<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「●〓△ fix the boundary △〓●」(月夜野さる著)
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賑やかな街の中、行き交う人々は何時もと変わらぬ日常を過ごしていた。友人と笑いながら歩く者、音楽を聴きながら目的地に急ぐ自転車に乗った者・・・立ち昇る下水からの湯気が街を包む冬の朝・・・1人の若者が自分の住むアパートの屋上に佇んでいた。金の髪を風に揺らしビルの端に立つ彼の目には生気が無く、そのやせ細った身体を支える足にも力が無かった。その彼が出て来たであろう屋上と階下を繋ぐ扉の向こうから聞こえて来る足音に彼はゆっくりと振り返り・・・・・その身を空に投げ出した。青い空が目の前に広がり、逆さまの世界に変わる時・・・目の端に写った人物に向かい何かを囁いた。
彼の身体を捕まえようと伸ばされた手は僅かに届かず、微かに聞き取れた言葉を最後に彼の身体は人々の行き交う道の上に嫌な音を立て横たわる・・・・・。その一部始終を見ていた彼に手を差し出した人物は、その光景に一瞬言葉を失い・・・・次に悲鳴の様な声で彼の名を叫んだ―――!?
だが・・・その叫びは街の喧騒と遠くから聞こえて来るサイレンの音でかき消され、その嘆きを知るのは晴れ渡った青い空だけだった・・・。




その光景から数ヵ月後のとある夜・・・トムは灯りの消えかかった街中をバイクに乗り走っていた。

『思ったよりも遅くなっちまったな・・・パパが帰って来るまでに家に居ないと、又外出禁止になっちまう。』

学校の友人達と勉強会と称した夜遊びをしていたトムは、22時には家に着いているつもりだった。
いくら遅くなると言って来たとは言え、父親が帰宅するであろう23時までには家に居なければ大変な事になる・・・職業柄厳しい父親の言う通りの時間に家に居ない事は、自分が自由を失う事だと彼は良く知っていた。

『時間的にやばいし、少し飛ばすか・・・』

そう思いアクセルに手を掛けた瞬間、彼の右側から一台の車が飛び出してきた。彼は余りに突然なその出来事に慌ててブレーキを踏みハンドルを切った。車の運転手も急ブレーキを掛け、彼を避けようとする。迫り来る車のボンネットに一瞬トムは目を瞑った・・・が・・・その身体に衝撃は起こらず変わりに車のボンネットの温かさがトムの右足に感じられた。
恐る恐る目を開くトムの目の前には車のヘッドライトが眩しく光り、衝突寸前でお互いが止まった事を照らし出していた。その事実に思わず安堵の溜息を付いたトムは、一呼吸置いてから車に向かって怒鳴り付けた。

『・・・馬鹿野郎!?急に飛び出して来るんじゃねぇよ!!』

静かな夜の街にトムの声が響く・・・するとゆっくりと車の扉が開き、中から誰かが降りて来た。トムはその人物の顔を見ようと目を凝らすが、自分の目の前にあるヘッドライトの強力な灯りがそれを遮った。眩しそうに目を窄めるトムに向かい、中年の男の声が話し掛けて来た。

『あぁ・・・すまないね。こんな夜更けにこんな住宅街を猛スピードで走っているなんて思わなかったから・・・怪我は無いかい・・?』

その声はとても低く・・・落ち着いていた。危うくひかれそうになったトムにしてみればその落ち着きは許せない物だった。

『怪我は無いかじゃねぇよ!飛び出して来たのはそっちだろう!?・・・取り敢えず灯りを消せよ、眩しくてあんたの顔も見れやしない!!』

言葉を荒げるトムの姿にその男の口元が歪む・・・・。

『・・・・無作法な奴だな・・・。父親の顔が見てみたいものだ・・・。』

『え?何だって・・?とにかくこっちは急いでんだ、車を退けろよ!』

トムは時計に目をやり焦っていた。父親が帰宅するまで後15分も無い・・・それだけでも心中穏やかではいられないのに、家の近くで接触事故を起こしそうになったと知られれば・・・・一刻も早くこの場を離れ自室に戻りたいと考えていた。それと同時に相手の男から感じる只ならぬ気配から逃げ出したいと思っていた。

<・・・やばいな・・・クレイジーな奴なのかも知れないし、警察を呼ぶのも厄介な上時間を取られる。此処は関わらない様にやり過ごすか・・・>

そんな考えを男は嘲笑うかの様に微笑むと、トムにこう話し掛けて来た。

『・・・あぁ、そうか・・・君でも父親は怖いのか・・・?まぁ、そんなに急ぐな・・・・お詫びもしていないしな・・・』

『そんな物いらねぇよ!いいから早くどけ・・・・・!?』

腕を振り上げながらそう怒鳴るトムは、突然自分の身体を走り抜ける強力な電流にショックを受け倒れ込んだ。整えられた芝生に顔から倒れたトムの頬は擦り剥け、ジンジンとした痛みが皮膚を刺激する・・・・しかしそれよりも強烈な痛みと身体全体の痺れに困惑する・・・・・一体何が起きたのか・・・・。
朦朧とする意識の中・・・ヘッドライトに照らされた男の足が自分に近付いて来るのが見えた。その足が自分の目の前で止まり、自分の髪に男の手が触れるのを感じた。

『・・・・・気分は如何だ?声も出せないだろう?・・・・最近は便利だな。護身用のショック銃なんて少し大金を出せばこうして手に入る。そこから先如何使おうと、自分の責任だ・・・・さ、ゆっくり話が出来る所に移動しようじゃないか!』

男はそう言うと意識を半分失ったトムを担ぎ上げ、自分の車の後部座席に押し込んだ。微かに手を動かそうとするトムを見た男は意外そうに呟く。

『・・・・死なれては困ると電圧を下げたが、意外に君も頑丈だな。だが・・・招待する家までは眠っていたまえ・・。』

今度は太腿に何か痛みが走る・・・その直後から猛烈な意識障害がトムを襲った。訳の分からない恐怖にトムの顔が強張るのを確認した男が嬉しそうに微笑む。

『・・・大丈夫・・・今殺す事はしないさ・・・・安心して眠りたまえ・・・。』

その言葉を最後にトムの意識は闇の中に堕ちて行った―――。
男は後部座席のドアを閉じると、運転席に乗り込みゆっくりと車をバックさせその場から走り去った・・・静かな夜の街に再び静寂が訪れる・・・・トムのバイクはそのエンジン音を暫くの間響かせたが、やがてその音も闇に呑まれる様に消えて行った・・・。


柔らかな午後の日差しが窓から降り注ぐ・・・・昨夜は遅くまで資料に目を通し、指示を送っていたLはその日差しに目が痛むのを感じた。ソファにもたるかかるう様にうたた寝していた自分の身体に掛けられた毛布が何故か照れ臭かった。

『・・・参りましたね・・・何時の間に眠ってしまったんでしょうか?』

頭を掻きながらそう呟くLの目に、ワタリからのメッセージが映った。それは私が眠っている内にPCに打ち込まれた物らしく、端的に用件だけが文字として描かれていた。

《 おはようございます。私は依頼に関する事情を伺いにFBIに行って参ります。私の帰宅までに用意した食事と、机の上に置いてある資料についての報告書を片付けておく事。 W 》

新しい事件の依頼があったらしく、ワタリは何時もの様にその詳しい経路を聞きに出ている様だった。机の上に視線をやると、綺麗に整理された資料の束が食事と共に用意されていた。食べやすい様に小さめにカットされた野菜のスープにサンドイッチは未だ温かかった。

『・・・・未だそんなに長い時間は経っていない様ですね。ホンの少し前に出てった・・・そんな感じがします。』

時計を見ると時間は朝の10時をさしていた。

『最後に時計を見たのは・・・朝の8時40分位でしたから、そんなに眠っていた訳では無さそうですね・・・。』

Lはそう言いながら用意されていたポットに手を伸ばし、ステンレス製の蓋を開け紅茶を注いだ。温かな湯気の立ち上ぼるカップに映るLの顔は何処か気怠そうで、未だ眠そうな表情をしていた。それを見ながらLは軽く笑い、ゆっくりと口に含んだ。
温かい物が喉を通り過ぎ胃の中に落ちる感覚を味わいながら、Lは資料を手に取り目を通し始めた。時折・・・思い出したかの様にサンドイッチに手を伸ばし、口に含みながらLは仕事に熱中していった。それがLの朝の風景だった―――。



ワタリは車の中から見える風景を注意深く見ていた。何時の朝の風景・・・行き交う人々の歩みや、忙しなく鳴らされるクラクションの音に混じりラジオが何かを語り掛けて来る。一見平和そうに見える此の世界には様々な犯罪や、事件が隠れているのをワタリは知っていた。
それはLと共に何度と無く解決して来た事件の始まりは、常に日常と隣り合わせなのを身を持って体験して来た事で得た教訓でもあった。

『・・・約束の時間に少し遅れそうですね。電話を入れておきましょう。』

そう言いながら車に備え付けられた電話を取り、リダイアルのボタンを押した。暫くの間鳴っていた電話にようやく出たのは、ワタリに仕事を依頼したFBI長官その人だった。

『・・・・ワタリ・・・君か?すまない ・・・今、手が離せんのだ。短めに頼む。』

長官の声は少しうわずっている・・・余程の事が起きない限り長官自らが捜査に加わる等有りはしない筈・・・その彼が“手が離せない”事態になっていると言う事実にワタリは一言だけ告げ電話を切る事にした。

『渋滞に捕まってしまい少し時間に遅れます。直ぐに取り掛かれる様に手配をしておいて下さい。』

ワタリは長官の返事を聞く事無く電話を切り、車を直ぐ近くなある路地へと入り込ませた。道幅が狭い為多少危険はあるが、少しでも早く長官の元へ行く必要を感じた。何か異変が起きている・・・・ワタリはギアを切り換えアクセルを踏み出来る限りスピードを上げた。

数十分後・・・ワタリはようやくFBI本部内に辿り着いていた。ラッシュアワーに巻き込まれたにしては早く着いたなと、案内役の若者に言われ苦笑いをする。どうやら新米には知らされていない事件らしく、ノロノロとした動作で案内される・・・それはワタリでも苛立ちを感じる程だった。

『・・・失礼します。長官、お客様をお連れしました。』

案内された室内には長官の他に、鋭い目を持つ男達数人が立っていた。その場に居た全ての視線が入室して来たワタリと新米に注がれた。ワタリはその光景に只事では無い事態が起きているのを理解し、新米が紹介するよりも先に長官へと近付いて行く。
一瞬2人の男がワタリの前に立ちはだかるが、長官が手で合図すると左右に分かれワタリの入室を許した。

『遅れて申し訳ありません。』

『待ち兼ねたぞ・・・君・・・ご苦労だった。下がりたまえ。』

ワタリに握手を求めながらも、案内役の新米にそう告げ退出を命令した長官の声は少し疲れていた。
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