<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前
□「I've been searchin' 〜 君をさがしてた 〜 」(さる作)
1ページ/1ページ
茜色の夕陽・・・次第に灰青色に染まって行く蒼空・・・ゆっくりと時間が流れるこの一時が俺は一番好きだった。
本星に居ても、ここ地球に来てもそれは変わらない・・・昼の慌ただしさや、夜の耳が痛くなる程の静寂にが嫌いなせいもある・・・居心地の良い筈のラボですら、俺を拒否しているのでは無いかと思える位だ。絶対的な孤独・・・得も言われぬ不安・・・宇宙一のひねくれ者、ケロンにこの人ありと言われた俺がこんな事を考えているなんざ誰が想像出来る?
『ク〜ルル・・・今度の作戦なんだけどさぁ、こう言う感じの機械チョコチョコ〜っと作ったりしてみてくんなぁい?』
自分で書いたらしい下手くそな絵を片手に、隊長が俺に話しかけて来る・・・お気楽を形にするならこんな感じだろうなと、思わず考えてしまう位の笑顔が先刻までの暗い考えを吹き飛ばしてしまう・・・。
『別に作れなくは無ぇけど、他の事よりも優先させる気なら高く付くぜぇ〜〜?』
『ゲロ?い、幾ら?なるべく安く頼んます。』
コロコロと変わる表情が鬱陶しいくらいだが、こう言う時は必ず良い事を連れて来てくれるから見逃しておこう。身をくねらせておねだりを続ける隊長を、適当にあしらって笑う俺・・・それが長く続くと溜め息が隊長の後から聞こえて来る・・・ゆっくりと響く足音・・・聞き慣れた低めの声・・・。
『ケロロ、貴様いい加減にしないか!今進行させている作戦を放ってまで、こんな作戦をやる事は無かろう!?』
腕を組み・・・呆れ顔でそう隊長に話す茜色の身体・・・大きな黒曜石の様な瞳・・・この世で唯一、俺が欲しいと願った人・・・。
『え〜〜何だよぉギロロはぁ〜〜別に良いじゃあん。大体あんな作戦うまくいきっこ ないであります。』
ゲロリと笑う隊長に、センパイは赤い顔を益々赤くして怒り狂う。何時もの事ながら、余りの仲の良さに呆れてしまう……いや……羨ましいのかもしれない。
隊長は俺の知らないセンパイを知っている。
センパイは俺の知らない顔で、知らない話をする。
俺達二人の時間とは違う、幼馴染みだけが共有する時間……子供の頃の話……大人には秘密にしていた遊び……小さい頃から機械に囲まれた俺には、体験も想像も出来ない様な世界……。
『大体だな、貴様が隊長としてもう少し自覚を持っていればだな……』
『武器ばっかり磨いてるギロロには、我輩の苦労は分からないのでありますよ!』
『ぬぅわんだとぉぉ―――!?』
お馴染みの台詞に、お馴染みの終わり方のじゃれ合い・・・その行為自体に苛立ちを覚える。
『・・・・あのさぁ・・・いい加減にしねぇ?大体俺、この装置作るとか一言も言ってないぜぇ?』
『えぇ〜〜!クルル〜〜!?』
『ホラ、いい加減に諦めて部屋に戻れ!』
『ちぇっ!クルルのケチ!!』
子供が言い残す様な台詞で、頭から湯気を出して立ち去る隊長の背中を二人で見送る。センパイは仕方無さそうな顔をしながら深く溜め息を付いた。そしてゆっくりと俺の方に振り向き、優しい表情で話し掛ける・・・隊長が無茶を言いに来ると必ず最後にするこの行動・・・まるで特別な儀式の様に俺の心を捉えて放さない・・・。
『・・・まったく・・・すまんなクルル、気を悪くせんでくれ。』
そう言いながら向ける淡い笑顔が俺は好きだ。
『別に・・・気にしてねぇよ?何時もの事じゃねぇか・・・。』
ワザとぶっきらぼうに言って、背中を向けてみる。するとセンパイは、小首を傾げ俺に近付き始めた・・・近くなる気配に口元が緩む・・・。
『クルル・・・怒っているのか?俺は止めろと言ったんだが、急に走り出してしまってな。ああ見えて足が速いから・・・俺からも良く言い聞かせておくから、許してやってくれ。』
もう手に触れられる所まで来ているセンパイ・・・でもまだ振り向かない・・・。
『クルル?』
困った様な・・・不安そうな声・・・近付く気配が嬉しい・・・。
『クルル・・・』
覗き込む様に話し掛けながら、センパイが俺の座る椅子に触れ様としたその瞬間・・・・俺はその手を掴みセンパイの顔を見詰める。
『!?』
驚いて声も出ないセンパイ・・・吐息が触れるほどの近さで見詰めあう・・・あがって行く体温・・・黒い瞳の中に俺が映っている・・・。
『・・・ク、クルル・・・』
自分が照れているのが恥ずかしいのか、センパイは何かを言おうとするがうまく言葉が出て来ない様だ。俺はそこを上手く刺激する。
『・・・センパイ・・・どうしたんだい?・・手・・物凄く熱いぜ・・・?』
弾かれた様に身体を震わすセンパイ・・・視線を逸らそうと横を向こうとする。俺はそれを止める為に立ち上がり、センパイの顔に手を添えると繋いだ手を強く引き寄せた。
『・・うぁ!?』
もう唇まで数センチ・・・でもまだ触れない・・・。目の前のセンパイは抱き寄せられ、顔をそむける事も出来ずただ赤くなって行く・・・。
『・・・センパイ?・・・俺、如何したんだって聞いてるんだぜ?』
意地悪く聞く俺に、センパイはまだ答えない。小刻みに唇が震えているのは緊張しているのか・・・それとも繋ぐ言葉を捜しているのか・・・俺の顔のかかる吐息の熱さに、思わず顔が笑う・・・。
『・・・バカモノ・・・人をからかうな・・・』
そんな俺の表情を感じて、センパイは拗ねた様に小さくそう言った。それがまた嬉しくて、俺は今度は優しく抱き締める。
『・・・ワリィ・・・あんまりにもセンパイと隊長が仲良いんでさ・・・ちょっと意地悪したのさ・・・。』
滅多に無い俺の素直な言葉に、センパイは驚いた様で直ぐに言葉は返って来なかった。そのホンの少しの間が俺には居心地が悪くて、少しだけ腕に力を込める。
すると同じ様に腕に力を込め、俺を抱き返すセンパイは耳元でクスリ・・と笑い囁く様に言った。
『・・・バカモノ・・・』
照れながら・・・でも何処か嬉しそうなその声に、俺は改めて自分がどれだけこの人が好きで堪らないかを自覚する。
俺はこんな気持ちを知らずに生きてきた。
こんな気持ちを持つのは馬鹿げてると思っていた。
『ひでぇな・・・バカはお互い様だろ?』
腕を緩め顔を見ながらそう言う俺・・見詰め返し微笑むセンパイ・・自然と浮かぶ笑み・・・。
『・・・そうだな。』
今までの孤独も辛かった時間も何もかもが、センパイのその笑顔と言葉で埋もれ消されて行く・・・俺はこの人に出会う為に生きて来たのだと、心の底から思える位に幸福だと感じる・・・。
『センパイ・・・何があっても放さねぇからな・・・?覚悟しといてくれよぉ〜〜?』
照れてきまらない台詞でも、センパイは沸騰寸前まで顔を赤くする。言葉じゃ足りないこの気持ちを伝えきれないこの気持ちを、俺はキスに変えて貴方に贈ろう。
息も出来ない位、息するのも忘れる位、朝が来るのも分からない位のキスを貴方に―――。 《完》