kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「モ-ニングム-ン・2」(さる作)
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あれから、あの日からしばらくは奴と二人きりになるのを極力避けてきた。行きも帰りも父と一緒に、行動や話し合いをするのも松田さんや相沢さん等と合同でするようにした。なるべく二人だけ、を不自然にならない様に避け続けたのは気まずさもあったし、何より奴の言葉が耳に残っていて顔をまともに見ることが出来なかったからだった・・今まで、どんな事に対しても女の子から告白されても動じる所か、それを自分の良いように利用してきた。何に対しても心揺らぐ事などなかったのに何故こいつの言葉だけがこんなにも心乱すのか・・?己と対等な人間と言う物はこんなにも特別な感情を呼び起こす物なのか・・?
考え込んでも仕方がない。いつもの通りに奴も利用してやるしかないんだ・・そうしなければ世界を変える事など出来るわけが無い。何か大切な物を創る事などあっては為らない・・。
こんな事を考えているのを知ってか知らずか、奴は時折何か言いたげな顔をする以外憎たらしい位普通に過ごしていた。そんな日々が続いたある日、父に届け物を頼まれ一人ワタリさんの元へ行くことになった。初めは断ったのだがどうしても本庁に行かなくては為らず困っていると言われ仕方なく承諾した。まぁ、向こうには誰かしか居るだろうし、ワタリさんに会うだけなら問題ないだろう。ようは奴に見つからないように帰ることができればいいのだから・・・。
エレベーターに乗り込みいつもの階で降りる、耳に入ってくるのは微かなリラクゼーション音楽だけだ。長い廊下の所々にある扉は全て閉ざされていて人の気配を感じる事が出来ない。

(相沢さんや松田さんはどこにいるんだろう?)

そんな事を考えながら一番奥にあるワタリさんの部屋へと進む。その時、一つの扉が音も無く開いた。
一瞬、奴が出てくるかと思いひるんだが、その部屋から出てきたのはワタリさんだった。予想外の事に驚いていると、彼は静かに、囁くようにこう言った。

「どうぞ、こちらに」

いつもの穏やかな口調では無く、少し不機嫌そうなその声に躊躇したが届け物さえ渡してしまえばすぐに帰れる、いつも通りに父の自慢の息子として行動すれば良いんだと気を取り直し導かれるままその部屋に入った。静かな、落ち着いた空間にテーブルと椅子が二つ浮き出るように存在している。テーブルの上にノートパソコンがある。これで奴とやり取りしているのだろう・・・

(奴がかぎつけて来ないうちにさっさと用件を済ませて帰ろう。)

そう思った。

「どうぞお掛け下さい。お茶でもお入れしましょう」

「いえ、今日はこれをお持ちしただけですぐに帰りますからどうぞお構いなく・・」

父から預かった分厚い茶封筒を彼に手渡す。一瞬間を置き受け取った彼は中身を確認しながら静かに、だが強い口調でこう言った。

「お座りに待ってお待ち下さい。私共からも父君にお渡しして欲しい物が御座います・・・それ少々お聞きしたい事も御座います。」

「! いえ、今日は・・」

すぐに戻らなくてはいけないので・・そう言おうとしたが眼だけでこちらを見ている彼の無言の圧力に押され何も言うことが出来なかった。

「ご自宅には連絡を入れておきますのでお座りになってお待ちください。」

それだけ言うと彼は踵を返し部屋を出て行った。ドアが静かに閉まり、一人取り残された部屋に呆然と立ち尽くした。

「・・・何なんだ。一体?」

腹立たしさと奴に会ってしまうのではないかと言う不安、そして期待・・?複雑な想いが心に満ちてくる。このままではいけない! 心を落ち着け冷静に対応しなくては、真実を晒しては総てが終わってしまう。どんな事があろうと心乱してはいけない。とりあえずすぐに戻って来るかどうかも分からないし、座って待つ事にした。窓辺近く置かれたセンスの良い椅子に浅く腰掛け窓の外に目をやる。夕暮れ真近の光が柔らかく差し込み心地良い。こんな場所でなければその心地よさに身を委ねたい気持ちだが、そうも言っていられない・・・以外にもう監視されていて、何かぼろでも出さないかと手薬煉引いているのかも知れない。奴の得意な手だ。まぁ、例えそうだとしても今のこの時間は冷静さを取り戻すには良い時間だ。ワタリが戻って来るまで景色を楽しむとしよう。椅子から立ち上がり眼下に広がる街並みを見る。以前見た時とほぼ同じ時刻だがあの時の様に切なく見える事は無く、事故も事件も無い平和その物の静かな理想的な世界、穢れの無い世界。今、神の目と裁きの杖を持ち頭上より見つめているここは悪の居ない世界・・必ず成し遂げてみせる、たとえどんな犠牲を払う事になっても・・・。
暫くの間、時計の音だけが耳にその姿を残して行った。再びドアが開き、ワタリが姿を現した。
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