(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】


□「誰のもの?」(さる作)
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オートボットが地球に来て少し経った頃、パトロールに出かけたアイアンハイドがレノックスと共に基地に戻って来た所から話は始まる。

『 ふぅ、お疲れさん。』

アイアンハイドのトランスフォームした車体から降りながら、レノックスがそう声を掛けドアを叩く。
するとそれを待っていたかのように軋む音を立てながら、アイアンハイドがもとの姿へとその身体を変えてゆく。

『 あぁ!・・・何とも窮屈だな。身体が鈍りそうだ。』

首に手を当て、左右に振りながら不機嫌そうな顔でそう言うアイアンハイド。
それをレノックスは微笑みながら眺め思う。

何度見ても不思議な光景だ。
車がロボットに変わり、そして話す。
それぞれが個性的に、気に入った言葉を使って。

『 まぁ、そう言うな。そんなデカいまま街中を歩かれても困るしな。』

レノックスのその言葉に、アイアンハイドは不満げにフンと鼻を鳴らすも何も言わない。
一応理解はしているけれど、たまには愚痴も言いたくなると言った感じだ。
そんなアイアンハイドを微笑みながら見るレノックスは、近づいて来た部下に手渡された書類に視線を移し話し始める。
急にレノックスの意識と声が自分に向けられなくなったのを感じたアイアンハイドは、少々つまらなさそうに軽く首を傾げそのまま格納庫の奥へと進み始めた。

どうも最近自分の行動が読めない。
気分の浮き沈みが激しいし、何時も目が何かを探している気がする。
前に戦闘した時に、感情を司る部分にダメージでも負ったか?
それとも単に地球環境に慣れ始めた頃に出る、ホームシックとか言う気分の落ち込みか??
以前はバンブルビーがかかって、宥めるのに苦労した記憶がある。
しかしあんなには若くは無い自分が、そんな物にかかる筈が無い。
どちらか言えば住めば都と考えられる性格な筈だからだ。
だったら何故・・・・。

『 ・・・考えてても仕方ない・・・ラチェットに診てもらうか・・・。』

あまり気乗りはしないが、あの古狸医師のメンテナンスを受けようとアイアンハイドは決め医務室へと向かった。
こんなに気分が落ち着かない状態で戦闘に入れば、オプティマスの負担を増やすだけになってしまうと考えたからだ。
ラチェットは数千年同じ時間を過ごし、戦ってきた仲間だがどうも苦手だ。
元老院の一員だからか・・・あの掴み所のない性格のせいか・・・それとも医者のくせに何処か好戦的な所か・・・その全部か・・・。

『 腕は確かなんだがな・・・。』

溜息混じりでそんな言葉を呟いてみる。
ラチェットの部屋は格納庫近くで、割合広く造られている。
リペアするのが最低4Mのロボットとくれば、それも当然の事だった。
アイアンハイドはその医務室兼ラチェットの部屋の前で軽く咳ばらいすると、やや緊張した面持ちでドアを数回ノックし声を掛ける。

『 ラチェット、居るか?』

『 おぉ、アイアンハイドか?入って構わんよ。』

意外な事に、直ぐにそんな言葉が返ってきた。
多分仕事が終り、機嫌が良いのだろう。これならば余計な質問等は聞かれずに、直ぐにリペアをして貰えそうだとアイアンハイドは胸を撫で下ろした。

『 どうしたね?お前さんが戦闘直後以外でここに来るなんて珍しいじゃないか、明日は大嵐にでもなるんじゃないかね?』

『 抜かせ。それよりも少し診て欲しいんだが・・・。』

仕事上がりの一杯を楽しんでいたラチェットの軽口を尻目に、アイアンハイドは単刀直入に要件を告げた。
その言葉にラチェットは小首を傾げ、小さくウンウンと頷きながら手招きをする。

『 何と!?医者嫌いなお前さんが診てくれだって?良いとも、こんな珍しい事を見逃す手はない!!・・・・で?何処を診れば良いのかね?』

リペア台に腰掛けるアイアンハイドに近付き、顔を覗き込むラチェットの顔は物凄く楽しそうだ。
しかもほろ酔いなのだろう、何時もの気難しい表情など何処かに消えてしまっている。
そんなラチェットに、こんな症状を伝えて良いものかとアイアンハイドは一瞬考えてしまった。

『 あ〜〜〜・・・・と・・・・実は、最近気分の浮き沈みが激しいんだ。どこか上の空な気がするし、何かこう・・・落ち着かない。かと言って、バンブルビーのようにセイバートロンが恋しいって訳でもない・・・。どこかの回路に異常でもきたして、そう言うバグが出てるのかを知りたいんだが分かるか?』

もうここまで来てしまったのだからと、少し言葉を選びながら症状を告げてゆく。
初めのうちは興味深そうに聞いていたラチェットだったが、その内に妙ににやけた表情になり腕を組み何か言いたげな表情を浮かべ始めた。
そして最後まで言い切り、答えを待つアイアンハイドの肩を軽く叩きこんな言葉を口にする。

『 ・・・・・やっと気が付いたのかね?いや・・・私にしては黙っていた方だが、本当に焦れったくてもう待ちきれなくなりそうだったよ!?いや、本当に良い事だ!!』

ウンウンと大きく頷き、何か感心するように腕を組むラチェット。
そのラチェットの態度に驚きながらも、腹を立てないアイアンハイドでは無かった。

『 は?何だ・・・何を言っているんだ?何か気付いてたなら、何故もっと早く言わない!?俺をからかってるのか!?』

肩に置かれた手を振り払い腹立たしそうにそう返すアイアンハイドに、ラチェットは再び目を丸くし今度は呆れたように言い放つ。

『 自覚したんじゃないのか?いや、自覚しかけているのか?どちらにしても私はもう黙ってはいないぞ。黙っていられないが正しいか?』

『 だから、何をだ!俺がいま説明した症状と、何か関係があるのか!?』

ますます苛立たしそう言うアイアンハイドは、目の前のラチェットがどこか楽しそうなのが気に入らなかった。
折角真剣にリペアを受けるべきか悩み、ここまで来たのに意味の分からない事を言われる。そもそも相談しようと来たのが間違いだ。
何時ものように訓練でもして忘れた方が良かったとさえ思った。
訝しげに睨み押し黙るアイアンハイドの態度に気付いたラチェットは、その心情を察してか軽く咳払いをし如何にも医者らしい振る舞いをし始める。

『 ん、んんっ!?・・・・・そうだな・・・キチンと説明するのが私の役目だ。すまなかった。今からお前さんが感じている症状全てが当て嵌る病名を言ってやろう。覚悟は出来てるかね?』

『 病名!?やはり何処かやられてるのか?リペアはできるんだろうな?』

ようやくまともな会話をした気がする。
やはりこの感じていたものは、気付かない内に出たバグの一種なのだろう。
いくら平和になったからと言っても、自分はオプティマスに迷惑をかける訳にはいかない立場にある。
ただでさえ人間とディセプティコンの間で神経をすり減らしているのだから、これ以上負担を重くする事は絶対に避けたいのだ。

『 リペアは・・・・出来る・・・だが、それを直せるのは私ではない。』

『 何?』

『 もっと言えば、お前さんが感じているもの・・・そいつは少しばかり厄介なモンだ。下手をすれば痛手を負う。逆に上手くいけばこの先の数十年は幸せを感じられるだろう。』

『 ???? 』

何だか想像していた話からズレていくような気がする。
厄介なモノと言うのは理解できるが、上手くいけば?幸せを感じられる??

『 ・・・・・・すまんがハッキリ言ってくれるか・・・?頭がショートしそうだ・・・。』

さっきまで感じていなかった頭痛に顔を顰め、淡々とした声でそう問い掛けるアイアンハイドにラチェットは小さく頷くと静かに話し始めた。

『 良いとも。・・・良いかアイアンハイド・・・お前さんはいま、恋の病にかかってる。』

『 は?』

『 オプティマスの補佐や、若手の育成に忙しく色気のいの字も無かったお前さんにようやく春が訪れたんだなぁ・・・・。』

『 何?』

『 随分と長い付き合いだが、こんなに嬉しい事は無いぞ。』

『 ちょっ・・・ちょっと待て!』

『 後はこの恋を、どうやって実らせるかだが・・・・・。』

『 だから、ちょっと待ってくれ!?』

頭を押さえながら必死に制止をかけるアイアンハイドに、ラチェットは不満そうな視線を向け言葉を止めた。

『 何かね・・・。』

いかにも不満げなラチェットの返事に、アイアンハイドは構っている余裕が無い。
告げられた言葉の意味を追うので精一杯だからだ。
それもその筈・・・自分が誰かに恋してると言われても、まるで自覚の無いアイアンハイドには混乱の種にしかならない。
しかも相手が誰なのかすら分からないのに、何でああそうですかと納得できるだろうか。

『 誰が・・・どうしてるって・・・?』

ようやく出てきた言葉すら詰まる。
まったくこれだから純情奥手戦闘武器オタクはと、ラチェットは溜息を付き静かに答えた。

『 お前さんが、恋をしている。』

『 ・・・誰に・・・?』

『 君のパートナーに。』

『 ・・・・・・・・レノ・・・・???』

ようやく出てきた名前に、ラチェットは笑顔になり満足げに頷く。
そして浅い溜息を付きながら、再びアイアンハイドの肩を掴み軽く揺すった。

『 やっと名前を出せたな・・・うんうん・・・・2人の間の事だからな、私は口しか出せんが最後まで見守っているからな。頑張るんだぞ。』

その言葉にアイアンハイドは固まり、身動きひとつしなくなってしまう。
余りの急展開に、ブレインがオーバヒートし機能停止でも起こしたかとラチェットが思ったくらいだ。
しかし次の瞬間には顔を真っ赤にし、鼻を汽笛の様に鳴らしながら必死に詰め寄った。

『 ちょ・・・・・ちょっと待て!何でそんな話になる!?』

『 何回待たせるんだ?今言った通りだ。お前さんは、理由はどうあれ、レノックスの事が気にかかって仕方がない。彼の一挙一動が気になるのは、恋の始まりそのものじゃないか。・・・まさか・・・これが初恋とか言うんじゃ・・・・?』

ラチェットのその言葉に、再び汽笛のような音を立てアイアンハイドが反論する。

『 ば・・・・そんな訳無い!一応子供の頃に済ませたって・・・・そんな話はどうでも良い!!』

アイアンハイドの取り乱し様に、ラチェットの悪戯心が疼いてしまう。
何千年ぶりかでこの男をからかうネタが入ったのだ、たまには充分楽しんでもバチは当たるまい・・・。

『 何かね・・・レノックスでは不満なのか?』

『 ふ・不満もなにも・・・・アイツは人間で、俺はサイバトロ・・・・。』

『 そんな事は特に問題はなかろう?もともと我々に性別の意識は無かったのだし、好きか嫌いかだけが重要要素ではないか。』

真剣な表情を浮かべつつ、アイアンハイドに詰め寄るラチェット・・・。
そんなラチェットの言葉と、急に切り出された恋の話にアイアンハイドのブレインはオーバーヒート寸前だった。
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