京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「美しき獲物達」(さる作)
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『私がLです。』

そう告げられた時から僕達の戦いは始まった・・――。
それまで何の変化も無く、“デスノート”によって与えられる“達成感”だけが僕の喜びであり、つまらない日常を刺激的にしてくれていた。初めから裁かれるべき犯罪者をどう裁いて行くか、公正ならざる者により今迄逃げおおせていた犯罪者が受けるべき裁きを与える事に何の罪があると言うのか・・・“常識”と言う楔の下、力無き正義が犯罪者を追い・・悔しい思いを何度したのだろうか?それを憂い・・手助けをした僕を彼等は犯罪者と読んだ・・
――残虐非道の・・神の名を語る殺人者と・・――

僕は“L”の・・・竜崎の排除しようと決めた。僕の持てる全ての力と知恵を持って、あいつのプライドや自信を粉々にしてやろうと決めた・・筈だった。何時しか僕はあいつと闘う事を楽しいと思う様になっていた。今迄退屈だったのは“L”・・お前が居なかったからだと思った。何をするにもあいつが何を考え、如何行動し、僕が如何するべきかを考える。何てスリルがあって・・何て刺激的で・・何て楽しい・・僕は恋をしているかの様に毎日あいつの事を考えた。そして・・本当に恋に墜ちた・・。愛しさから傍に居たいと願い、邪魔な者として離れたい気持ちが攻めぎ合う・・。決して本心を見せない僕達は、想い合う事でも決して本心を見せない。見せてはいけない・・・見せてしまえば全てが無に帰してしまうからだ。僕の夢も何もかも・・あいつの存在の何もかもが無くなって行く・・。其れを考えただけで引き裂かれる様な胸の痛みに苦しめられる。

『ライト君・・・』

名を呼ばれキスされる時の喜びと同等に、こいつさえ居なければと言う感情が心と身体を引き裂いて行く。

『ん・・・竜崎・・・』

信じられない程の甘い声が僕の口から漏れる・・・囁きの代わりに深くなる口付けに身体の中から熱くなり、何も考えられなくなって行く。愛なのか・・・それとも唯の欲望なのか・・・僕達は身体を重ね合う。身体中に紅い華を落として行く・・身体の中から外に向かって何かが迫上がって来る・・憎い程愛しい僕の・・“キラ”のしなやかで美しい最後の獲物・・・。猫の様に軽やかに、豹の様に鋭いあいつが僕と向き合う時最高の快感が身体の芯から沸き起こる。

『竜崎・・・好きだ・・竜・・ざ・・』

甘く繰り返す言葉に酔い痴れ、熱を僕の中に残す・・今のこの時も、此れから訪れるかもしれない最後の時も其の身体を抱き締めるのは僕だけ・・・

『ライト・・』

涙が出そうになる程の優しい声が、胸に突き刺さる・・・殺したいのか・・愛したいのか・・僕の中で“月”と“キラ”が攻めぎ合う。どちらが勝つのか分からない現在・・・憎み合う過去・・閉ざされる未来はどちらの前に其の暗黒の扉を開くのか・・。

『竜崎・・もっと・・・強く・・』

互いの腕の中で現在だけ見れる夢を見る。薄明かりに浮かぶシルエットが涙で滲む時、始まりの時と同じ月が窓辺に浮かぶ。あの時と同じ声で、指で、唇で・・あの時と違う心で感じ合う。

『愛していますよ・・・』

戦いは未だ終わらない・・未だ・・終わらせない。全てを貪り尽くすまで、この美しくしなやかな僕の獲物を記憶するまで・・・。 《完》

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