<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「Let's Get Together Now - CHEMISTRY - 」(さる作)
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『雨は嫌いだ。』

ケロン人らしくない、そんなセンパイの言葉が頭を過ぎる
。辛そうな・・・切なそうな横顔が、何時もの険しいセンパイの表情と違って妙に印象的だったからかも知れない―――。
それとも地球の・・・日本の梅雨と言う季節が、俺の思考回路を狂わせているのだろうか・・・?

『クルル先輩ぃ、軍曹さんにリミッター付け完了ですぅ。』

タママ二等のあどけない声が、そんな俺の思考の海を現実へと引き上げる。
―――でかい目で真っ直ぐに俺を見詰め、不思議そうに小首を傾げるタママ二等に俺は軽い応えをした。

『はいよ・・・お前さんも予防薬飲んどけよぉ?』

湿気に酔い易い隊長にリミッターを取り付けなければならないこの季節・・・他に面倒を背負い込みたくない俺は、他の隊員には投薬を義務付けていた。
隊長みたいにならないとは限らなく、気分の上下動にも関係するかも知れないからだ。ドロロ先輩みたいな奴が益々鬱になったりするのも困るが、このタママ二等みたいな感情の起伏が激しい奴に暴れ出されても困る・・・。正に質の悪い酔っ払いそのものだからな。

『大丈夫ですよぉ。もう飲んじゃいましたし、一応耐性はありますからね。』

ニッコリと微笑む顔は、タガが外れた時とは比べ物にならない位可愛らしいのにな・・・。

『そうかよ・・・。』

愛想の無い返事をした俺を気にもせず、タママ二等は笑顔で踵を返し立ち去って行った。・・・大方隊長の世話をしてポイントを稼ぐつもりなんだろう・・・ま、好きにやるが良いさ・・・・。

こんな風に普通に過ごすこの星の生活・・・俺には不釣り合いなこの生活はまんざらでも無いと最近思う。その気になれば直ぐにでも落とせるこの地球と言う星―――。
確かに日向姉は手強いが、所詮は辺境の地に住む異星人の女にすぎない・・・その侵略すれば直ぐに帰星出来るの作戦を実行しないのは、戦いばかりに明け暮れる退屈なあの星に帰りたくないからだ。
毎日が同じ、毎日が退屈、毎日が死んでいる―――そんな渇いた日常は、この地球に一日でも過ごせば失っても惜しくは無い物なのだ。
それに帰星したくない理由はもう一つある。昔―――ドロロ先輩に聞いた、センパイの雨が嫌いな理由がそれだ。あれは、センパイが雨が嫌いだと呟き、一人テントへと戻った後に囁いた言葉だった。

『雨が嫌いねぇ・・・隊長が面倒臭いとか、そんな理由だったりしてぇ?クク〜〜。』
俺はセンパイのあんな表情を見た事が無くて、俺の知らない何かがあんな顔をさせているのが悔しくて・・・わざとそんな風に憎まれ口を叩いてみせた。
そんな俺にたまたま一緒に茶を啜っていたドロロ先輩が、窘める様な口調で囁いたのだ。それが余りにも意外で、らしくない行動だったと俺は思ったのを覚えている。

『・・・・“悪魔は泣かない・・・けれど戦いの終わりに必ず雨が降る”・・・ギロロ君はずっと、とても長い間そう言われていた・・・・だから雨が嫌いなんだよ。』

『んぁ?』

告げられた言葉の意外さに思わず間抜けな声で応えた俺を、ドロロ先輩は真っ直ぐに見詰めていた。碧い・・・綺麗な水の碧を思わせる瞳が、何処か悲しげな物を湛え揺れている。

『昔からギロロ君が戦いに出て・・・敵を殲滅するとね、どんなに晴れていても雨が降るんだ・・・・。その戦いが酷ければ酷い程・・・雨は激しく降り注ぐ・・・敵の亡骸にも・・・味方の亡骸にもね。ギロロ君はそれを雨に濡れながら、ずっと見詰めているんだ・・・誰かが声をかけるまで・・・何時間でも・・・。銃を手にしたまま、普段は吸わない煙草を燻らせ見詰める様を見て、誰からとも無くこう言い始めたのが始まりなんだ・・・・。懺悔したいのか、祈っているのかは分からない・・・僕やケロロ君にも・・・誰にも何も言わないから・・・聞いても言わないから・・・・。』

その時の俺の気持ちを、何て言えば良いだろうか・・・。
諦め・・・喪失感・・・絶望・・・虚無感・・・手にした勝利の果てにある、いくつもの屍をセンパイは見詰めていたのだ。
赤い悪魔と呼ばれ血も涙も無い存在の様に語り継がれるその裏側で、あの人は自分が奪った人生の終わりをその目に焼き付けていたのだろう・・・。
泣くのは簡単で心の掃除をしてくれる物・・・夢見がちな教師が、昔俺に言った言葉。だけどそれが出来ない奴は・・・?
その時の俺の疑問に答えが出た気がした。

『・・・悪ぃ・・・俺、用があったんだわ・・・。』

そんなくだらない言い訳をしながら、俺はドロロ先輩に別れを告げ部屋を出た。ドロロ先輩は何も言わなかったが、静かに微笑んていた様な気がした。
部屋から出た俺は、何時もより早足でセンパイのテントに向かい・・・そして途中で足を止めた。

今更この俺が何か言葉をかけて、センパイは救われるのか―――?

答えは―――No―――だ。

あの人は傷付け合うのも、傷を嘗め合うのも好きじゃない。
ただ只管に堪え、負担になる事はしない。
言葉は意味を持たない。

それは俺達の選んだ生き方の公式。
言葉や行動に意味を求めてはいけない。
あるのはそれぞれの想いだけ・・・ただそれだけなのだ―――。

『・・・らしくねぇよな。こんな・・俺がよぉ・・・・。』

壁にもたれ掛かり苦笑いを浮かべる。自分は母星にいた時、望まれるままに武器を開発し作戦を考え――実行してきた。
いや・・・正確に言えば《させてきた》。
センパイ達の様な歩兵やタママ二等の様な突撃兵に・・・。その影で生き残りや裏切り者の後始末を《暗殺者》に、総轄を《軍曹》以下に押し付け安全地域から見ていた俺に何が出来る?・・・どの面下げて何を言う?

あの人を《悪魔》に仕立てたのは俺――。
嫌気がさす程の称賛と羨望と嫉妬の中、俺は退屈していただけだった。その先にある筈の結果には目をつぶり、弾き出された数字だけを頭に入れていた。
・・・・自分の侵した罪から目を逸らしていた。

罪は闇を呼び、闇は静寂に溶け道を見失う。
貴方に出会い、道が標された時の喜びと温かさは夢のようだった。
穏やかで緩やかな地球での日々、思い出す事すら無くしていたのに―――。

雨の雫が窓を濡らし流れ落ちる・・・それを眺めながら、そんな事もあったなと思い出に浸る。

『・・・俺も雨は嫌いかもな・・・』

そんな事を呟きながら、煙草を燻らせ微かに笑ってみる。

『クルル・・・?どうした・・・珍しいな?』

声に振り返れば、そこには温かいコーヒーを携えた貴方がいる―――。
二つのカップから立ち上る湯気が、ゆっくりと近付き貴方の体色を曇らせる。
艶やかで目に鮮やかなその色に、俺の心はまた生きている実感を覚え喜びに震える。

『んぁ?・・・あぁ・・・たまにはな・・・。』

その手からカップを受け取り、貴方の顔を見詰める・・・柔らかで穏やかな表情からは、昔の険しさは見る事は出来ない。

『何だ?顔に何がついてるか?』

訝しげな顔をして自分の顔に触れる姿に、自然と笑みが浮かびその温もりに触れたくなる。

『本当、センパイは可愛いなぁ。』

『・・・・!?・・なななな・・何を言っとるか!!』

口に含んだコーヒーを吹き出し、更に赤い顔をしながら狼狽える姿にまた微笑む。

『何だ・・・何が言いたい!?』

照れ隠しなのか笑われたのが気に入らないのか、少しだけ声を荒げ俺に詰め寄る。

『ククク・・・何でもねぇよ・・・。』

『嘘付け!』

『嘘じゃねえよ。』

そんなくだらないやり取りが、この俺にも出来るなんて信じられないなと感じた。
ただ・・・慰め合うより傷付いた言葉より、貴方を想う気持ちだけが何よりも大切なのだと知る―――。

『・・・本当か?』

『マジマジ・・・ククク・・・。』

『やっぱり嘘か!?』

『だから本当に何でもないって・・・』

馬鹿みたいに繰り返される他愛ないやり取り・・・・少しでも長くこうしていられる様に、俺は貴方の手を取りその温かさを確認する。
絡める指に込み上げる想いに、貴方も同じであれば良いなと願いをかけた。

『・・・コーヒー、サンキュ・・・やっぱセンパイの淹れるコーヒーは旨いねぇ〜〜〜。』

片手を俺に取られ戸惑いながらも、俺のその言葉にただ一言“そうか”と応え笑う貴方。
世界の全てを貴方に捧げたい気持ちが込み上げた事は、地球の平和と俺の幸せの長続きの為に内緒にしておこうと思う。       《完》

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