<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「涙《RUI》」(さる作)
1ページ/1ページ

この広い宇宙の同じ星の同じ場所に、お前が存在する―――それがどんなに大切で、嬉しい事が普段は分からない・・・いや、分かっていても意識はしていない。当たり前の日常に、当たり前の存在・・・・それが永遠に続くと言う錯覚・・・―――。


遠くで誰かが俺の名を呼んでいる・・・暗い闇の中に落ちた意識を揺さぶる様に、必死に・・・叫ぶ様に俺を呼び続ける。

『・・・・ロロ・・・ギロロ・・・ギロロってば!』

『 !? 』

突然光の中に呼び戻される意識・・・少し熱を帯びた手が肩を揺らしている・・。

『!? ギロロ!! 気が付いたでありますか!!』

片手に銃を持ち、泥に汚れた顔で心配そうにケロロがそう言った。

『・・・ケロロか・・?俺はいったい如何したんだ?』

頭の中で何かが軋む音を立てている・・・痛みが生きていると言う実感を生む・・・俺はケロロの答えを待たず、身体を起き上がらせ辺りに目をやった。
見覚えのある戦闘場面・・・ぼんやりとした頭を振りながら、記憶の端を探そうともがく。

《 ここは・・・何処の戦闘区域だ?・・・クソッ!・・・頭がハッキリせん! 》

『ギロロ?大丈夫でありますか??・・・まったく!いくら丈夫かもしれないでありますが、我輩を爆風から守る為に突っ込んで来るなんて無茶でありますよ!?しかも勢い余って岩に接触するなんて・・・痛むんでありますか?』

『い、いや・・・大丈夫だ・・・。』

どうやら俺は戦闘中にケロロを庇って頭を打ったらしい・・・曖昧な記憶もハッキリしない意識もそのせいだろう・・・。
ケロロは心配そうに俺の顔を見詰めながらも、辺りに気を配るのを止めない。地球に居た頃の呑気さは何処にも無く、俺とドロロだけが知る《伝説の軍曹》の顔を見せている。そんな何時に無く真剣なケロロを見て驚く反面、事態の深刻さに俺も神経を尖らせる・・・・。
コイツがこんな顔をする等・・・状況が最悪な事を知らせている様な物だからだ。遠くで鳴り響く銃声から想像するに、戦場は北へ移動しながら続いているようだった。

『俺はもう大丈夫だ。それよりも戦闘状況は?ドロロやタママは如何した!?』

起き上がり銃を手にした俺は、ケロロにそう問い掛けた。するとケロロは少し安心したかの様に微笑し、俺と背中を合わせ弾の補充をし始めた。

『タママは最前線でタルルと奮闘中、ドロロは敵前線基地に向かって移動中・・・チャンスがあれば敵司令官を暗殺する予定であります。』

『タルルと?この戦闘はガルルも参戦しているのか!?』

『・・・ちょっとギロロ〜〜、本当に大丈夫でありますか〜〜?ガルル中尉は総司令でありましょ〜〜?戻って衛生兵に診てもらう?』

違和感・・・・らしき物を感じつつも、俺はそれを否定し立ち上がった。
戦場特有の赤黒い空が広がる・・・あちこちから立ち上ぼる煙と、硝煙の匂いが此処が戦いの場だと言う事を改めて知る。

『・・・・オペレータ―、現在の戦闘状況を教えてくれ。』

俺はイマイチはっきりしない頭を軽く叩きながら、何時もの憎まれ口を待った。我が小隊のオペレータ―にしてケロンの頭脳・・・クルルの答えを・・・・だが、聞こえて来たのはトロロ新兵の声だった。

『プププ〜〜、やっとお目覚めなんだ?戦場は敵陣地まで5キロの位置に移動中、ケロンの圧勝ってトコだよね。アサシンが敵の司令官を暗殺後、隊長がデッカイ大砲で敵の基地を消滅させる予定ダヨ。』

『おぉ、タママ達は上手く追い詰めたでありますな!』

『プププ〜〜そんなの楽勝デショ〜〜、て言う訳ダシ、基地に戻って来たら?』

『了解であります!・・・いんや〜〜楽できてラッキーでありますな。持つべき者は優秀な部下であります!・・・って、どったのギロロ・・・?』

訝しげな顔のまま考え込む俺を見て、ケロロがそう問い掛けて来た。

『ケロロ・・・クルルは如何した・・・?何故アイツがいない・・・?』

俺の質問に、ケロロは動揺していた。俺は・・・聞いてはいけない事を聞いてしまったのだと直ぐに理解した。胸騒ぎがしてならない・・・。

『ギロロ、あの、それ本当に聞いてるの?』

困った様に・・・落ち着き無く手を動かすケロロ・・・これはケロロが嘘を考えている時の癖だ。

『ケロロ、誤魔化さないではっきり言ってくれ!』

俺がそう釘をさすと、ケロロは手を動かすのを止めうなだれた。軽く唇を噛み締めるのを見た俺の心臓は、早鐘のように鳴り響き息が出来ない・・・。

『・・・ギロロ・・・』

何処か悲しげなケロロが、俺の顔を見詰め言葉を続けた。

『相変わらずこの件に関しての記憶が混乱してるでありますな・・・ギロロ・・・クルルは・・・クルルは此処に来る直前に・・・・死んだでありますよ。』

胸から大きく抉られる様な感覚が、心と身体を凍て付かせる・・・・。今・・・何て言った・・・?何も言えず青褪めた俺を見ながら、ケロロは言葉を続けて行く。

『もう2年前になるであります・・・あの時もこんな風に戦場にいて・・・同じ様に勝利目前で・・・珍しくクルルがギロロと組んでて・・・・我輩達と合流する直前の、気の緩んでいた一瞬の出来事で・・・・まだ・・・思い出せないでありますか・・・?』

心配そうに覗き込むケロロの問い掛けに、俺は何処か遠く離れた場所から答えていた。自分の言葉の筈なのに・・聞き取れない・・・なのに心が“知っている、思い出した。”と認めて・・・・嘘だと叫びたいのに、身体は違う反応を示している・・・。

『ギロロ・・・?先に基地に戻るであります・・・。』

『何故だ?・・・ガルル達と合流・・・・・』

俺の言葉を遮る様に・・ケロロは首を振り淡く笑った。

『・・・・トロロ新兵の言葉を聞いたでありましょう?我々が行かなくても大丈夫でありますよ。』

『しかし・・・!』

『それに・・・そんな青褪めた顔のギロロを連れて行ったら、我輩がガルル中尉に叱られてしまうであります。』

・・・・・何も言えなかった。何も言い返せなかった。ケロロに言われなくても、震える手が俺に訴えていたから・・・・《 早く基地に戻って確かめたい 》と・・・。

『さ・・・行くであります。』

『ああ・・・』

ケロロは俺を気遣いながら、ゆっくりと飛んでくれた。時折・・・俺が付いて来ているか・・・確認するように振り返り、笑って見せたりした。俺はそんなケロロを見て笑う形をとってみる・・・せめて・・・表情だけでも作れれば、ケロロにあんな辛そうな顔をさせなくて済むだろうから・・・・。
ぎこちなく歪む頬は笑って見えてるだろうか・・?そんな事を考えながら、俺は緑色の背中を追いかける様にひたすら基地に向かって飛んだ。ふと・・・・落ち行く夕陽を見る。先程の戦場とは違う、涙が出そうになるほどの茜色に染まった空がとても綺麗に見えた―――。

『ギロロ、見えてきたであります。』

そう言いながらケロロは、茜色に染まる丘の影に隠れているケロン軍前線基地を指差した。俺はそれを目にした途端、飛行スピードを速めた。その反応に驚いたケロロが追い抜いた俺の背後から声をかけるが、俺はそれを聞かず一気に降下して行った。

『・・・!? チョッ・・・ギロロ!!』

遠ざかるケロロの気配・・・近付く基地の姿・・・認識番号照会のシグナルと許可の合図が同時に聞こえた様な錯覚・・・余りの急降下に驚く誘導兵の顔・・・・着地した時に感じた軋む様な痛み・・・速まる鼓動・・・いま俺の感じている物全てが俺の真実であり、生きている証だと知れば知るほど・・・・感じれば感じるほど・・・・嘘であって欲しいと願う。
何時もの様に笑いながら“よぅ・・センパイ・・・随分と早いお帰りじゃねぇの?”と言ってくれ・・・・“俺に会いたかったのか?”とからかってくれ・・・・“今回も無事だったな。”とお前の手を頬に添えてくれ・・・・!?

何処を如何走ったのなんか分からない・・・・何人かが何かを叫んでいた様に思うが覚えていない・・・気が付いた時には目の前に俺の部屋のドアが存在していた。灰色の重く輝くドア・・・今迄に自分の部屋を開ける事がこんなに怖い等と思った事があるだろうか・・・・?

『・・・クルル・・・』

そう呟きながら俺は鉛の様な感覚の身体を、室内に滑り込ませた・・・。

『クルル・・・居ないのか・・・?クルル!?』

廊下の灯りが差し込む暗い室内・・・返事は無く・・・ただ闇が広がる・・・。お前がいない事を信じられなくて、信じたくなくて落とした視線に自分の影が見えた。背後から照らされている影は、室内の奥へと長く伸びている・・・俺はその自分の影を目で追って行った・・・ただ・・・何と無く・・・・。異様に長く伸びた影は俺自身の身長よりも大きく、何かを指し示そうとするかのように室内の奥へと伸びている。俺はそれをずっと追って行く・・・そして頭の部分に差し掛かった時、視線の端で何かが鈍く光ったのが分かった。

『あれは・・・?』

俺はその光に導かれる様に、部屋の奥へと足を進め・・・・愕然とした。
――――そこに存在していた物・・・・それはクルルと撮った一枚の写真・・・・その上には焼け焦げ・・・ひび割れ・・・血の付いたクルルの眼鏡が室内に差し込む灯りに反射して鈍く光っていた。

『―――!?』

息が詰まりそうなほどの衝撃・・・大きく波打ち冷えてゆく鼓動・・・不思議な事に涙が出なかった・・・。俺はその眼鏡に手を伸ばした。クルルの温もり等とうに消え去り冷たく冷え切ったその金属は、その存在で俺に“お帰り”と告げている様だった・・・。

『・・・・・クルル・・・・クルル・・・・・クルル・・・・・・・・・・クルル!?』

初めは小さかった名を呼ぶ囁きは、次第に大きくなり暗闇の室内に響き渡った。

『・・・嫌だ!クルル、如何して・・・!?・・・何故だ!!』

俺は眼鏡を胸に抱き締め・・・膝を床に付きそう叫んでいた。
何時の間にか目からは大粒の涙が零れ始めていた・・・。信じたくない事が目の前に存在する、そこから逃げ出したくても逃げられない自分がいる・・・誰かに助けを求めたくても、その口から出るのはもういない奴の名前・・・。

『〜〜〜クルル・・・クルル・・・嫌だ・・・・・クルル!?』

『おい、如何した・・・センパイ!!』

急に求める者の声に驚き意識を取り戻すと・・・・そこは何時もの部屋・・・・。何時もクルルと過ごす・・・クルルズラボの仮眠室だった―――。

『・・・随分とうなされてたぜぇ?何か嫌な夢でもみたのか?・・・センパイ??』

急な展開に頭が付いて行かず、呆けたままクルルの顔を見詰める俺を心配そうに見詰める・・・こっちが・・・・現実・・・・?

『俺の名前呼んで・・・泣いて・・・・そんなに嫌な夢だったのか?』

そう言いながら俺の頬に触れるお前の手・・・・温かい・・・喪いたくない手・・・・俺は、その手の温もりで確認する。
“ここが現在、現実なのだ”と―――。

『センパイ?大丈夫なのか??コーヒーでも淹れるか?』

優しい声が冷え切った胸を温める・・・添えられた手が嬉しいと感じる・・・。

『・・・・あぁ・・・すまん・・・何でも無いんだ・・・・何でも・・・・ちょっと嫌な夢を見ただけだ・・・コーヒーはいいから・・傍にいてくれ・・・。』

震える声で・・・しかし本当に微笑みながらそう言う俺にクルルは何か言いたそうなにしたが、仕方が無いなと言う表情を浮かべ“分かった”と答えてくれた。
俺は隣に座り直し・・・手に手を添えるクルルの肩に頭を寄り掛からせ目を閉じた。微かに耳に響くクルルの鼓動が心地良いと感じながらも、先程の夢が夢じゃなくなる日を心底恐ろしいと思った。
自分達は軍人で・・・この地球にも侵略に来ていて・・・夢の様に平和な日々を送って・・・しかし・・・何時かは再びお互いが戦場に身を置く現実に引き戻される。それは、必ず。その時・・・俺は如何する?俺達のどちらかが生き残っても、あの夢の様な想いをするのだと考えると泣きたくなる・・・。

『・・・・センパイ・・・?』

暗くなる考えに囚われそうになった時・・・不意にクルルが声をかけてきた。

『何だ・・・?』

涙声の俺にクルルはこう続けた。

『・・・俺・・・センパイ置いていったりしないから・・・センパイも俺を置いていくなよ・・・?』

『!?・・・・クルル・・・』

『約束だぜぇ〜〜?』

顔を上げた俺に照れた様に笑い、強く手を握り締める。

『・・・落ち着いたようだし、ちょっくらコーヒーでも淹れてくんぜぇ〜〜。クルル様特製ブレンドってか〜〜。』

照れ隠しなのか・・・そうおどけながらクルルはベッドから降りていった。俺はその背中を見ながらさっきのクルルの言葉を思い出し・・・苦笑した。
それは・・・叶えるには難しい約束・・・・軍人である俺達には叶わないかもしれない約束・・・なのに何故お前が言うと、叶ってしまう気がするのだろうか・・・?

『・・・参ったな・・・』

こんなにも心を奪われている自分に苦笑しながらも、それを幸福と感じ悪夢さえも打ち消す強さに変わる事を実感する・・・せめて・・・今の平和な地球での日々が一分一秒でも長く続く様に祈るしかない・・・。

『センパ〜イ、起きて来られるかぁい?』

コーヒーの香りと共にクルルの声が聞こえる。

『・・・あぁ、今行く。』

俺は涙を拭うと立ち上がり、クルルの待つ場所へと向かった・・・。
涙と悲しみを夢に置き去りにして――――。       《完》

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ