(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】


□「貴方に」(さる作)
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何時からこんなに意識をするようになったのか、それすらもう覚えてはいない。
そもそも自分の種族以外に余り興味はなく、指一本で命を奪える種族に興味など持てなかった。
自分の大切な物は、セイバートロン星とそれを統べるオプティマス・プライム。
この星に来たのもそれをする為に必要なキューブを得る事と、宿敵メガトロンを倒す為だった筈なのに・・・・。

『 アイアンハイド! 今日の訓練も頼むぞ!? 』

聞きなれた心地良い声が俺の名前を呼び、その小さくも力強い手でボディを叩く。

『 また踏み潰さないように気を付けなければならんな? 』

その手の温度を感じながら、俺はフンと鼻を鳴らしそんな憎まれ口を叩いてみせる。
だがそんな言葉等、まったく気にせずレノックスは笑い部下を引き連れ先を歩いてゆく。
それが何とも言えない気持ちを呼び、僅かにスパークが揺れるのを感じた。
軍人にしては華奢な体つきだが、判断力に優れ部下を率いるレノックス・・・。
セイバートロンで出会ったどの戦士にも負けない意志と、行動力を持っていると感心する。
こんな弱い肉体を持つ有機生命体なのに・・・そんな考えすら消えてしまう。

ラチェットは言う。
本当に強いとは、彼の事を言うのではないかと。
俺も思う。
本当の強さは、武器を全身に付けている事ではないのだと。

『 俺は強くないさ・・・守りたい者がいて、仲間がいるから強くなれるだけ・・・・勿論、それにはお前さんも含まれてるがな。 』

ふとした時に聞いた問いに、そう答えたレノックスの答えに俺は驚きを隠せなかった。
それは遠い昔・・・オプティマスから聞いた言葉と同じだったからだ。
永劫に近い戦いと旅路の中、時折心が折れそうになる。
夢に見る故郷の星・・・燃え盛る炎と仲間達の悲鳴・・・踏み砕かれる屍・・・。
醒めない悪夢・・・繰り返す怒りと虚脱感。
胸の中で大きくなる痛みが、ブレインを狂わせ自分自身を壊したくなる。
そんな痛みに耐え切れず心の内を吐き出した俺に、オプティマスは悲しげな表情を浮かべこう言ったのだ。

『 アイアンハイド・・・私だとて1人では弱い。長き旅路の中・・・お前と同じように思った事もある。けれど・・・守りたい物やお前のような仲間がいてくれるから、私は何度でも立ち上がれるのだ・・・。 』

そう言い差し伸べる手の温もりと碧い双眼が、折れそうな気持ちを奮い立たせもう1度立ち上がる勇気を与えてくれた。
守ると決めたオプティマスに、守られた最初で最後の遠い記憶・・・。
いま・・・それと同じ事をレノックスはしてくれている。
最後の戦いが近い中、新たに生まれたこの気持ちをお前にどう伝えれば良いのだろうか・・・。

『 お前さんは良い奴だな。 』

『 ? 何だ? 今頃分かったのか? 』

不思議そうな顔で笑いながらそう言うお前に、俺のスパークは力強い鼓動を始める。

お前の守りたい物を俺は守りたい。
お前の見つめる物を俺も見ていたい。
お前の感じる全てを俺も感じてみたい。

仲間と故郷を忘れはしない・・・けれど、それと同じようにこの星を守りたいと願う。
それがお前の・・・・願う事だから―――。

『 見ろよアイアンハイド・・・綺麗な夕日だ・・・。 』

泥だらけの顔で、微笑みながらそういうレノックスの視線の先を追う。
この星の生命を育む陽の光が眩しい・・・。

『 貴方にこの世界の美しいものを見せたい――。私の命の続く限り、貴方にそれを与えてあげたい――。だから私に貴方をください―――。 』

『 ・・・・・何だそれは・・・・。 』

夕日を眺めながら呟いたレノックスに、アイアンハイドは疑問を投げ掛ける。
すると照れ笑いをしながらレノックスはこう答えた。

『 ・・・・結婚前に妻に送った詩だ。何故だか急に思い出してね・・・・。 らしくないだろ? 』

小首を傾げながらそういうレノックスのはにかんだ笑顔に、アイアンハイドのスパークは感じた事がない温かさに包まれた。
けれどそれをどう表現して良いか分からず、アイアンハイドは言葉に詰まってしまう。
それを悟られるのを嫌い、顔を夕日の方へと向け見詰め―――間を置いて一言だけ答えた。

『 ・・・・いや・・・・そんな事は無い・・・・。 』

無表情ながらも、思いがけない褒め言葉にレノックスは微笑しながら微笑む。

『 そうか? 何か・・・照れくさいな・・・。さ、さあ帰還するぞ!? 』

照れ隠しもあるのか、アイアンハイドの顔を一瞥し笑うとそう指示を出した。
そして部下達の待つ場所へと先に歩き出す。
その小さくも存在感のある背中を見つめながら、アイアンハイドは先程聞いた詩を思い出していた。

《 貴方にこの世界の美しいものを見せたい――。私の命の続く限り、貴方にそれを与えてあげたい――。だから私に貴方をください―――。 》

言葉の一つ一つに想いを感じる・・・その感じる想いがお前の願いならば、俺はお前の為にその願いを叶える為の努力をしよう―――。
そして歩み出す・・・彼と共に生きる為に。
その想い、願う事が恋と気付かず―――。       《完》

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