<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「ひぐらしの啼くケロに 穀潰し《ごくつぶし》編」(さる作)
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――――昭和58年6月 日向沢村――――。

『くぅ〜〜〜、今日も暑いでありますなぁ〜〜〜。』

照り付ける夏の日差しの中、K一はあぜ道を駆け抜けていた。心地良い空気と何処までも続く緑の世界・・・都会からこの山間の村に越して来たK一にとっては、新鮮味溢れる気に入りの光景だった。

『ん〜〜・・・今日も良い天気でありますから、部活も楽しく出来そうでありますなぁ〜〜。皆でプール・・・いやいや、川で水遊びも良いでありますなぁ♪』

煩い騒音も汚れた空気も無いこの一見退屈極まりない村で、K一は都会では体験出来なかった開放感を味わっていた。特に受験も競争も無いこの村はK一にとって天国のようで、毎日数少ない村の子供達と共にのんびりと学び『部活』を満喫している様だった。
『部活』・・・この単純な呼び名とは裏腹に、その活動内容は様々ですべてにおいて罰ゲームが存在する・・・・ぶっちゃけ“どんな事でも勝負にしちまえ!?”をモットーのお遊びクラブである。その勝負事は大体が突発的な思い付きの物で、まさにお遊び大好きのK一には病み付き物の活動内容であった。

『・・・・山の中で虫取り勝負はハンデがいりそうでありますし・・・・・ん〜〜〜〜悩むでありますなぁ〜〜〜。』

のんびりと歩きながら悩むK一の背後から、突然黒い人影が飛び出し羽交い絞めにするとえび固めを繰り出した。

『ゲ〜〜ロ〜〜!?』

思わず悲鳴を上げるK一に、体勢を変えながらギ音が言葉をかける。

『フン・・・甘いぞKちゃん。そんな事では戦場では生き残れない・・・じゃなくて、何時までもこのギ音様には勝てないぞ!?・・・って・・・あれ?』

キーロックをかけられ声も出ないK一にようやく気付いたギ音は、慌てて技を解除し放れた。

『ゲロ〜〜〜・・・』

『す、すまんKちゃん!つい力がはいってしまって・・・・大丈夫か?』

『し・・・死ぬかと思ったでありま〜〜す・・・。』

息も絶え絶えにそう答えるK一の手を取り立ち上がらせると、ギ音は服に付いた汚れを手で払いながら再び謝った。

『・・・すまん・・・次は手加減するから許して・・くれるか?』

上目使いに覗き込む様に見詰めるギ音に、K一は思わず動揺した。転校して来た時から面倒を見てくれた、多少乱暴ではあるが気の優しく明るいギ音・・・この村で育ち、この村をこよなく愛すギ音に少なからず好感を持っていたからだ。大きな黒い瞳が魅力的だとも思っている・・・その目に見詰められて動揺しない男が果たしているのかどうか・・・・。

『い・・・・いやぁ、大丈夫大丈夫!さすがはギ音・・・油断大敵でありますなぁ〜〜〜。』

照れ笑いしながら後退るK一に、不思議そうな表情をするギ音が後を追う様に一歩前に出る。するとK一がもう一歩下がり、またギ音が一歩出る・・・・。

『―――――何故逃げる!?』

『そっちこそ何で追って来るでありますか!?』

『貴様が逃げるから追うんだろうが!!』

『0距離は止みろ―――であります!!』

アホみたいなやり取りを壊すかのように、2人に黒い疾風がぶち当たって来た。

『2人して何してるんですぅ―――!?』

『どぉうわ!』

『ゲロ!?』

その勢いに吹き飛ばされた2人は、地面に顔面スライディングし近くの小川に落っこちた。

『K一もギぃも道の真ん中でじゃれてたら駄目なのですぅ。』

無邪気な笑顔でびしょ濡れの2人に話し掛けたのは、この村の神社の娘古手タマだった。

『ぬぅわにをするか―――!』

『タマちゃん・・・酷いでありますなぁ〜〜。』

『道の真ん中で遊ぶ方が悪いのですぅ。』

可愛らしい笑顔を向けながらそう答えるタマの横から、相槌を打つ様に頷きながら竜宮96が顔を覗かせた。

『そゆ事〜〜・・・2人とも道の真ん中は駄目だよ〜〜クク〜〜お?』

『あ?』

『ゲロ?』

『タマ?』

96は濡れネズミになった2人のうち、ギ音の姿に目を向け声を発し動かなくなった。その行動と声に釣られて同様に声をあげた3人は、96の不可思議な行動を探るべく視線の先を辿って行った。

『点・点・点・点・・・・・と・・・。』

K一が辿ったその視線の先・・・それは水に濡れ、シャツが透けているギ音の胸元だった。

暫し流れる凍った空気・・・それを破ったのは林の中から放たれた石礫だった。

『は・・・!?』

その石礫に気付き、96は慌てて鉈を取り出すと見事に弾き返した。

『おぉ!流石は96なのです!?』

『て言うか・・・・弾かれた石がK一さんを直撃してますわ・・・』

心配そうな声で大きなたんこぶをこさえたK一を棒で突付きながら、沙ド子はそう呟いていた。その様子に一瞬空気の流れが止まる・・・。

『?・・・如何したんですの?』

『・・・・沙ド子、居たんですかぁ?ボク、ちいとも気付かなかったですぅ・・・にぱぁ〜〜V』

タマのその言葉に、沙ド子は雷を受けた様な衝撃を受けた。そして入るトラウマスイッチ・・・・・。

『・・・・・・・・・・そうですわね・・・・そうだよね・・・・にーにーが居た時も、私の存在なんか在って無い様なもんだったもんね・・・・あの時も・・・・その時も・・・・。』

『あちゃ〜〜、沙ド子いじけちゃったですぅ〜〜・・・それよりも、誰ですぅ!?危ないですよ!!』

タマは石礫の飛んで来た林に向かい声を荒げた。するとその林の中から姿を現したのはギ音の双子の妹、ガ音だった。ガ音は手のひらに石礫を転がしながら、髪をかき上げ姿を現した。

『いやらしい目でお姉を見るから、お仕置きをしようと・・・・K一さんには申し訳なかったですな。』

快活なギ音とは対照的に、割合と女らしいガ音だったがやる事はあまり大差は無い。むしろガ音の方が過激だとも・・・思ったり思わなかったりぅにゃぅにゃぅにゃ・・・・・・。


『どう言うつもりでありますかぁ!』

頭にでかいたんこぶをこさえたまま、K一はガ音に詰め寄った。するとガ音は悪びれた風も無く、飄々とこう言ってのけたのだった。

『え〜〜と・・・不可抗力、ですな。』

『不可・・・効力・・・?』

首を傾げながらそう繰り返すK一に、不敵な笑みを浮かべながらガ音は言葉を続ける。

『そう・・・不可抗力です。私はお姉の濡れた肢体を、厭らしい目で見詰める輩から守ろうとして礫を投げただけ・・・それを相手が避け、K一さんに当たる等考えも及ばなかった事です。』

そう言いながら鋭い目線を向けた先には、スイッチの入った96がハート乱舞でじりじりとギ音に近付き始めていた。その気配に透けた自分の身体を慌てて隠すギ音・・・だが時は既に遅かった。

『はぅ〜〜んV・・濡れた肢体・・・・それを隠すその仕草・・・・どれをとっても可ぁ愛いぃぃ〜〜〜〜お持ちかえりだぜぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!?』

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・止めろぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・!!』

『ぬぅ!待たんか!?』

後を残す音と砂煙を残して、3人は何処へと姿を消したのだった。その姿を見送る3人は、ただ無言で見送るしかない様な勢いでもあった。

『あぁ〜〜行っちゃったですぅ〜〜。皆困ったものなのですぅ・・・にぱ〜〜。』

『あ、あぁ・・そうでありますなぁ・・・・。』

舞い上がる砂煙と遠ざかって行く阿鼻叫喚に、K一は思わず苦笑いを浮かべ古手タマの顔を見た。先程のけたたましい輩とは違い、可愛らしい笑顔を向けて話し掛けるタマにK一の心も和んだ。

『まぁ元気が良いのは、良い事でありますからな・・・ところでタマちゃん、こんな所で何していたでありますか?』

『タマ?あぁ、もうすぐ僕の家でお祭りがあるのですぅ。それでその準備や当日の予定なんかを話そうと思って、ギぃ達とここで待ち合わせていたのですぅ。そしたらぁ、目の前でK一とギぃが戯れているのがみえたのですよ。にぱ〜〜』

『お祭り・・でありますか?』

確かに夏にお祭りは付き物ではあるが、その打ち合わせに何故皆で……?K一の何とも言えない不思議そうな顔を見て、タマはゆっくりと話を始めた。

『そうですぅ。この日向沢村の一番大切な・・・゛おなつみ様″を奉る為のお祭りですぅ。』

『ゲロ・・・゛おなつみ様″でありますか?』

『ハイですぅ。゛おなつみ様″はこの村の守り神なのですぅ・・・ボクはこのお祭りで奉納の舞を踊るんですよ?ギぃのお家がメインで準備を進めているのですぅ。』

ニッコリと微笑みながらそう語るタマの言葉を、K一は感心しながら聞いていた。それはタマの見た目の幼さに比べ、意外に言葉がしっかりしている様に感じたからだ。しかし村全体で・・・しかも子供までも準備を進めるとは、一体どんなに賑やかな祭なのだろうか・・・?この村に越して来る前は受験戦争や塾通い等で、忙しく行く暇すらなかったK一にとっては信じ難い話だ。何もかも我慢の日々・・・大好きなアレすらも禁じられた生活からの脱却を、こんなささやかな話から感じるなんて・・・

『・・・K一?何をボーッとしているのですか?』

タマの言葉に我に返ると、すぐ目の前にタマの顔が迫っていたのに気付いた。

『うぉっ!?・・・わ、ワリイであります!』

慌てて後退りタマから離れそう言うK一の顔は、若干頬が赤らんでいた。そのK一の慌て振りに最初は驚いたタマだったが、すぐに笑顔に戻り楽しげに話を続けた。

『クスクスクス・・・・変なK一なのですぅ。それで神社の廻りには屋台が沢山出ますし、近辺の町からも沢山人が集まるお祭りなのですよ。今から凄く楽しみなのですぅ・・・にぱ〜〜。』

タマのその様子にからかわれた気がしたK一は、照れ隠しをする為に話を逸らそうとする。

『ん・・・コホン・・・しかし村の守り神を奉るだけのお祭りな割には、随分盛大なんでありますなぁ?』

K一の何気ないその言葉を、タマは形相を変えて反論した。

『ただの奉納祭じゃないんですよぉぉぉぉ!』

『ゲロ〜〜〜!?恐い、顔が恐いでありますよ−−−!!』

タマの顔がいきなり三白眼になり、K一に迫り来るとそのままオドロオドロしい口調で語り続ける。

『この村の守り神であるおなつみ様の為に、舞いを奉納し“わた流し”の儀式をするんですぅ。』

『ゲロ?“わた流し”?』

『そうですぅ・・・おなつみ様の感謝と一年間の厄災を払う意味で特製のわたを詰めた布団を、特製の鍬でビリビリと引き裂き引き摺り出すんですよぉ・・・それを川に流すから“わた流し”・・・なのです。にぱ〜〜』

タマの余りの迫力に、K一は思わずゴキュリと唾を飲み込んだ。何だか良く理解出来ないが、布団をビリビリと引き裂いてわたを川に流す辺りが少し怖いと感じた。タマはK一の表情を見ると、楽しげにニヤリと微笑んだ。

『・・・・次の日・・・』

先程よりも小さめな声で再びタマが話し始めると、K一は思わず耳をすませ顔を近付けた。

『つ、次の日・・・?』

K一の様子を確認すると、タマは嬉しそうに言葉を続ける。

『次の日・・・・にはぁ、甘〜〜い甘〜〜いお菓子の様な水が流れると言う、凄く素敵なオマケ付きな行事なんですよぉ。どうです?凄いお祭りだと思いませんか、K一ぃ?・・ん?K一??』

満面の笑みを浮かべながら、タマは隣りにいた筈のK一の姿を探した。するとK一はタマの足元で顔面から地面に突っ込んでいた。

『タマ?K一・・何してるのですか?』

『いや・・・ちょ、ちょっと意表を突かれたと言うか・・・・そっちのわたね・・・つうか・・・わた・・・詰め替える必要無いんじゃねぇ?』
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