(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】


□「想いの果て」(さる作)
1ページ/1ページ

ふと・・・深夜に眼を覚ます。

見慣れた自分の部屋・・・暗い室内・・・窓から微かに差し込む地球の衛星からの明かり・・・。
何時もと同じ光景・・・何時もと同じ虚無感・・・そして何時もと違う俺を包み込む温もり。
その大きな腕は隣に居る俺の身体を大切そうに包み込みんでいる。
俺はその腕の持ち主と、最近夜を共にするようになった―――。

ディセプティコンの仲間の中で1番仲間から慕われているだろうその男は、仲間の中で1番扱い難い俺の事を好きだと言った。
この関係もオプティマスとメガトロン様が恋仲になったのを切っ掛けに、俺を含む情人達がその任を解かれたのが始まりだ。
口説く機会をずっと待っていたと、ブラックアウトは屈託無く笑いながら言う・・・。俺はそれが妙に憎らしくて・・・・妙に心に嵌り込んだのを覚えている。
心底恋焦がれた方から離れざるを得ないからだったのか、それとも又別の理由なのかは分からない。初めの内は身代わりにしていたのかも知れない情事も、身体を重ねるうちに明らかな差を感じ消え去った。

―――圧倒的に優しいのだ・・・・ブラックアウトは―――。

目の前に無防備に置かれた大きな手が俺の身体に触れる時も・・・・俺を見詰める時の眼差しも何もかもが何時もとは違っていた。
皆の前では今迄通りを装いながら、変わらぬ話し方で俺に振舞う。遠過ぎず・・・近過ぎない・・・俺は1人の位置を保ち、ブラックアウトは仲間達の中で位置を保つ。
それは俺の立場を考えての事で俺を含む情人達は、無条件にメガトロン様の庇護の元にあったからだ。
例え俺自身がその立場を利用し、皆に対し傍若無人に振舞っていなくとも・・・・その事が理由で俺自身を嫌う輩は少なくない。
良い例がスタースクリームだ・・・・。奴は情人でありながら、常にNO・2の座に居座り続けていた。無論・・・奴にもそれなりの実力はある・・・・だが任を解かれてもなお・・・奴はあの方のお傍に居続けられるのは、メガトロン様から別の理由で気に入られているからだ。
そしてその事が奴の力となり、他のディセプティコン達を押さえ付ける。
・・・・だがそんな行動は、強大な力を持つ者に従う俺達には当り前の事だ。油断すれば出し抜かれ、庇護を失えば報復される・・・地球に来ても何処にいてもそれは変わらない。
実際俺も何度か闇討ちされたり、皆の前で殴り合いもしてきた・・・その度に返り討ちにしてやったが、何時もそれを止めに来て相手を宥めるのはブラックアウトの役目だった。

『何をそんなに熱くなってる?』

『こいつが気に入らないんですよ!何時も何時も馬鹿にするような眼で見やがって・・・!?』

『こいつの眼つきが気に入らないって?そんなの今に始まった事じゃねぇし、俺やボーンクラッシャーだってそうだろうよ!?だいたいお前も他人の事言えるような面かぁ?』

おどける様な仕草でそう言いながら、相手に迫り徐に肩を掴む。そしてそのまま引き摺るようにして相手を外へと連れて行ってしまうのだ。
残された俺をボーンクラッシャーとスコルポノックに託して―――。

『・・・・やれやれ、毎度の事ながら上手い奴だな・・・。お前さんも、もう少し上手くやれねぇのか?喧嘩するだけが能じゃないだろう?』

『・・・・・俺の事は放っておけ。』

頬を拭いながらそう言う俺に、スコルポノックが食って掛かる。

『はぁ!?・・・放っておけぇ?・・・ふざけんじゃないよ坊や!?あんたが喧嘩をする度にブラックアウトが苦労するんだよ?如何でも良いような下っ端共の相手をしたり、宥めすかしたり酒の相手したり・・・・少しは悪いと思ったら如何なんだい!!』

『頼んだ覚えは無い。』

『・・・・なんだってぇ・・・・?』

『止せ、スコー・・・俺達までこいつを追い詰めて如何する?それにお前、ブラックアウトにこいつを頼むって言われたんだろ?』

『そりゃそうだけど・・・ムカつくんだよ。』

煩い女だと思い顔を顰める俺に、ボーンクラッシャーは溜息混じりにこう告げる。

『はぁ・・・なぁ?バリケード・・・少なくとも俺達はブラックアウトの仲間だ。無論・・・その中にはお前さんも含まれてるんだが、もう少しだけで良いからその尖がった部分を引っ込めて周りを見てみろ?・・・お前が思っているほど、お前の事を嫌っている奴はいないぞ?』

頭を掻きながらそう言い、困ったように笑うボーンクラッシャー・・・・こいつもブラックアウトと同じお人好しの類なのかと俺は思った。そんな俺の考えを見透かしたかのように、スコルポノックは上目遣いに俺を睨み付けている。

『・・・・どうせ分からないだろうけどね。さ・・・て・・・誰かさんも戻って来た事だし、あたしは消えるよ。』

『ん?あぁ、じゃあなスコー・・・おい、ブラックアウト・・・ここだ!?』

大声でそう言いながら手を挙げるボーンクラッシャーに、ブラックアウトは同じ様に手を挙げて応え近付いて来る。

『おう、悪かったな・・・・ん?スコーは如何した??』

『お前が戻って来たと分かったら、サッサと行っちまったよ。』

その返事に仕方がない奴だと笑うブラックアウトは、そのまま俺の肩を掴み自分達も消える・・・すまなかったと言い残しボーンクラッシャと別れた。俺は半ば引き摺られるような形で連れて行かれるが、掴まれている肩の温もりに絆されてくだらない事を話しながら自室へと歩いて行く。

『・・・今日は何が原因だぁ?』

『・・・別に・・・特に覚えていない。』

『そっか・・・んじゃ、しょうがないな。』

『だいたいそんな事俺に聞かなくとも、さっきの奴に聞いたんじゃないのか?』

『そうか?・・・覚えてねぇな。』

本当に他愛ない・・・如何でも良い会話・・・。時折覗き込むブラックアウトの顔は、嬉しそうに眼を細めている。

『・・・ほら、着いたぞ。』

俺の部屋の前に着くと、ブラックアウトがポツリとそう言い俺の肩から名残惜しそうに手を離した。そうして互いに向き合うと、一瞬無言になる・・・そうすると必ずブラックアウトはその大きな手で、俺の片頬に触れ自分の方へと顔を向けさせる。
それは少しも強引ではなく、ごく自然に・・・当り前のようにやってのけるのだ。そして真っ直ぐに俺の眼を覗き込みながらこう告げる。

『・・・俺はまだやる事があるから向こうに戻る・・・お前が嫌じゃなければ後で来ても良いか?』

静かに抱き寄せられながらそう聞かれた俺は、その手の心地良さに酔いながらも素っ気無く応える。

『・・・・好きにしろ・・・・俺は待たないからな。』

自分の腕の中でそう言う俺に、ブラックアウトは優しく微笑み甘いキスをする。

『ん・・・分かった・・・後でな・・・・。』

部屋の中に俺が入るのを見届けた後、ブラックアウトは皆のいる基地内へと歩いて行った。
俺は部屋の中・・・灯りも点けずに進み、ベッドへと身体を投げ出す。
冷たく整ったシーツが、火照る身体に心地良く巻きつき・・・唇に残った熱を更に思い出させる。
指でその唇をなぞりながら、こんな風に想う自分を嘲笑う。

『・・・・どうかしている・・・・!?』

まだメガトロン様への想いが残っているのに・・・俺はあいつを代わりにしているだけなのでは・・・そんな気持ちが頭を過ぎる。そしてきつく眼を閉じ、強引にその気持ちを心の奥底へと押しやった。


―――どれ位の時間が経ったのか・・・ふと・・・深夜に眼を覚ます。

見慣れた自分の部屋・・・暗い室内・・・窓から微かに差し込む地球の衛星からの明かり・・・。
何時もと同じ光景・・・何時もと同じ虚無感・・・そして何時もと違う俺を包み込む温もり。
その大きな腕は隣に居る俺の身体を大切そうに包み込みんでいる。

《 何時の間に来たんだ・・・・? 》

以前なら誰かが部屋に近づいて来ただけで眼を覚ましていたが、現在はブラックアウトの気配だけには俺は眠ったままだ―――。
それだけ気を許している自分に驚きながらも、包み込む腕の温かさが心地良く安らぐのを感じる。
ふと・・・目の前の無防備に置かれたブラックアウトの手に自分の手を置いてみる・・・。固く無骨な手の筈なのに、何故こんなにも触れていたいと思うのか・・・。ゆっくりと手のひらを指でなぞり・・放そうとしたその時・・離れて行く手を急に握り締められた。

『・・何・・・可愛い事やってんだ・・・?』

驚く俺の耳元でポツリとそう言うブラックアウトは、そのまま背後から俺を抱き締め耳元にキスを落とす。

『・・・っ!?・・・起きてたのか!?』

余りにも不意をつかれたせいで、俺の心臓は早鐘のように脈打った。そして僅かに顔が熱くなるのを自覚する。

『・・ん?・・いや・・今起きた・・・お前は?・・・・腕、重かったか?』

片手で俺を更に強く抱き寄せ、もう片方は俺の手を捕らえて離さないブラックアウトの問いに俺は動揺を隠しながら答える。

『いや・・・違う・・・重くはない・・・・何時来たんだ?』

そう言いながら僅かに身を捩り顔を覗き込む。衛星の光に照らされたブラックアウトの表情は、何時も2人きりになった時のままに優しかった。ブラックアウトは嬉しそうに微笑むと、俺の眼を見ながら柔らかく答える。

『ん?・・・ホンの1〜2時間前だ。意外に用が長引いてな・・・来てみたらみたでお前は何もかけずに、しかめっ面して寝入ってるし・・・起こすのもアレかなと思ってな。そのまま俺も横にならせて貰ったんだが・・・駄目だったか?』

手は繋いだまま・・・もう片方の手で愛おしそうに身体を擦りながらそう言うブラックアウトに、俺は顔を背けながらぶっきら棒に呟いた。

『・・いや・・良い・・もう寝ろ。』

その言葉に一瞬無言になったブラックアウトは、ゆっくりと起き上がると俺の頬に手を添えそのまま甘く痺れるキスを落とした。

『・・・・お前を味わってからな・・・・。』

耳元で囁かれるその言葉に自分の胸が高鳴った時・・・俺の行き場の無い想いの果てを見出せた・・・そんな気がした―――。       《完》

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ