(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】


□「苦しくて」(さる作)
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その日、ジャズは夜勤だった。

特に何かする訳ではない・・・ただ自分達の暮らす基地周辺と、内部の見回りをするだけの退屈な仕事だ。
少し前ならばディセプティコン達の急襲等を警戒する重要な任務だったが、戦いが終り共存しているいまとなってはメンテナンスを兼ねた物へと変化していたのも退屈さに輪を掛けている。
だからと言って、おろそかにすれば人間との取り決めに反してしまう。
この星に暮らす為の、必要不可欠な儀式・・・自分を含めたオートボットはそう考えている事だろうとジャズは考えていた。

『 ふぅ・・・何時も通り、ここも異常無し・・・と。』

人間にとっては広大な基地も、オートボットである自分にとっては丁度良い広さの庭に過ぎない。
今日はこの庭を夜明けまでに、3回程見て回る予定だ。
一応・・人間達も自分とは違うルートで見回りや監視を行っているので、見回り途中ですれ違い言葉を交わす事もある。
それだけが楽しみとも言えるこの任務に、今日は思い掛け無い変化が与えられた。
それは基地の一番外れにある、オートボット専用の格納庫の前を通りかかった時に起きた。
通常ならば仄暗い外灯だけがある、全く人気の無い場所なのだが今日はその一角に灯りがともっていたのだ。
ここはアイアンハイドの武器や、オプティマスの武器が主に格納されている場所だ。
ジャズは何故そんな所の灯りがと不思議に思ったが、昼間に訓練をした事もあり唯の消し忘れだろう考えた。

『 使用した武器を格納したのはビーと双子達だったな・・・まったく仕方が無い奴等だな。』

訓練が終わった事で気の抜けた3人が、武器をしまいそのまま灯りを消さずに出たのだろう・・・。
ジャズの思考は何の疑問も抱かず、そんな答えを導き出し終りを告げる。
本当にそうであるならば、この話はそこで終り灯りを消し彼等に注意をすれば済む事だった。
だが・・・・それは終わる事は無かった。

『 ・・・ん?・・・誰か・・・居る・・・?』

光の漏れる窓に、影が揺れるのを見たジャズが思わずそう口にする。
中に誰か居るのだろうか?いるとするならばオプティマスかアイアンハイドだろうが、こんな夜更けにいったい何をしているのだろうか?
そんな事を考えながら、ゆっくりと近付いてゆく。
急に声をかけて驚かせるのも気が引けるし、取り敢えず姿を確認してからにしようとジャズは僅かに開かれた入口の中を覗き込んだ。
そうすれば万が一ディセプの者であったとしても、急な攻撃を回避する事もできる。
頭の隅に浮かんだそんな考えに、思わず苦笑いを浮かべた。
戦いを望んでいる訳でも無いのに、長年染み付いた習慣は恐ろしい物だなとジャズは思った。
そんなジャズが先ず目にしたのは、誰かと話すオプティマスの姿だ。
その姿を見つけた途端、ジャズの緊張の糸が緩んでしまう。

《 何だ・・・オプティマスだったのか・・・。》

ホッと胸を撫で下ろし、そのままその姿を見詰めた。
何時もと同じ、美しい立ち姿。
それは永い時を経ても、地球の擬態を手に入れても変わらない。
自分の好きな・・・求めて止まない肢体。

《 何か探し物でもしているのか? 》

オプティマスはジャズに見られている事も気付かずに、キョロキョロと周囲を見回している。
警戒心の強いオプティマスがそんな風にしているのは、余程大事な何かを探しているのだろうとジャズは思い声をかけようと
一歩踏み出した時だった―――。

『 オプティマス、ここにあったぞ。』

それはジャズが1番聞きたくない声だった。
その声の主は、ジャズからは死角になる位置に佇んでいた。

『 おぉ、あったか!・・・良かった。』

その声の方へと顔を向け、嬉しそうに微笑むオプティマスがジャズの視界から消える。
ジャズは慌ててその姿を追い、確認できる位置まで移動した。
そこは丁度2人の表情が確認出来る、2人からは自分の姿が確認出来ない・・・そんな所だった。
そんな場所から見えたのは何かを手に取り安堵するオプティマスと、それを見た事も無い柔らかな眼で見詰めているメガトロンの姿。

『 まったく・・・貴様の間抜けさには驚くな。』

小憎たらしい言葉を掛けながら、メガトロンがオプティマスの顔を覗き込む。

『 ・・・そんな風に言うな。ちょっと・・うっかりしただけだ。』

プゥ・・・と少しふくれながら、オプティマスがバツの悪そうに答える。
その見た事もない表情が愛らしくて、ジャズは思わず微笑んでしまった。

自分が認めたくなくとも、オプティマスとメガトロンは付き合っている事実。
それを知った時の衝撃と後悔を忘れた訳ではない。
けれど・・・あんなに和らいだオプティマスの顔が見れるのであれば、あの憎たらしい破壊大帝の存在も許せるとジャズは思った。

『 ・・・けれど、ありがとうメガトロン。折角の休日にすまなかった。』

『 まったくだ・・・だが、この後はゆっくり出来るのだろう? 』

大切そうに手の中の物を見詰めているオプティマスの顔に指をかけ、自分の方へと向かせるメガトロンの赤い瞳がキラリと輝いた。
その眼にオプティマスが一瞬ひるみ、顔を背けようとするがメガトロンの指はそれを許さなかった。

『 あ・・・あぁ・・・これが見つかれば、私は・・・・。』

そこまで言った言葉の続きは、重ねられた唇に飲み込まれた。
メガトロンにしては軽い、反応を伺うようなキス。
だがオプティマスにとってはそうではない。

『 メ、メガトロン! 』

顔を赤くしながら抗議するオプティマスに、メガトロンは悪びれる事もなく飄々と答えた。

『 ん? ワシが与えた物を無くしたと騒ぎ、共に探し見付けたのに褒美も与えない気か? 』

『 そ・・・それは・・・。』

オプティマスの反応を楽しんでいるのが分かるくらい楽しそうなメガトロンに、オプティマスが悔しそうな照れているような顔をする。
普通の恋人同士のようなこの光景が、声もなく見続けるジャズの胸をきつく締め付けていた。
あの形の良い唇に触れたいと、何度夢に見ていた事だろう―――。
その行為をあの男は易々とやってのけるのだ。
例え恋人として当たり前の行為だとしても、胸の中で燃え盛る嫉妬の炎を消す事は出来ない。

『 〜〜〜お前から貰った物だから、何時も持っていたかったのだ。だから・・・その・・・無くさないようにと・・・・。』

『 それで武器庫に落としたのなら、本末転倒ではないか・・・まったく・・・仕方が無い奴だ。』

口ではそう言いながらも、どこか嬉しそうなメガトロンはそのままオプティマスを抱き寄せる。
戸惑うオプティマスも、その指の優しさに柔らかな笑みを浮かべた。
そして再び唇を重ね合う・・・。
その姿も・・・唇の感触に溶けてゆく表情も・・・徐々に荒くなってゆく吐息も・・・すべて自分が欲しかった物だ。
けれど・・それを手に入れたのは自分ではない。
全てを破壊し、敵対してきた銀色の憎むべき男。
そのメガトロンの手が、オプティマスの背中を流れ腰をなぞる。
味わうようなゆっくりした動きに反応し、その肢体が艶やかに蠢き頬を染める―――。
当然・・・メガトロンの雄を刺激し、更なる行動へと駆り立てようとする。
それが許せなくて―――声を上げたくて―――怒りを顕にしたくて堪らないのに―――。

『 んん・・・メガ・・・だ、駄目だ!ここでは・・・。』

熱くなってゆく身体を押し退け、辛うじてそう告げるオプティマスにメガトロンが苦笑する。

『 ふん・・・たまにはタガを外してみたらどうだ? まぁ・・・お前のそんな所も気に入ってはいるがな・・・・俺の部屋に来るか?』

耳を甘噛みしながら囁くメガトロンに、オプティマスは身を震わせながら熱い吐息を吐き・・静かに頷いた。
それを見たジャズは、何かに弾かれた様にその場を飛び出した。
2人には気付かれないように・・・しかし素早く叫び出したい気持ちを抑えながら。
ジャズは格納庫から少し離れた場所まで一気に駆けて行き、振り返る事なく嗚咽を漏らした。

――――憎い、憎い、憎い!?
メガトロンが憎い!? 全てを手にしたあの男が憎い!!
けれど・・・それ以上に・・・自分が憎くて堪らない。

何故・・ああなる前に言えなかった!
何故・・自分が手に入れようと動かなかった!?
何故、何故、何故―――っ!!

そんな後悔ばかりが押し寄せる。
どんな痛みにも耐えてきた身体が、心の底からの痛みに悲鳴を上げる。
苦しくて・・・・仕方が無い・・・。

『 オプティマス・・・。』

そんな絞り出した名を、聴く者は誰もいない。
辺りを包む深闇と、軋む胸の音だけが俺の耳を満たしてゆくだけだった―――。       《完》

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