(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】


□「無垢な想い人」(さる作)
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その日のジャズは、本当にツイていなかった。

ベッドから起き上がり立とうとすれば、シーツが足に絡んで落ちる。
仕事をすれば普段ならば有り得ないミスをする。
食事をすれば舌を噛む。
物を運べば、一番重い物が足の上に落ちる。
余りの痛さによろめけば、後の荷物に頭を打ちつける・・・・・等々。

何だか自分では無いような、つまらないミスばかり。
幸いなのが仕事のミス以外は、自分の胸の内にしまって置ける物ばかりだと言う事だ。
特におしゃべりなディーノや、双子達に見られなかった事に胸を撫で下ろしていた。
とは言え、自分的にはあまり格好良いと思える事柄ではない。
普段から良い上官であり、オプティマスから信頼を得ている副官としてもだ。

『ったく・・・・ツイてないぜ。』

そんな言葉をこぼし、小さく溜息をついてみる。
いったい何に気を取られていたら、こんなみっともない事になるんだ?
そんな考えが頭を過ぎった時・・・ふとオプティマスの顔が思い浮かんだ。

本当は分かっている。
こんなにも間抜けな事を繰り返すのは、オプティマスとメガトロンが付き合い始めた事を聞かされたからだと―――。
しかもオプティマス本人から、君は信頼できるからと言う理由で聞かされれば尚の事こたえる。
確かに告白もしていないし、恋心にも気付かれないように過ごして来た。
もし気付いているとすればラチェットと、アイアンハイドぐらいだろう。
長い間の秘めた想いは、一瞬で儚く消え去ったとあれば恋多きジャズでもショックを受けるのは当然だ。

『・・・・・あれは無いよなぁ・・・・。』

いま思い出しても気が滅入る。
オプティマスのはにかんだ笑顔は可愛かったが、その唇から発せられた言葉の何と痛い事か・・・・。
オプティマスに出会い一目惚れし、そういう関係にあった者全てと手を切った。
彼の為にと働き、彼のそばにいる為の努力もしてきた。
幸い自分にはそれに見合うだけの能力もあったし、気さくな性格が彼の緊張していた気持ちを柔らかく解し信頼を勝ち得た。
兄貴分のアイアンハイドや、専属医師であるラチェット以外は敵ではない。
そんな風に自惚れていた自分が情けない。

『・・・・先に告白したら変わったのかな・・・?』

囁く様に呟き、軽く指を噛み締める。
そして直ぐに思い直す・・・そんな事は無いと。
メガトロンとオプティマスは、戦いの中でも互しか見ていたかった。
宿敵と言いながらも、その眼差しは求めていた。
多分宿敵であると同時に、魂の半身であると感じていたのかもしれない。
オプティマスをそばで見続けていた自分だからこそ、それに気付き早く戦いを終わらせたいと願っていた。
戦いの熱に浮かされた錯覚だと思わせたかったのかもしれない。
そんな風に考えれば考えるほど、ツイてない日と言うのは考え方までもマイナスにしか働かないのだなと苦笑いする。
そんな1人落ち込むジャズに、静かな声でオプティマスが背後から話し掛けてきた。

『・・・・ジャズ・・・・少し良いだろうか?』

『 !? オプティマス・・・えぇ、構いませんよ?』

表情は平静を装っているが、急に話しかけられた事と考えが伝わっていないだろうかと言う事にかなり動揺していた。
そんなジャズを知ってか知らずか・・・オプティマスは手に持っていたコーヒーを1つジャズに手渡した。

『そうか・・・コーヒーはどうだ?これを飲みながら少し話でもしよう。』

『おぉ、これは美味そうなコーヒーですね。でも珍しいですねぇ、オプティマスからこんな風にしてくるなんて。』

コーヒーを受け取りながら、何時ものように軽く言葉を返してみる。
どんなに想いが届かなくとも、オプティマスのそばに居続けたいと願うからだ。
そんなジャズの言葉に、オプティマスは微笑し言葉を続ける。

『ははは・・・たまには私もこれぐらいの事はするさ。それに今日はジャズの元気がないのでな・・・・何か気になる事でもあるのか?』

心配そうにそう言うオプティマスの微笑に、ジャズはさっきまでの憂鬱な気分が煙のように消えるのを感じた。
まさかあんな些細な事をツイてないと思い、幾らか落ち込んでしまったのに気づいてくれるなんて!?

『俺が?いいえ!・・もしあるとすれば、さっきの書類のミスの事ですよ。オプティマスの仕事を増やさなければ良いなと・・・・でも心配させてしまった様で返って申し訳ない。でもまぁ・・・俺個人的には、心配は嬉しいですけどね。』

屈託ない笑顔を向けるジャズに、オプティマスもまた笑顔になる。
その笑顔を見詰めながら、やっぱり好きだなと思うジャズ。
だがその脳裏には憎たらしい恋敵、メガトロンの顔もほぼ同時に浮かんだ。

《 お前は出てくんな!? 》

そう思いながら手渡されたコーヒーを、思い切り豪快に飲もうとした。

『あ・・・ジャズ!まだ熱いぞ!?』

ジャズの行動に驚いたオプティマスが、慌ててジャズに声をかけるが遅く・・・ジャズは思い切り舌を火傷してしまった。

『―――っ!?・・・・・つ〜〜〜・・。』

『大丈夫か!?』

心配するオプティマスに、ジャズはヒリヒリと痛む舌を僅かに出しながら頷く。
憧れのオプティマスの前で、何をやってるんだ俺は!?
いいや・・・いきなり出てきたメガトロンのせいだ!?
少しコーヒーも零してしまったし、こんなみっともない所を見られるなんて本当に今日はツイてない!!
そんな事を思いながら俯くジャズに、オプティマスは優しく包み込むように両手でジャズの顔に手を当てた。
何事かと戸惑うジャズをよそに、オプティマスは僅かに出された舌に目をやる。

『・・・・あぁ、こんなに赤くなっているではないか!?』

いや、これぐらい大した事はありませんよ・・・そう言うつもりだった。
だがその言葉が発せられるよりも早く、オプティマスが赤くなったジャズの舌に自らの舌を這わせた。

『―――っ!?』

冷たく柔らかい感触がジャズのブレインを擽ぐる。
何が起きたのか一瞬分からなくなったが、次の瞬間にはショートしそうなほど身体の熱が上昇した。
どう言う態度を取れば良いのかと悩み、ジャズはされるがままになっている。
その内にオプティマスの舌が離れ、何時もの綺麗な碧い瞳が自分を覗き込みこう言う。

『・・・・大丈夫か?以前・・・私が舌を火傷した時に、メガトロンがこうした方が治りが早いと教えてくれたのだ。』

ニッコリと微笑みながらそう言うオプティマスに、ジャズはホンの僅かに複雑な笑顔を浮かべた。
思い掛け無いオプティマスからの行為に心は弾むものの、その事を教えたのがメガトロンと言う事実がそうさせたのだ。
しかし嬉しい事には変わらない。今迄のツイてないと思っていた事柄は、この一瞬の為にあったのだと思える程だ。
そして自分を困った様に覗き込む無垢な想い人に、取り敢えずは真実を教えておこうと考えた。
それは自分とオプティマスだけの秘密になり、メガトロンでも入り込めない記憶になる。

『・・・オプティマス・・・はは・・・これはまずいですよ。』

『ジャズ?』

照れたように笑いながら話す俺を、オプティマスはキョトンと目を丸くして聞いている。
その内それが紅葉のように赤くなり、慌てふためく様になるのも手に取るように分かる。
あぁ・・・・これでもう駄目だ。俺はもう諦められない。

『これはですね・・・・。』

今度は俺がオプティマスの頬に触れる。
その温かさを感じながら、何処か晴れやかな気持ちで思った。
良いさ、今迄待ったんだ。
今度はアプローチしながら、何時か俺だけを見てくれるように待つさ。

恥ずかしそうに頬を染め、慌てふためく貴方を熱く想いながら―――。       《完》

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