kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「木蓮の涙」(さる作)
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「・・ワタリ?・・ワタリ!」

遠くで私を呼ぶ声がする。・・・ああ・・・あの方の声だ。大丈夫、私は居ます・・・貴方と共にずっと・・・永遠に・・・頭の上で声がする。

「約束は守る・・お前と私達は似ている。愛する者を守る為にその身を犠牲にする、馬鹿な事だな・・」

あの死神の声だ・・苦しみの中から答える。

「・・・約束は必ず守られる・・・安心・・して・・」

それだけ言うと、突然苦しみが止み暗闇の安息が訪れる。もう、あの方にお茶を入れる事も、触れる事も出来ないが私達は永遠に一緒だ。そして、あの男ももう終局に向かって走り続ける荒馬の様に・・・。

私と貴方が最初に出会ったのは、貴方がまだ5歳位の時でした。ハウスの要請で貴方の警護兼監視者として任命された私は、休暇を終えたばかりでした。前任の“L"と監視者が引退を宣言して最初の秋だったと覚えています。あの頃の私は教官としての自分に自信を持って働いていましたので正直、子供の世話など出来るだろうか?それより、私が守るべき者としての価値があるのかとばかり考えておりました。・・・今、思えば失礼で無骨な男でした・・・。その日も、貴方について説明を受けていたのですが、非常に頭が良いと言う事以外何の特色も持っていない子供に本気で“L"を継がせるのかと憤りを感じていました。余りにも怪訝そうに聴いている私を見て先代の“L”は優しく微笑みこう言われました。

「・・・不安ですか?それとも自信が有りませんか?・・・大丈夫ですよ。あの子は貴方の経歴に傷を付けたりしませんし、何より貴方の好奇心を十分満たしてくれますよ。只、今お話した様にあの子が幾つまで生きられるのかは判りません。余り思い入れはなさいません様に気を付けて・・・」

対象に思い入れる?そんな馬鹿な事する訳無い。まあ良い。会ってみれば判ることだ・・・私はそう思いました。その頃の私は対象である貴方よりも自分自身への評価の方に興味がありましたし、正直子供が私の好奇心を満たす事等出来る訳が無いと思っておりました。

「かしこまりました。それでその子供は今何処に・・?」

先代は、ゆっくりと立ち上がり私を導く様に部屋を出て行かれました。明るい、暖かい日差しの入る綺麗な廊下を小さな子供達が元気良く走って行き、庭では声を立てて笑い転げながら鬼ごっこに興じて居る。私はそれを横目で見ながらこれから会う子供がどんな子なのだろうか、5歳位と言っていたからあの少年達よりもっと幼いのだろうし・・・何より世話が出来るのだろうか?なんて考えておりました。そうする内に貴方がいる部屋の前まで来たのです。先代はドアを開ける前に振り向き私に笑い掛け言われました。

「私が紹介するまでは、彼と話さないで下さいね。情報処理を出来るだけスムーズに出来るようにしてあげなければ苦しみますので・・・。」

そう言ってゆっくりとドアを開けられました。外の明るい世界とはうって変わって薄暗い其の部屋は、まさにあの時の貴方の心の心象風景を表していましたね。必要最低限の家具に、窓が一つあるだけ・・・締め切られた大き目のカーテンが揺れている所を見ると窓は開けられているらしく、其の揺れているカーテンのすぐ横に貴方は毛布に包まったまま横たわっていました。私達が入ってきても、微動だにせず視線は虚ろなままで空を見つめているままで・・・私は本当にこの少年は生きているのだろうかと思いました。先代は、足音も立てずにそっと貴方に近づき囁く様に声を掛けます。

「・・・遊んでいるのかい?今日は具合も良さそうだね」

其の声にようやく貴方が反応を見せ、動き、答えました。だが其の声が余りにも掠れていて、抑揚の無い声だった事に驚きを隠せませんでした。まるで壊れかけた玩具の様にぎこちなく、ゆっくりとした動き方は子供らしさの欠片も感じさせません。

「・・・“L"ですか・・・?・・はい・・今日は・・割と気分が良いですね・・・。」

そう言うとゆっくりと手を伸ばし始めました。先代はそっと貴方てを取り自分の頬に添え、微笑まれ手の平に口付けこう言われました。

「此処に居るよ・・・今日はね、君を守る人を連れて来たんだ・・・。起きられるかい?・・・挨拶をしようね・・」

貴方は、ノロノロと起き上がり私の方を見たのです。綺麗な黒曜石の瞳が私を観察するように見つめていたのを今でも覚えています。私はたじろぎながらも失礼の無い挨拶をしようとしたのですが、何分あの頃は無骨物で型通りの言葉しか出てきません・・・とりあえず出来るだけ優しく声を掛けました。

「初めまして・・・私はキルシュ・ワイミー。貴方の片腕になる者です。・・貴方を何とお呼びすれば?」

フフ・・・今考えても如何にも堅苦しい挨拶でしたね・・・しかし、貴方は怯む事無く、そして抑揚の無い声でこう答えましたね。
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