京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「REINCARNATION - 再生 -」(さる作)
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《じゃあ行って来ます》

我輩はそんな軽い言葉を残し、父上と別れ隔離された病室内へと入って行った。特に何も考えていなかった・・・考えたって仕方無いし、分裂しかかっている心が治る訳でも無かったからだ。分かっているのは、もう1人の我輩もゼロロが好きで・・・我輩よりも先にゼロロの唇を奪った嫌な奴と言う事だけ・・・自分の身体なのに自分じゃない行動を取られる不快さに苛立ちを覚える・・。

『ケロロ君?大丈夫かな?』

専属の医師が話し掛ける。我輩は少しの間ボーっとしていたらしく、心配そうに覗き込んでいる。

『ケロ?あ、はい、大丈夫です。』

慌てて答える我輩に先生は、小首を傾げながらゆっくりとした口調で説明を始めた。

『・・・良いかい?君は此れからこのポッドの中に入り、ちょっとした睡眠状態にされる。その間の体調管理は全てこのコンピューターによって制御される・・こいつはマザーに直結しているから、此処で何かトラブルがあっても君の命に係わる様な事にはならない。この中の特殊な液体は呼吸出来る様になっているけど、最初・・・肺にこの液体を満たすまでが少し苦しいかも知れないけど慌てず、指示に従ってくれるかな?』

『・・・我輩、どうなるの・・?』

不安そうに聞くと頭を掻きながらしゃがみ込んで、我輩の顔を見ながらはっきりと言う。

『この中で君の意識を統合し、再生するんだ・・・痛みも苦しみもない代わりに、期間がどの位掛かるか分からない・・・でも、其のお腹の傷と動かなくなった腕は元通りになる。』

我輩は自分の身体に残された傷を見た。引き攣った様に縫われた腕の傷と、お腹にあてられたガーゼの大きさが事態の深刻さを訴えている・・・事実・・こうして車椅子に座っている状態でも息が苦しくて、動く度に全身に痛みが走る・・選択肢は無い事を思い知らされる・・・。

『分かった・・・先生の指示に従います・・。』

『・・良い子だ。では、早速始めよう。このセンサーをこめかみの部分に貼り付けるよ。此れは君の状態をモニターする為の物だ・・君、この子の包帯を全て取り外してくれ・・・少し我慢して・・。』

先生は車椅子を押して来た看護士にそう言うと、自分も我輩の身体の彼方此方にある包帯を外し始めた。其れを見ながらふと、思い出すのはギロロとゼロロの事だった・・――。特にギロロは見た目よりも繊細で傷付き易い・・考え込んでいなければ良いなと思った。ゼロロは・・・本当は真に強いから大丈夫だと思うけど、生真面目な分ギロロを責めなければ良いのだけれど・・・此処に来る前にもう一度会いたかったな・・そう考えた時だった。頭の中で声が響いた。

《そうさ・・・二度と会えなくなるかも知れないんだから会っておけば良かったのに・・・》

思わず立ち上がり、其の時の痛みで床にしゃがみ込む・・。痛みに苦しむ我輩に先生は驚きながらも、冷静に問いかけて来た。

『如何した?何か言われたのか?』

言葉にならない我輩は先生を見詰めながら頷く・・すると先生は我輩の身体を優しく抱き上げ、車椅子に乗せてくれた。頭を撫でながら強い瞳で我輩に言う。

『・・・良いかい?君と言う存在の前に、もう1人・・そうだな・・“兄”とでも言えば良いのか・・君が居たのは聞いたね?』

此処に入る前に、看護士から聞いていた・・小さい時に事故で再生された我輩が、その意識が残ったまま新しい我輩と共に成長したと・・・。不可思議で・・残酷な事だと思った・・。頷く我輩に笑顔を向け、更に話を続ける・・。

『君に話し掛けて来たり、勝手に行動したりするのは其の“兄”の意識が強くなった証拠なんだ・・この治療法はまだまだ技術面で不安定さがある。しかし、此の侭放置しておくと君の中で争いが起こり・・どちらかが勝って残れば未だ良いが、最悪二人とも消えてしまう可能性も有るんだ。其れを避ける為にも“意識の統合”をする必要がある・・。出来うる限り記憶は移植するから、君は君の会いたい人達の事を強く考えて・・負けない様に・・』

先生の笑顔に、笑顔で答える我輩・・・納得が行く様で何処か引っ掛かる理屈・・・この考えすらどちらの物なのかがもう分からない・・・。慌しく準備が進められ、色々な機械が動き出す。そして我輩の身体がポッドの中に入る時が来た・・少し怖かった。動く方の腕にチューブを取り付けられ、抱きかかえられる。心配ないと言いたげに肩を叩かれ、足先から沈められて行く・・・顔が浸かる時、先生が確認する様に言う。

『・・良いかい?中に入ったら怖くても深呼吸して。少し咽るけど直ぐに息は出来る様になるから・・。』
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