kira事件、特別捜査本部・二千五◯二号室


□「回転扉」(さる作)
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月が天上に輝く時、僕は深い眠りから現実に引き戻された。辺りは静まり返り、深淵の闇が支配している。

『・・竜崎?』

思わず口から出たのは、憎みあっている筈の奴の名前・・自分自身の言葉に衝撃を受け、自分の指が唇に触れる。今、僕は一人・・この闇の中、一人で冷たい毛布に包まっている。リュ−クの姿も見えない。又気紛れに屋根の上にでも上がっているのだろうか?まぁ、リュ−クの姿が有ったとしても余り気が休まる訳でも無いのだが・・。此れは僕の選んで来た道であり、正しい選択だった筈・・なのに・・何故、こんなにも奴の姿を・・声を求めるのか・・。何時からかはもう分からないが、僕の中で奴が占める範囲が大きくなり過ぎたと自覚した時にはもう遅かった。僕は、僕の描く“世界”に近付く事しか見えてなかったから・・隣で存在する大切な物に気付けなかった。殴り合いも、言い争いも、お互いを牽制しあう事すら楽しかった。まるで“ゲーム”のキャラクターを殺す様な感覚で君を・・・父さんが言った言葉に一番ショックを受けていたのは自分なのに・・僕達は、回り続ける回転扉に閉じ込められた哀れな生き物の様だね・・。お互いの姿が見えるのに、触れる事も真実の言葉を交わす事さえ出来ないで見詰め合うだけが許されている哀れなモルモット・・。自分が呟いた言葉に思わず苦笑する。そして、僕の中の僕が嘲笑する。

『お前が選び、行動し、排除したんだろう?何を今更言っているんだ・・お前は自分が“神”になる方を選んだのさ。』

・・・そうだ、僕は選んだ。永遠に清らかな犯罪の無い“キラ”が神として見守る世界を創造する為に!・・・なのに・・何故・・こんなにも心が凍えているのか・・・。

−・・ソレハアイシテイタカラ・・―

不意に浮かぶ答えに僕は狂った様に大声で笑った。深淵の闇に響く声は、行き所の無い僕の心の様に闇に溶け消えた。奴の声も、指も、髪も吐息さえ未だ覚えているのに・・・!?奴にとって僕が唯一の者であった様に、僕にとっても唯一の者であったのに気付くのが遅すぎたんだ・・何もかも、全てを無くしても良いと思える程愛しい事に気付けなかった、僕に見えていたのは“神”となり世界を手中に収めた愚かな自分の姿!!・・・この先、どんな人間に出会おうともこんなに激しくは二度と愛せないだろう・・僕に残されたのは、この深淵の闇の中で戦い続ける事・・。心安らぐ事無く、新しい脅威に晒されながら行き続ける事・・。

ソシテボクハユックリトコワレテユク・・・―

竜崎、今とても君に会いたい・・あの頃の世界に戻りたい・・出会ってから失うまでの陽炎の様に揺らめく君と僕との甘く・・狂おしい世界に・・・。

『如何した、ライト?何を考えているんだ?』

何時の間にか傍で佇んでいるリュ−クが、僕の顔を覗き込む。大きく見開いた眼で、嘲笑うかの様に・・。

『・・何でも無いよ、リュ−ク。“N”の事を如何始末するか考えてただけさ・・』

リュークは何も言わず、クク・・と笑うだけだった。竜崎・・君の居ないこの世界は退屈だ・・だから、僕は“キラ”を演じ続ける事にするよ。何時か、君に会える時まで・・・。      《完》

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