<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「TROPIC OF CAPRICORN」(さる作)
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『ライト、遅いなぁ〜。』

ベッドに裸足で横たわり、雑誌の旅行ページを眺めている。綺麗な宵闇に包まれたビーチに椰子の木のシルエット・・・もしもライトと結婚したなら、新婚旅行はこんなロマンチックな所が良いなぁ・・そんな事を考え一人微笑んでみる。

『婚約の次は結婚だし・・・別に考えてても良いよね?』

誰に断っているのか・・・私は右の空間に言葉を発した。答えが返ってくる訳も無く、静かな室内に放り出され孤独な時間を過ごす私は再び視線を雑誌に戻した。
美しい南の島・・・灼熱の太陽・・・境目の消えてしまった空と海の青が『幸福な生活』を想像する私を魅了する。

『・・・綺麗・・・』

次のページをめくると其処には幸せそうなカップルと、夜空に輝く南十字星の写真が目に飛び込んできた。

『ん・・?“お付き合いのきっかけは?ボートで流されそうになって、困っていた所を彼が助けてくれたから”?・・・・あたしも似た様な物かな〜〜。ライトに会えたから今こんなに幸せなんだもんね。』

・・・・そう、ライトは私の光そのもの。彼に会えたからこそ、現在の私がある・・・気に入らない女との交流も、激務に追われて中々家に帰宅できない事も余り気にしない。ライトが帰宅する時の足音や、駐車場に止まる車の音が嬉しく聞こえるから気にならない。
・・・・なのに・・・・何処か心を置き忘れてきてしまったようなこの感覚は何なのだろうか?

長く終わりの無い夢を見ている様
笑っている貴方が余所余所しく感じる
何かが足りない感じがする

『・・・・気の・・せいだよね?』

呟きは微かな音になり、音の無い空間に溶けて行った・・。最近感じるこの感覚・・・もう一人、大切な誰かを忘れている感覚・・・突然悲しい感覚に襲われる。

『変なの。何も無い筈なのに。』

その感覚を打ち消そうと、写真の中に心を移す・・・・綺麗な南十字星の浮かぶ空の下、ライトと二人小さなボートに乗り眺めている。他に邪魔する人もいなくて、降り注ぐような星々に見守られながら・・・・夢に描く幸福の図・・・・

“本気でこんな事出来ると思ってるの?”

幸せが壊れる音が頭の中に響いてきた。

『誰!?』

何時の間にか辺りは暗闇に包まれ、私はその中に一人佇んでいた。

“そんな幸福が来るって本気で考えてるの?”

責める様な口調に思わず声が大きくなる。

『・・そんなの当たり前じゃない!だって・・あたしとライトは愛し合って・・・・』

“本当に?”

私の言葉を遮る様に問いかけるその声・・・何故か言葉が詰まってしまった私に、その声はからかう様に問いかけて来る。

“あんたは愛してるかも知れないけど、ライトは?愛されてるの?本気で?・・・・・本当は気付いてるんでしょう?”

『何を・・?』

思わず両腕で自分の体を抱き締める・・・。体の奥の奥・・・心の中心の一番下から何かが這い出して来る感覚に囚われ震えが止まらない・・・・・・・突然背中に何かの感触を覚えた。背中に添えられた小さな両手の感覚に恐怖を感じた。

“恋人同士・・?違うでしょ・・・あんた達は《共犯者》・・・正義の名の元に《 》の力を使って敵や犯罪者を殺してきた。”

『え?』

“でもあんたは《 》に愛されてるか自信が無い・・・表の顔夜神ライトもあんたを本気で好きかどうか分からなくて困惑してる・・・そうでしょう?”

『!? 違うわ!!だって・・・あたしはライトの恋人で・・・婚約者で・・・・・』

“・・・・・建て前でしょう?”

反論しようとして顔を上げた途端、早送りの映画の様に記憶が浮かんでは一瞬で通り過ぎて行く・・・だけどその記憶は色鮮やかで、残酷で以前の私には当たり前に感じていた日々・・・・!?

“・・・・共有の秘密があんた達に《共犯者》と言う絆を与えた・・・けれどそれは《愛》ではないわ・・・”

『違う・・・・違うわ!あたしとライトは特別な《 》って言う絆で結ばれていて・・・・あたしはライトさえいればどんな魂の乾きでも耐えられる!?・・・あたしはライトの為に全てを投げ出しても構わないもの!!こんな・・・こんな短い命しか残されてないあたしには・・・・もうライトしかいないのよ!!あの女にも《 》さんにも渡すもんですか!?』

自分の口から出た言葉に驚き、闇色の空間を見詰める・・・何処かに置き忘れていた様な感覚・・・叫んだ筈の・・・・聞いた筈の言葉がもう思い出せない・・・・。
その時・・・・背後の“何か”が微笑んだのを感じた。

“・・・・もうすぐよ・・・・もうすぐライトがあんたの物かどうか分かるわ・・・・。”

それだけ言うと背後の手の感触が無くなり、私は再び闇色の空間に一人残された―――。


『!?』

玄関から呼び鈴が響き、何時の間にか眠っていた私を現実に呼び戻した。しっとりと薄く掻いた汗が、枕にしていた雑誌を汚しているのを見た私は苦笑していた。

『・・・何時の間に寝ちゃったんだろ?・・・あ〜ぁ・・せっかくの綺麗な写真がくしゃくしゃ・・・。』

その呟きの間も鳴り響く呼び鈴に、ようやくベッドから降り動き始める私はふとさっきの夢を思い出した。

『・・・変な夢・・・ライトがいないせいだよね・・・』

ドアノブにかけた指に力を入れながらそう呟く。どうかこのドアの向こうにいるのがライトである様にと覗き込む・・・。しかし、開いたドアの向こうにいたのは・・・・・・・。

綺麗な海の上・・・貴方と共に宛てなく彷徨う事になっても私は貴方といれば幸せだった―――。
もう二度と触れる事無い貴方の心・・・・もう二度と見詰める事の無い貴方の瞳・・・・永遠に彷徨う私の魂は夢見た南の空に輝く十字架に縛られる。       《完》

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