kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「終着駅」(さる作)
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私の名前は竜崎・・・本当の名前では無いが別に不快な思いはしていない・・・。今、「キラ」と言う神気取りの殺人鬼捜査の為に日本に来ている。そして、その捜査の中で見つけた夜神月・・何不自由無い人生を送る彼は何故「キラ」となったのか・・・優しい母親、尊敬できる父親、可愛い妹、完璧な頭脳と容姿・・幸せを絵に描いた様な家族。その中で彼の心にどんな悪魔が囁き掛けたのか・・いや、以外に囁いたのは天使だったのかも知れない・・。穢れを知らない天使は悪を消し去る為に、時には人々にも其の刃を向ける。“然るべき裁きの為の尊い犠牲”・・まあ、FBIも似た様な物だ。事件解決の為に、時には人質を犠牲にする時もある。“これ以上犠牲者を出さない為”に・・・ワタリは、何時もこう言っていた。

「もし貴方が捕らえ、其の救出にFBIが乗り出して来たらまず自分の身の安全を確保して下さい。必ず、私が御助けに参りますから其れまでは・・生き抜いて下さい。」

私は、方法こそ違うにしろ犯人を追い詰め破滅させる。違いが有るとするならば「キラ」は自分自身で手を下し、私は、人の法によって下す。・・子供の様に無邪気で負けず嫌いの「キラ」に囁いたのは、天使だったのかも知れない。愛する家族の為に、それを守る為に・・そんな彼に執着をしている私は、嫉妬し、羨望しているのかも知れない・・・何故なら、私は父も母も知らない・・いや、母の事はぼんやりと覚えている。あれは、私がハウスに連れて行かれる前日の事だと思う。寒い部屋、ボロボロのカーテン、私を抱く母・・背中越しの男の諭すように話す声・・母の長い黒髪を握りながら胸に顔を埋めている私・・・ふと、呼ばれた様な気がして顔を上げる。海の様に深く蒼い瞳から真珠の様な涙が一つ、又一つと零れて行く・・優しい声で私を呼びごめんねと繰り返す母・・私は、彼女の頬に流れる涙を止めたくて何度も拭った・・すると、大きな暖かい手が私の頭を撫で、私と彼女を其の大きく広い腕に包み込む・・確か2歳位の時の話だと思うが、其の記憶しか無いのはハウスに行ってからの教育が良くも悪くも私に膨大な知識と記憶を与え、何時しか其の断片として混沌の海に埋もれてしまったのだろう・・。白い部屋、沢山の研究者、頭に着けられた沢山のコード、目の前で繰り返される実験・・・私と言う被験者を、彼らは唯の実験用のモルモットの様に扱い、出されて行く数値に一喜一憂していた。良い成績を残せば、ご褒美としてチョコレートが与えられた。糖分で脳の疲れを和らげる為だったが、子供の私には何よりのご褒美だったし、欲しいが為に良い結果を出そうと努力した。縫いぐるみとおもちゃで埋め尽くされた白い孤独な部屋で過ごす私の唯一の楽しみだったからだ・・。とても寒くて、とても寂しかった。一人涙しても、慰めてくれる者等無い。一人で絶えるしかなかった。何時しか私の顔から表情が消え、与えられた本を読み理解するだけの日々が続いた。そのうち身心の成長よりも頭脳の成長のスピードが速くなって行き、私を蝕み始めた。心身のバランスを崩して目の前が揺れる様になり、ベッドにいる事が多くなった。考える事を止めない脳が私を追いたて、其処に生まれた死に対する恐怖・・・何時かこの身体が“死”を迎える時、“私”と言う存在は何処へ行き、如何なってしまうのか?この見つめている手は“無”に帰すのか、その時この考えている“私”はやはり“無”となり存在は全ての物と共に消滅するのか・・・?死にたくない・・大人になりたくない・・大人になる事は、死ぬ事だから・・・本気でそう思っていた。私は悲鳴を上げ、部屋の中の目に付く全ての物を壊して廻った。母に会いたい、此処から何処かへ行きたい、そう叫んだ。騒ぎに気付いたハウスの人間が部屋に飛び込んで来て私を押さえ付けた。その中に一人、無理に押さえ付け様としている人間に向かい、怒鳴った。

「相手は動物じゃない!子供なんだぞ!?」

彼は、暴れる私を彼等から引き剥がし、力強く抱きしめ其の部屋から連れ出してくれた。彼は、広い中庭に私を連れ出した。久しぶりに見た空と木々は午後の日差しを受け眩しく輝いていた。彼は、私を大きな木の下まで連れて行き芝生の上に私を立たせた。裸足の足に心地よい感触、気持ちの良い風、綺麗な景色・・何故か涙が出た。悲しい訳では無かった・・しかし言い得ぬ想いが心をかき乱し、私は大声で泣いた。彼はそんな私の頭を撫で、抱きしめてくれた・・・気が付くと辺りは大分暗くなっていて、星が空にぽつぽつと出始めていた。どうやら私は、泣き疲れて眠ってしまったらしく、彼はそんな私が冷えない様にと自分の着ていたシャツの中にスッポリと入れていた。傍から見るとカンガルーの親子の様な格好になっていた。
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