだろうか?あぁ・・、あの顔だ・・小さい頃から見慣れた・・迷っている時のニアの顔だ。何故?・・そう思う俺の心が通じたかの様に、ぽつりとニアが呟いた―。

『・・貴方のいない世界は退屈で怠惰な灰色の世界ですよ・・メロ・・私はLばかりでなく、貴方までも失ってどうして良いのか分からなくなってしまいました・・“L”と言う地位を継いでいなければ今直ぐ貴方に会いに行きたいと・・願ってしまう程貴方を愛していた事に、貴方を亡くしてから気付くなんて・・滑稽で不様な私を貴方は笑って見ているのでしょうか?』

何も変わらない表情が返って痛々しい。身動きする事もだるそうに、二アが右腕を動かし一枚の写真を重そうに持ち上げる。以前二アが俺によこした物だ・・何故か捨てられなかったあの写真・・主の居なくなった部屋に残された・・・。俺はニアを抱き締めた・・今は無い身体を呼び起こし抱き締め様とした・・。けれど・・腕は虚しく空を切り、その悲しい身体を抱き締める事は叶わないと知った。苦しかった・・泣きたかった・・けれど、今一番苦しんでいるのは二アだという事を考えると出来なかった。俺が泣いたからと言って、二アの苦しみが無くなる訳じゃないからだ。・・・今の俺に出来る事・・・。

『・・・メロ?』

不意に二アが俺の名を呼んだ。辺りをゆっくりと・・確認する様に見回し、再び俯く。

『・・そんな事・・ある訳無いですよね・・。今、メロの香りがした様な気がするなんて・・馬鹿ですね・・・』

俺は・・嬉しかった。姿は見えてはいないが、何かが繋がった様な気がした。俺は二アに心からのキスをして、あいつの元に降りたLを探しに行った。

其処は、果てしなく砂が広がる音の無い世界だった。

こんな気の狂いそうな世界に、夜神月は居たのかと思うと哀れだった。直接ではないが俺を殺し、Lを殺した“キラ”は“永遠の孤独”と言う罰を受ける筈だったのだ・・。しかし“エル”と言う神が、己に対しての罪を許し共に時間の果てに行く事を決めてからこの世界は音を持ち始めた。まだ、小さく囁く様な音は、あいつの心を救った・・俺も同じ様に、二アの心を救える事が出来るだろうか・・?Lなら何か教えてくれるかも知れない・・其れは願いでもあった・・。Lは砂漠の中のオアシスの様な場所に、あいつと共に過ごしていた。穏やかな・・優しい顔。あいつも又安らかな顔をして眠っている。俺がそっと近付いて行くと、Lは指を唇に当てて小声で囁いた。

『今、眠った所なんです・・如何か静かに・・貴方がこんな所に来るなんて意外ですが・・何か聞きたい事でも・・?』

『・・・二アが・・』

俺は見てきた事の全てをLに話した。自分の不甲斐無さを・・二アの切なさを・・願望を全て曝け出した。Lは何も言わず、聴いていてくれた。一頻り話し終えても暫くは何も言わず、俺の顔を見詰めているだけだった・・。柔らかい風がふわりと吹いた。砂がさらりと動くと同時にLが口を開いた。
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