(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】


□「願い乞う」(さる作)
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その日―――俺達は人間の作ったある物を観た。

それは昔から語られている物語で、死んだ女が恋しい男を求め流離い連れ去ると言う物だった。
人間の中にある魂が肉体から抜け出し、生きている人間を殺す……。
皆は馬鹿馬鹿しいと笑い、人間の方が恐ろしいなと互いの顔を見合わせた。
こんな現象があるならお目にかかってみたいとさえ……。
その言葉にそうだなと答え嘲笑を浮かべる俺は、本当は別な事を考えていた。

もしも自分がそうなったなら、俺はブラックアウトを連れに来てしまうかもしれない。
もう二度と触れられず声すら届かないのならば、その身体を滅ぼし魂を抱き締め眠りに付きたい……と。

口にすると現実になってしまいそうなその考えを押し殺し、俺はただ黙ってその物語を見続けた―――。

『 結構面白かったな。人間は俺達のようにオールスバークに還るとは考えず、無に帰してしまうと考えるのが不思議だが……。』

『 ……そうだな。』

物語が終り、それぞれが思った事を口にする。
他愛ない日常の光景……目の前にいるブラックアウトも、皆の言葉に頷き笑い言葉を交わす。
何時もならば気にも留めないその光景が、今日は何故か遠く感じてしまうのはさっきの考えのせいだろう。
それでも俺は言葉を飲み込み、皆が笑うのに合わせ醒めた笑いを浮かべる。
ブラックアウトの訝しい表情にすら気付かずに……。



『 さっきはどうかしたのか? 』

深夜……2人きりの部屋、不意にブラックアウトがそう声を掛けてきた。
俺は初め何の事か分からず、ただブラックアウトを見詰めていた。
……が、直ぐにその言葉の意味を察し目を伏せて答えた。

『 ……何でもない……くだらない事だ……。 』

自分の手を見詰めながらそう言う俺に、ブラックアウトは再び声を掛けてくる。

『 本当か? 』

今度は顔を近く、俺を覗き込む様にしながら……。
その表情が余りにも柔らかく……その目が嘘を付くなと訴えかけてくる。
そんなブラックアウトの顔が胸につき、俺はホンの少しだけ躊躇しながら口を開いた。

『 ……さっきの物語の女がした事を、お前にしてしまうかも知れないと考えただけだ……くだらん……戯言だ。 』

そう言いながらブラックアウトの頬に触れ笑う。
きっと馬鹿な考えをしてると呆れているだろうと俺は思った。
ブラックアウトは少し困ったような表情を浮かべたまま、黙って俺を見詰めていたからだ。
あんな馬鹿な話を真に受けたのかと笑うだろうと……。
けれどブラックアウトは自分の頬に添えられた俺の手のひらに口付けし、少し間を置いてから意外な言葉を俺に聞かせた。

『 ……そうか……もしお前がそう望むなら……俺をお前の所に連れていけ。俺はお前の望むままに何処へでも行ってやる。 』

『 何……!? 』

驚き声を漏らす俺を、ブラックアウトは見据えながら言葉を続けた。

『 あの時……俺もお前と似たような事を考えていた。もしも自分がオールスパークに帰す事があったなら、
 その時にお前の事をどうするだろうかってな……。あの女のようにお前を連れ去ろうとするかと……。』

そこまで言うと不意に唇を重ねられる。
心地良いその感触にスパークが締め付けられるのを感じた。

『 ……こうして触れられない……抱き締める事さえも出来無くなったなら、俺はどうなるだろうかとな……。 』

『 あぁ……。』

同じように考えを巡らせてくれていた事が嬉しくて、触れられている部分が徐々に熱を持つのが心地良かった。
そしてその言葉の先が聞きたくて、強請るように指で唇をなぞる。
ブラックアウトはその指を甘噛みし、再び俺を見詰めるとこう囁いた。

『 だから俺はお前の為に、どんな事をしてでも生き残ると決めた。戦いでどんなにボロボロになろうと……
 身体の1部が引きちぎられ様と、必ずお前の元に帰りお前を抱き締めると決めた。
 何時かオールスパークに帰す時も、お前を抱いたまま行きたいと願っている。』

その囁きは俺とは正反対で、ブラックアウトの気性そのままを表しているようだった。
くだらないと呆れるでもなく、真剣に答えをくれるブラックアウトに俺は何か言いたかった。
けれど言うべき言葉が見付からず、口に付いたのは愛しい音そのもの―――。

『 ブラックアウト……。』

その音にブラックアウトは微笑み、告げる。

『 お前が考えを変える必要はない。お前はお前のしたい事をやれ……だがなバリケード……俺を置いていく事だけは考えるな。
 この身体もスパーク……何もかもお前の物だ……お前が持って行ってくれ……。』

そうしてブラックアウトは俺を抱き締める。
俺はその胸の中でブラックアウトの願い乞う言葉に酔いしれ目を閉じた―――。       《完》
 

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