(*◎_⊃◎)つ【ruvie's contrivance institute】
□「君に何度でも恋する」(さる作)
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とある日の朝……何時までも姿を現さないウルトラマグナスを心配し、ロディマスはラチェットと共に部屋へと向かう。
毎日決まった時間に起き、毎日決まった時間まで仕事を終わらせ決まった時間に眠る……。
そんな規則正しい日々を繰り返していたウルトラマグナスが、定時になっても姿を現さないのだ。
これはもう、体調がすぐれないか何かあったと考えざるを得ない。
『侵入者の反応は無いとパーセプターは言っているんだな?』
急ぎ足で進みながら、ラチェットがロディマスにそう問いかける。
するとロディマスは小刻みに頷き、ラチェットの方へと視線を流した。
『形跡はね……でも、形跡を残さずに侵入出来ない訳じゃない。だからこうして1人で向かわずに、2人でウルトラマグナスの部屋へ向かってるんじゃないか。』
『慎重な考えではあるが、人選は間違えてるな。まぁ、体調がすぐれないと考えるのが妥当だと私も思うがね。』
ラチェットの言葉にロディマスは、少しだけ唇を尖らせムッとする。
確かに侵入者がウルトラマグナスに……と考えるのは難しい。
そもそも誰にも見られず、反応も出さないと言うのは至難の技だ。
だから医師であるラチェットに声を掛け、こうして共に歩いている。
『……そんな分析はラングの管轄だろ? ほら、部屋に着いたから早く確認しようぜ。』
ウルトラマグナスの部屋の前で立ち止まり、万が一に備えてラチェットは銃を構える。
そしてロディマスもドアの正面ではなく、ドア横の壁に身体を置いた。
これでドアを開けた瞬間に撃ち抜かれる危険性は無い。
そうしてやっとドアをノックする。
『……マグナス? ウルトラマグナス……居ないのか? 』
ラチェットの声が通路に響き渡る。
もう一度ノックし、今度はロディマスが声を掛けた。
『おいマグナス……あんたが寝坊なんて珍し過ぎるけど、別に気にしないで出てこいよ。』
何時もの軽い調子の言葉も、虚しく通路に響くだけだった。
『……入るぞ。』
業を煮やしたラチェットがそう言うと、ロディマスも真剣な表情で頷いた。
そしてドアの開閉ボタンを押し、開いたと同時に銃を構えながら室内へと飛び込んだ。
だが……そこにウルトラマグナスの姿は無く、灯りも消されたままだった。
『……侵入者なし……パーセプター! モニターに反応は?』
《君達のいる場所には君達以外の反応は無い。だが隣室に誰かの反応がある。》
通信越しのパーセプターの物言いに、ロディマスは訝しげな表情を浮かべる。
『……ウルトラマグナスじゃないのか?』
その問いにパーセプターは、不可思議な答えを口にした。
《反応そのものはウルトラマグナスなんだが、私の通信に応えないんだ。それ処か私の名を聞いても知らない……分からないと独り言を繰り返すだけで要領を得ない。》
その答えにロディマスとラチェットは顔を見合せ、銃をしまうと隣室であるベッドルームへと移動した。
一応の用心はしながらソッと扉を開き中を覗き込む。
すると大きな窓辺に立ち尽くし、身動きしないウルトラマグナスの姿が確認できた。
その事に安心し、ゆっくりと室内へと入り声を掛ける。
『マグナス! 何だよ、何突っ立てんだよ。心配しちまっただろ?』
ホッとした表情で、笑いながら声を掛けるロディマス。
そんなロディマスをウルトラマグナスは不思議そうに見詰め……そしてこう言った。
『……君は誰だ……? 私は何故……ここにいる……?』
その言葉に驚き顔を歪めるロディマスに戸惑い、そのまま視線をラチェットへと向けウルトラマグナスは同じ様な質問をした。
『……貴方は医者か……? 私は何故……この船は何処に向かってる?』
『……マグナス……。』
『……マグナス? それが私の名前か……? 頭が……酷く痛む……。』
ロディマスがポツリと溢した名前にそう反応し、ウルトラマグナスは顔を歪め頭に手をやった。
そんなウルトラマグナスに、ロディマスは戸惑いラチェットへて視線を移す。
するとラチェットは、ロディマスに静かにするように合図した。
不用意な言葉や戸惑いの言葉が、ウルトラマグナスを益々混乱させてしまうと思ったからだ。
『……マグナス、君の言う通り私は医者だ。君は私の患者で、治療の為にこの船に同行している。痛みが酷いなら、取り敢えずメディカルルームへ行こう。』
『了解した……彼は……?』
ラチェットに手を引かれながら歩き出すも、ふと……気になったのかロディマスの方を見詰めそう問い掛けた。
その視線にロディマスの身体は小さく震える。
向けられた視線は、他人を見る目でだったからだ。
『彼はこの船の船長で、ロディマスと言う。君の面倒を良く見てくれてる。』
ラチェットの説明に、ロディマスは思わず何かを言いそうになった。
何を……と聞かれても分からない
ただ何かを叫びそうになったのは確かだ。
『そうなのか……すまない……覚えて……いないんだ……。』
痛みに耐えながらもロディマスを見詰めるウルトラマグナスに、ロディマスは必死に微笑みただ手を上げ早く行けと言うように軽く振った。
『さあマグナス……歩けるかね?』
『あぁ……大丈夫だ……。』
ラチェットに導かれながら歩き出し、部屋を後にするウルトラマグナス……。
彼は残されたロディマスを、一度も振り返らなかった。
それが何よりも辛く、悲しかった。
『ロディマス……お前も後からメディカルルームへ来るんだ。気持ちが落ち着いてからで構わないからな……。』
明らかに動揺しているロディマスに、ラチェットはそう声を掛け部屋を出ていく。
遠くで響くドアの閉まる音と遠ざかる足音に、ロディマスはようやく声を荒げ叫んだ。
『……何だよ……何なんだよ! 何だよ知らないって………ふざけんなよ!? 笑えねえんだよ!!』
暗い部屋にロディマスの悲痛な声だけが響く―――。
数時間後……ウルトラマグナスは、まだメディカルルームから出られないでいた。
あの直後、全身のスキャンから始まり神経系統までの診察を受ける。
その時に微細なウィルスが見付かり、それを除去・調整に時間がかかったのだ。
万が一を想定し、直に接触したラチェット含む医療チームとロディマスも滅菌ルームで隔離検査を行った。
幸い誰にも感染は見られず、皆が安堵の溜め息を付く。
しかしロディマスだけは、ガラス越しにラングの診察を受けるウルトラマグナスの姿を険しい表情で見詰めていた。
『ラチェット……ウルトラマグナスの自室を含む全ての居住区のチェックが終了した。特に問題はなさそうだ。』
パーセプターからの報告に、ラチェットは頷きカルテから視線を上げる。
その表情は何時に無く困惑していた。
『……良くないのか?』
そんなパーセプターの言葉に、ラチェットは眉間に皺を寄せた。
『悪いなんてものじゃない……ロディマス! こっちに来てくれ……。』
ラチェットの呼び掛けに、ロディマスは振り向き静かに歩み寄った。
その表情に何時もの明るさは無くなっていた。
『……何だよ……』
力無くそう問い掛けるロディマスに、ラチェットは静かに…ゆっくりと説明を始めた。
『……良いかロディマス……落ち着いて聞いてくれ。先ずウルトラマグナスが感染したウィルスは全て除去された、これで頭痛や不具合からは解放されるだろう。他の者への感染も無い……だが問題がある。』
ラチェットはそこまで言うと、深い溜め息を付き少しだけ間を置いてから言葉を続けた。
『………ウィルスはウルトラマグナスの神経系統に影響を及ぼしたんだ。』
『物忘れが激しくなったとか?』
苦笑いを浮かべながら、茶化すようにロディマスが口を挟む。
けれどラチェットから聞かされたのは、想定していた以上のものだった。
『……それならばまだ良い……治してやれるし、本人次第でいくらでも回復出来るからな。だが……そうではない……ウルトラマグナスの記憶そのものが消去……若しくは欠如していて回復の見込みが無いんだ……。』
『――――! ?』
足元から底の見えない闇に落とされたように、全身が冷たく目の前が真っ暗になる。
それに恐怖感を覚え、思わず自分を抱き締めた。
―――いま――
―――何て―――!?
『いまラングが診ているが、殆どの記憶が無いとみて良いだろう。通常の業務や他の者との交流は、時間が経てば何とかなる……それだとてかなりの時間を要するだろうがな……。』
『――ロディマス!?』
ラチェットの言葉に、ロディマスの身体が倒れそうになる。
それをパーセプターが受け止め、支えた。
『……ぃや……だ。』
パーセプターの腕に縋り付き、小刻みに震えるロディマスは泣きそうな表情でラチェットを見詰めた。
それが余りにも辛そうで、ラチェットの胸も酷く痛んだ。だが……現実は変えられない。
『……すまない。』
ラチェットのその謝罪は、ロディマスにとっては死を告げる言葉よりも重く苦しい言葉だった―――。
『――――〜〜〜マグナス!? マグナス!? 何で………何でだよ!! 』
ロディマスは空間を遮るガラス窓を強く叩きながらそう叫んだ。
昨日……眠る前までは普通だった。
何時ものように他愛ない話をし、キスをして笑いあった。
仕事が残っているからと、自室に戻るウルトラマグナスを引き留めていたらこんな風にならなかったのか……そんな想いでロディマスは叫び続けた。
『ロディマス……ロディマス!? 止めるんだ!! 』
『やだ……嫌だ!? マグナス!?』
泣き叫ぶロディマスに、ラチェットは仕方無く鎮静剤を投与する。
その痛みと暗くなる視界に、ロディマスはどうか夢であるようにと祈りを捧げた。
崩れ落ちる身体をラチェットは受け止め、そっとベッドに横たわらせる。
その一部始終をウルトラマグナスは、ラングと共に眺めていた。
『どうやら落ち着いたようですね……。』
記憶を無くし不安気なウルトラマグナスに、ラングは気遣い柔らかな声で語り掛ける。
『……心配しなくても大丈夫ですよ。あちらには優秀な医者がいますからね。』
『そうなのか……? いや……そうだな。』
その曖昧な答えに、ラングはウルトラマグナスの中で変化が起きていると予測し言葉を続けた。
『どうしました? ……彼が信頼出来ないですか?』
『違う! ……彼の医療技術は素晴らしいし、とても親切だと思っている。』
そう言いながら、視線をガラス越しに横たわるロディマスへと移した。
その目がとても優しく……そして不安そうだった。
『ロディマスが心配ですか?』
不安そうだったパルスが、いまは心配そうなものに変化をしている。
もしかしたら、そこから治療の足掛かりが見つかるかも知れない。
ラングは柔らかな笑みを浮かべながら、静かにウルトラマグナスへとそう問い掛けた。
するとウルトラマグナスは戸惑ったようにラングの方に向き直り、そして直ぐに視線をロディマスへと戻して囁くように答える。
『…!? ………分からない………けれど………。』
『けれど……なんです?』
『……彼が泣いている顔を見ると、頭とスパークが割れそうに痛む……おかしいと思うのだが……守らなければならないと……。』
その答えにラングは微笑み、小さく首を振った。
『いいえ、ちっともおかしくありませんよ? 貴方とロディマスは特別でしたからね。』
『…特別?』
ラングを見詰めながら繰り返すウルトラマグナスは、そのまま思案の海に身を投げてしまう。
それをラングは窘め、休むように指示をした。
『急に沢山の事を考えては駄目です。今日はもう休みましょう……。後でロディマスともゆっくり話すと良いですよ。』
ラングの言葉に、ウルトラマグナスは少し考え頷いた。
頭が重い……身体が、神経が休息を求めている。
彼と話すのは、それからだと考えメディカルルーム奧のベッドへと倒れ込んだ。