(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】


□「眠り姫」(さる作)
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『 ウルトラマグナス……あれは何なんだ? 』

ラチェットとの打ち合わせ中、不意にそんな問い掛けをされる。
何とも訝しげな表情で、ウルトラマグナスの背後へと視線を流すラチェット。
そのラチェットの問い掛けにウルトラマグナスは、少しばかり困った表情を浮かべながら小さく溜息を付いた。

『 ……すまないドクター……気にしなくて良いので、このまま話を続けてくれないだろうか……? 』

ウルトラマグナスの答えにやはり訝しい表情を浮かべるラチェットは、肩を竦める事で理解の意を表した。
ラチェットが訝しい表情を浮かべる原因……それは、ウルトラマグナスの背後にあるドアの隙間から様子を伺っているロディマスだった。
何時もならば屈託なく話しかけ真剣な話なら立ち去り、他愛ない世間話なら自分も加わってくるようなロディマス。
それが今日はどうした事か、薄く開いたドアの隙間からジッと様子を伺うだけに留まっている。
隠れて何かしようとしているのかと思ってみたラチェットだったが、それにしては身体が隠しきれていない。
寧ろ声をかけろと言わんばかりに半身をはみ出させている。
良くも悪くも猪突猛進なロディマスがああ言う行動をすると言う事は、ウルトラマグナスとの間に何かあったのだろうと推測しラチェットは声に出したのだ。
その考えは正しかったらしくウルトラマグナスの反応の仕方もおかしかった事から、2人でまた何か言い争って喧嘩別れにでもなったのだろう……
謝れば許すウルトラマグナスに、素直に謝れないロディマスがああして何かアピールしているのだろうとラチェットは考えた。
ならば自分が口出しする必要は無い。
犬も食わない喧嘩に口出しして良い事があった試しなどないからなと思った。

『 ……私が欲しい物資はさっき報告した通りだ。 』

『 了解した。次の燃料補給の際調達しておこう。手に入りにくい物の代理品等も記入しておいてくれると有難い。』

『 分かった、それは後でファルマに報告させよう。 』

背中越しの何とも粘っこい視線に耐えながら、ウルトラマグナスはラチェットとの打ち合わせを終え部屋を出る準備をし始める。
その様子を眺めながらラチェットは何の気無しに視線を上げると、何時の間にかロディマスの姿は無くなっていた。
どうやら部屋を出ようとするウルトラマグナスの様子に、急いでその場から離れ何処かに行ってしまったらしい。
どれだけ気不味い喧嘩をしたのかと不安になってしまう。

『 ではドクター……失礼する。』

平静を装っているウルトラマグナスもロディマスの行動が気にかかるようで、部屋を出て行く際に用心深くドアを開けるくらいだ。
ぶつからないようになのか、別の意味なのかは分からないが見た事のない様子につい笑ってしまう。
だからこんなお節介な言葉をかけてしまった。

『 ウルトラマグナス、何があったか知らんがスキッズ達に勘付かれる前に早めに仲直りしておけ。』

その言葉に驚き、振り返るウルトラマグナスは思い切りドアに頭を打ち付けてしまう。
余りの衝撃音に、どっちかが壊れたんじゃないかと思うくらいだ。
その痛みを堪えながらウルトラマグナスは軽く手を上げ、了解の意を示すとその場を立ち去っていった。

痛む額に手をやりながら、ウルトラマグナスは小さく溜息を付いた。
ラチェットが訝しむのも分かるあのロディマスの行動は、確かに自分の言葉が原因だと思っていたからだ。
それは本当に些細な言葉だった―――。


『 なぁマグ……お前ちゃんと休んでんのかよ? 』

次の航海ルートについての話を終えた瞬間、ロディマスの口からそんな言葉が出された。

『 ……必要な休憩は取っている。』

何故急にそんな事を言うのかと訝しむウルトラマグナスに、ロディマスは少し不機嫌そうな表情を浮かべこう詰め寄る。

『 俺が言ってるのはあんな5分10分程度椅子に座るとかじゃなくて、ちゃんと飯食って寝てんのかって話だよ! 』

ロディマスのその物言いに、ウルトラマグナスは少しムッとしてしまう。
自分はやらなければならない仕事が山積みで、その中にはロディマスがやらなければならない仕事も含まれているからだ。
それを片付け順調に物事を進むようにしているのに、何故そんな言い方で注意されなくてはならないのかと思った。

『 ……君ほど自由な時間はないが、それなりに休み食事も取っている。』

自分でも分かるほど、急激に不機嫌な物言いでこう答える。
当然、その答えにロディマスは不満を漏らした。

『 何だよその言い方……心配してやってるんだろ!? 』

そう言われれば当然こう言う答えが返る。

『 してやってる? してくれと言った覚えはないし、してもらう必要も無い。』

当然、この先は言い争いになる。
今考えれば疲れていたのかも知れない。
でなければあんなに神経に障るなんて有り得ないからだ。
ロディマスはそれを察知し、それとなく言おうとしていたのかも知れない。
しかしロディマスはぶっきらぼうな言い方しか出来ず、ウルトラマグナスも売り言葉に買い言葉になってしまった。
それが丁度3日前の出来事だった―――。

その後直ぐに謝れば良かったのかも知れない。
次の日にはロディマスも何か言いたげにしていたのも分かっている。
けれどどう言う言葉を掛けたら良いのか分からず、言うタイミングも無いまま今日まで来てしまった。
結果……今朝からずっとロディマスはああ言う行動をとり続けている。
物陰や人影に隠れジッと様子を伺っているのに、話しかけようとしたり近付くと逃げてしまう。
一体何がしたいのか分からず、放っておけば付いてくる。
揚句、ラチェットに心配される羽目になった。

『 ……いったいどうすればロディマスは満足するんだ……。』

そんな事を呟いてしまう。
自室に戻り痛む頭を摩りながら書類をテーブルに上に置く。
ウルトラマグナスはその横にある、ソファにその身体を落とし横になった。

『 ……酷く痛むな……そんなに思い切りぶつかっただろうか……? 』

ジワジワと痛む額を摩りながらそう言い、軽く目を閉じた。
本当に痛いのは頭だけじゃないと分かっている。
あの時……ロディマスが一瞬悲しそうな顔で自分を見詰めた。
言うか言わまいか……悩んだのだろう言葉を拒否したも同然だ。
ロディマスが本当に言いたかった言葉を理解しながら、何故素直になれないのかが苛立たしい。

『 ……いや……違うな……。』

そう考えた自分に否定の言葉を返す。
本当はロディマスに嫌われてしまったかもしれないと考えるのが怖かったのだ。
あんな顔をさせて、心配する気持ちを踏みにじってしまった。
呆れ返り、お前なんかもう知らないと言われるのが怖くて会話を避けていたのだ。
あの行動も言い争いをした事を謝ろうとしているだけだと考えてしまう。
それだけウルトラマグナスにとってロディマスは大切な存在になっていた―――。

けれどこのままにしておく訳にもいかない。
ラチェットの言う通り、他の船員に迷惑がかからないうちに何とかしなければならない。
もういい加減、逃げるのは止めようとウルトラマグナスは思った。
少し休んだらロディマスに会いに行こう……。
目を閉じたままそう考えるウルトラマグナスは、何時の間にか浅い眠りに堕ちていった。

何れ位時間が経ったのか……ウルトラマグナスはふと眠りから醒めた。
とは言ってもまだ半覚醒状態で、目は閉じたままだった。
虚ろな意識でうたた寝してしまった事に驚き、ロディマスの言う通り身体は疲れていた事に気付かされる。
そんな自分の傍に誰かが立ち、顔を覗き込んでいるような気がしてならない。
誰なのか確かめようにも、身体が怠く上手く動かせない。
そんな自分の額に触れる手の感触に、そこにいるのがロディマスだと気付く。
久し振りに触れたその手は優しく、温かかった。
冷ややかだった気持ちが和らいだ時、ふと上からロディマスの声が聞こえてきた。

『 ……やっぱり疲れてんじゃねぇかよ……馬鹿……。』

起こさないように気を使っているのか、手の動きは柔らかく静かだ。
ウルトラマグナスはそれが気持ちよくて、起きている事が分からないように身動き一つしなかった。
それに気付かないロディマスは寝顔を覗き込む様にしながら言葉を続ける。

『 ここにある書類も殆ど俺の仕事じゃん……俺そんなに頼りねぇのか……? 』

ロディマスの吐息が頬にかかる。
頼りないと思ってはいない。
皆の為に動くロディマスの負担を減らしたかっただけだ。
額を撫でていた手が頬に移り、指が頬の輪郭を確かめる様に蠢く。

『 ……俺……お前に休んで欲しかっただけなのに……あんな言い方しかできなくてごめんな……。』

その言葉の後、僅かに間が開いた。
そして吐息が近付く気配がウルトラマグナスの全身を刺激する。
彼にだけそんな言葉を言わせて良いのかと何かが囁く。
そして唇が触れる瞬間、ウルトラマグナスの腕はロディマスの身体を抱き締め愛しい気にそれを味わった。

『 ん……! 』

驚き身を固くするロディマスも、その甘いキスに酔い甘受する。

『 ……んだよ……起きてたんじゃねぇか……。』

唇が離れると拗ねたようにそう言うロディマスに、ウルトラマグナスは苦笑いし頬にキスをする。

『 起きてたんじゃない……君に起こされたんだよ。私も悪かった……許してくれるか? 』

その言葉にロディマスは微笑み、いたずらっぽく言葉を返した。

『 王子様のキスで目覚めた姫に冷たくなんかできねえよ。』

思わぬ返答に目を丸くしながらも、やはり微笑みながらウルトラマグナスも答える。

『 それでは王子様、目覚めのキスをもう1度……。』

そこから先は甘い夜の始まり―――       《完》

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