<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「 ◯● La lune et le soleil ●◯ 」(さる作)
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今日も月が昇る―――。

人を惑わし、魅了し、狂わせる。
蒼く冴え冴えとした月が、今夜も人々の足元に濃い影を落とす・・・・。

『 L・・・お支度が整いました。』

聞きなれたワタリの声に、窓の遠く・・・遥かな月から意識を戻す。

『分かりました・・・直ぐに向かいます。』

僅かに背後を覗き見て視線を眼下の街並みに移す私を、ワタリは不安を感じている様だった。
・・・・それはそうだろう・・・・。
この長い間、私がこれ程興味を持った人間等いなかったのだから・・・・。

『・・・心配はいりません。任務は遂行します・・・・必ず“キラ”を逮捕し罪を償わせます。』

今度は振り返り、ワタリの顔を見ながらそう言ってみせる・・・彼の表情は逆光になっていて私から窺う事は出来ないが、その身に纏う空気からは普段通りのワタリに戻った事は感じ取れた。
多分・・・・自分の感情を奥に秘めただけなのだろうけれど、現在はそれで良いと思う。それが互いの為であり、互いの不可侵の領域でもあるからだ。

『では・・・あちらの部屋に待機しておりますので、準備が整い次第お声をお掛け下さいませ。』

そう言うとワタリは静かに扉を閉め、室内に再び静寂が訪れた。
私はこの静寂がとても好ましく、とても嫌いだった・・・・。

静寂は思考を巡らせるには最高の友だった。だが同時に暗闇に怯えていた昔を思い出す、最悪の空間でもあった。
しかし双方の感覚があってこそ、私と言う人間が出来上がっているのもまた事実・・・・それは天空に毎夜月が昇るがの如く、酷く必然で当然の事なのだ。その月が何日か消える事はあっても、それは視認出来ないだけであって“確かに存在している”のだ。

人は私の事を“犯罪の深い闇を照らす光”と言う。どんなに巧妙に仕掛けられた犯罪も、総て解き明かし真実を曝け出す・・・・・。
だがそれは、同時に私の中に眠る“魔”を感じさせる瞬間でもあるのを彼等は認識しているのだろうか?その人間の犯罪に関する思考や、日常の癖・・・あるいは嗜好を分析するうちに“その人間そのものになり、犯罪に到るまでの行動をシュミレートする。”それにより私は犯罪者となり、時として人を殺めているのだ・・・・。
現在・・・・この瞬間にも行われている犯罪の多くは、決して光届かぬ闇の中に隠れ行われている。だとするならば、人の闇の中でも同等の事が行われるのではないだろうか?

『Lunatic・・・・狂気的な・・・』

見上げる空に浮かぶ月の蒼さに、思わずポツリとそう呟いた。その事柄に驚き、思わず苦笑する・・・・その顔が窓ガラスに反射し、自分の見た事の無い顔を私に知らしめる。

『・・・・私も月に魅入られたか・・・?』

夜神 月・・・彼は私の鏡。
彼は私の半身、彼は闇に堕ちた私。
まるで陰陽五行の様な対なる存在。

光の中に存在する闇、闇に存在する光。
共に在る事が、互いの存在を認識し理解する要。
彼が光なのか、私が闇なのか・・・・はたまたその逆か・・・・。何れにしろ私は夜神 月と言う存在に惹かれ、それを求めているのだ。その対なる存在を、私は自らの手で陥れ様としている。まるで殉教者の如くその身を焦がしながら、背徳者の様に喜びを感じながら―――。
光があるから影が存在し、同じ様に闇があるから光が輝く。お互いを求め合いながらも、憎みあう。背中合わせで温もりを・・・存在を感じながらも、同時に互いの存在を消す事を望みあう。何と言う快感・・・・何と言う快楽・・・・何と言う虚無感・・・・。これ程の喜びを、未だ嘗て感じた事が在るだろうか?

『・・・・私は・・・・』

口にしかけた言葉を飲み込み瞼を閉じる。
此処を出て行けば、その瞬間から私は彼を追い詰める為に動き始めるだろう。それが例え自分の半身を失う事になろうと、私と言う人間がこの先存在し続ける為に必要なのだ。恐らく彼も同じ事を考え、同じ様に緻密な罠を仕掛けてくる事だろう。
・・・・・そうなる事を望んでいる・・・・が正しいかもしれない。どちらにせよ、どちらかの破滅を意味する事には変わりが無いのだから・・・・。私はゆっくりと窓から離れると、ワタリの待つ場所へと歩き出す。
私の存在を許される穢れ無き白い世界、悪を白日の下に曝け出し償わせる為に思考を巡らせる。裁かれるのは私自身か、はたまた“キラ”と言う連続殺人犯か―――。
扉を開けば其処は光溢れる世界、そして同じだけの闇が存在する世界。その世界に一歩踏み出す私の脳裏に、とある者の言葉が蘇る。

『悪魔はね、天使よりも美しいのさ。でなければ人はその誘惑に負けないはずだからね。悪魔が美しいから、人は魅了され堕ちて行くんだ。』

かつてアダムとイブを唆し林檎と言う罪の果実を口にさせたのも悪魔だった様に、絶対の死の力で人々を魅了する“キラ”夜神 月。その整った顔が憎しみや苦しみで歪む日を夢見ながら、私は光と言う闇に堕ちて行く―――。       《完》

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