<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「STOP! IN THE NAME OF LOVE」(さる作)
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『子供の頃の俺なら、そう考える。』

チロロとカララが基地で大暴れした後、まだ小さい身体を鏡で見つめながら俺はセンパイの言った言葉を思い出していた。ガキ共の行動を自分の過去に照らし合わせ考える・・・他愛も無いそんな事が現在の俺は気に入らない様だ。
理由は分かっている。これも気に入らない事だが、自分が一番理解している・・・。

『ちっ・・・今更何気にしてしてんだよ、俺は・・・!?』

未だ戻らない身体に悪態を付く様に、俺は眉根を寄せそう呟いた。さっきは苦笑し、流せた感情・・・現在の俺ではそれが出来ない。

俺には子供の頃の楽しい記憶が無い―――気付いた時にはもう本部で働いていた。研究員を何人も引き連れて、天才と謳われながら武器や戦略を考える毎日を送っていた。だから・・・センパイの様に子供の頃思い描いた侵略とか、悪戯とか遊びや学校の記憶なんかある訳が無かった。と言うか、ある方が可笑しい事なんだと思っていた・・・それなのに何故、現在になってそれがこんなにも悔しいのかと思う・・・。

『クルル?いるのか?』

何時もより小さめな足音と気配に、俺はゆっくりと振り向く。そこには俺と同じで未だに戻らない小さなセンパイの姿があった。大きな黒い瞳だけは変わらず、何時もより柔らかな表情に少し戸惑いを感じる・・・それはセンパイも同じ様で、子供の姿のままの俺の姿を困惑気味に見詰めている。

『よぉ・・・センパイ。何か用かぁい?』

何時もの様に言葉を返すも、何か落ち着かない・・。

『いや・・・たいした用じゃないんだ。何時になったらこの姿は戻るのかとか・・・』

口を尖らせながら言うセンパイの姿は、愛らしくて見ていて微笑ましい・・・大人の姿だったら抱き締めてキスの嵐でもお見舞いしたい所だ。けれど・・・今の俺には何故か苛立たしく感じられ、自分の感情なのに上手くコントロールが出来てない事が分かる。だから、ついこんな言葉を言ってしまったのかも知れない。

『・・・・そんなの知らねぇよ。別に戻らなくても問題無ぇんじゃねぇの?』

驚いた表情を浮かべながら、センパイは俺の手を取り叱り付ける様に言う。

『 !?・・お前、本気でそんな事言ってるのか?元に戻れなかったら侵略だって進まないんだぞ!!』

『別に・・・良いんじゃねぇの?そもそも侵略してたっけ?』

『!?』

姿形からは想像も付かない様な反論に、センパイの顔に戸惑いと怒りが浮かぶ。その顔を見た時・・子憎たらしいなんて言葉じゃ足らないと、良く言われていた事を思い出した。

『クルル・・・お前、何拗ねてるんだ?』

内心怒りながらも、俺の行動や言動の変さをセンパイは感じ取ったのだろう・・・顔を覗き込む様にしながら、優しくそう話し掛けてきた。

『・・・別に・・・拗ねてなんかねぇよ・・・』

センパイのその眼が・・・その顔が妙に眩しくて、思わず眼を逸らしてしまった。おおよそ俺らしくも無い口を尖らせて、顔を背けるなんて行為に流石のセンパイも呆れるだろうと・・・そう思っていた。
俺でさえ上手く言えない・・・こんな妙な感覚、あんたにどう説明しろって言うんだ?
そのまま黙りこくってしまった俺と、俺の手を意掴んだまま困った表情を浮かべるセンパイ・・・そんな状態が数分続いた。

『クルル・・・』

気まずい雰囲気に耐えられなかったのか、最初に口を開いたのはセンパイだった。俺はセンパイが何時もの様に怒るのだと思っていた。《いい加減にしろ、貴様!》と言われるのだと・・・・けれど、耳に届いたのは予想外の言葉だった。

『クルル、侵略しに行こう!』

『ク!?』

思わず出た間抜けな声に、センパイは満面の笑みを浮かべながら言葉を続ける。

『そうだよな、未だ侵略して無かったよな!?じゃあ、2人で侵略しよう!!』

『え?え?センパイ??』

俺の腕を引きながら、センパイは嬉しそうに話を続ける。

『大丈夫だよ!俺とクルルなら出来るから!?先ずはこの基地内を制圧しなくちゃいけないな。その後武器を調達して・・・クルル、直ぐに動かせる武器はあるか?』

『ちょ・・・センパイ、ちょっとストップ!』

俺は懸命に両足を踏ん張り、今にも部屋を出て行こうとするセンパイの足を止めた。そんな俺の行動を、センパイは不思議そうな顔で見詰めている。

『?? どうした、クルル?』

『どうしたじゃねぇよ!・・・あんた何言ってるか分かってんのか!?』

『? あぁ・・・分かってるけど?』

無邪気にそう答えるセンパイに、俺の中にこみ上げていた妙な苛立ちが醒めて行くのを感じる。どうやらセンパイは、多少中身の方まで幼さなくなっている様だった。そう考えると、俺は・・・・昔から余り変化が無いって事か?

『クルル・・・俺とじゃ侵略するの・・・嫌なのか・・・?』

繋いだ手に力を入れながら、センパイが俺にそう問い掛けてきた。真っ直ぐな黒い瞳に俺の戸惑う顔が映っている・・・・その俺は『現在の俺』じゃなく『子供の頃の俺』で、でも考えてる事は殆ど大差が無くて・・・・・。

『クルル・・・・。』

余計な思考回路を止める様に、センパイの甘ったるい声が俺の心を絡め取ろうと耳を擽る。無邪気な・・・期待に満ちた瞳に吸い込まれそうになる・・・・。

『・・・・ク〜ククク・・・仕方ねぇなあ・・・一緒に侵略してやるよ。』

思わずキスしそうになる衝動を押さえ俺がそう答えると、少し項垂れていたセンパイの顔がパァッと輝き嬉しそうに微笑む。

『本当か!?』

愛しいと言う気持ちが込み上げて来るのと同時に、初めて体験する《子供の遊び》に胸が高鳴る。

『あぁ、本当だぜ・・・手始めに何をする?』

『無論、この基地の制圧だ!それには・・・』

『大将を抑えるのが一番・・・だろ?』

その言葉に満面の笑みを浮かべたセンパイは、俺の手を取り一気に駆け出す。薄暗いラボの中を駆け抜け明るい基地内へと抜ける瞬間、その光の鮮やかさは例え様も無く綺麗だと柄にも無く感じた。ピコピコと鳴り響く二つの足音と、振り向く楽しげな顔に俺の中の『子供心』と言うのが疼いて来るのが分かる。
期待してはいけなかった日々・・・薄暗いラボの中・・・青白い光・・・それしか知らない俺の過去を、センパイが色鮮やかに染め直して行く・・・―――。

『ゲ、ゲロ〜〜!何事でありますかぁ〜〜〜!?』

『きゃっはははは、ケロロ軍曹を拘束成功!!』

先に大人へと戻りガンプラ作りに熱中していた隊長をニョロロで縛り上げ、天井から吊るしそう宣言する。何がおきたか理解に苦しむ隊長は?マークを何個も浮かべながら、部屋のあちこちに自分のマークを書き殴る俺達に声をかけた。

『あんの〜〜・・・コリはいったい何事でありますか??』

その問い掛けに、センパイは悪戯っぽく笑いながらこう答えた。

『この基地は俺とクルルで制圧した!今後ケロロは俺とクルルの部下として、一緒に地球制圧の為に戦うんだぞ!?』

『え?え?・・・どったのギロロ・・・クルル、ちょっと――アンタ又何かしたの―――!?止めなさいよ!!』

事態の重要さに気付き始めた隊長が、俺に何とかしろと言わんばかりにそう言った。そりゃそうだよな・・・本当に侵略を始めでもしたら、夏美が黙っちゃいないだろうしな。でもそんな事は俺には関係無い・・・だって俺の心は、今迄に無い位ワクワクしてるんだ。これを止める手はねぇだろぅ?

『・・・ククク〜〜俺は別に何にもしてないぜぇ〜〜。それに俺はセンパイがやりたい事なら何でもやるぜぇ?退屈だしな・・。』

『ちょっと――――!ギロロ――、しっかりして頂戴よ―――!?そんな事したら夏美殿が―――!!』

隊長の言葉に一瞬センパイが反応する・・・しかし、それを振り払うかのように頭を振ると隊長に捨て台詞を残し部屋を飛び出して行った。

『何だよ、弱虫!良いよ、俺とクルルだけで侵略するから!?』

ふくれた顔で舌を出し走り出すセンパイを追いかけ様とする俺に、隊長は必死で訴えかける。

『あ、ちょ・・・ギロロ――!クルル、クールルぅ―――お願いだから止めて―――!?ここに居られなくなっちゃうでしょ――――!!』

泣きそうな顔でそう懇願する隊長を見てるのも悪くないが、取り敢えずはセンパイと遊ぶ方を優先させようと俺は思った。

『んぁ?・・・ん〜〜〜気が向いたらな・・・ククク〜〜』

『うっわ、子憎たらしいガキだな〜〜〜・・・あ、ちょっと、コラ―――!!』

叫ぶ隊長を置き去りにして、俺はセンパイの後を追って行った。

『クルル、何してんだよ。早く来いよ!』

廊下の少し先で立ち止まり俺を待っていたセンパイは、駆け寄る俺に手を差し伸べながらそう言った。そして俺がその差し出された手を取ると、嬉しそうに微笑み再び基地内を走り始める。

『次は射撃場・・・その次はドロロの農園、その次がタママのトレーニングルームだ!』

駆けながらそう言うセンパイに、俺は黙って頷き繋いだ手を強く握り締めた。その答えにセンパイは照れた様に笑い、頬を染める・・・。普段のセンパイでは見る事の出来ないその表情に、俺の心は更に速度を速める・・・嫌がらせ以外で楽しいと思うのは本当に久し振りだ・・・。
その後も俺達は基地内をくまなく駆けずり回り、自分達のマークをでかでかと書き記して行った。その度に笑うセンパイが可愛くて・・・その度にくだらない事を考えていた自分が馬鹿らしくて・・・・現在・・ここにこうしてセンパイと居られるという事が幸せなんだと改めて感じた。流石に走り疲れた頃・・・俺達は息を整え様と廊下に座り込んだ。体力に自信が無い俺は、体力馬鹿のセンパイよりも息切れが激しかったが、その分気分は最高だった。何より何も考えずに行動する楽しさが、疲れた身体を癒して行く・・・。

『は・・は――・・・何か・・・楽しいかも・・・・』

思わずそんな言葉が出る。その言葉を聞いたセンパイは、頬を流れる汗を小さな赤い手で拭いながら嬉しそうに聞いていた。そして一呼吸置くとこう言い出した。

『そっか・・・じゃ、そろそろ侵略ロボで
本格的に侵略を始めようか?強敵夏美に見付かる前に侵略を済ませようぜ!?』

それは《子供の俺達》の最終目的だが、その言葉を聞いた途端ふと考えた。隊長の言う通り・・・それを実行すれば日向家には居られなくなる・・・。俺的には素敵な言葉もこの地球での日常を無くすと言う代償が付いてくる訳で・・・・そうすると本部からのつまらない任務や、ガルルと言う邪魔者も出て来る訳で・・・・何よりセンパイを独り占め出来る事が出来なくなる・・・。こうして触れ合う事も抱く事にも制約が付く生活になると考えてしまう・・・。
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