京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「雨のregret - J.I. - 」(さる作)
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雨が降る…街に、そして心に…。君を知ってから俺の時間は止まったまま動こうとしない。


自分の部屋から街を見下ろす。降り注ぐ銀色の雫が見慣れた景色を変えて行く…。君を想う時、自分の中で何かが変わって行くのを感じる…胸に灯る温かさや寂しさが、会いたい気持ちを募らせる。

『…今頃何してるかなぁ。流石にこの雨じゃ武器を磨いてる訳ないし…室内で訓練でもしてるのかな?それともクルルと…』

言い掛けて胸が痛んだ。そう…ギロロはクルルの大切な人…2人の間には2人だけで過ごして来た時間と想いがある。俺が知らないギロロの癖や仕草を、クルルは知っている。あのクルルといる時の…全てを愛おしむ様なギロロの眼を俺が見る事は無い。

『そ…か、そうだよね。1人で過ごしてる訳無いか…。』

改めて口にすると何て痛みを伴う事実なんだろうか…頼まれた物を渡した時に触れた指先の感触や、唇に触れた頬の柔らかさを今でも鮮明に覚えている。僅かな触れ合いが永遠になるなんて思ってもみなかった…今までして来た恋愛の痛みや喜びが、何て子供じみていたのかが分かる。写真なんか無くても思い出せる程覚えている…君の姿を…夢の中で何度も触れ、抱き締める。唯切なくて苦しくて…いっその事打ち明けてしまおうかと何度思っただろうか…

『…出来る訳ないよね…そんな事…。』

苦笑しながら、自分に言い聞かせる様に呟く…そんな事をすれば君が苦しむのをが分かっているから…君が苦しむのは見たくないから…そして俺自身も君に触れる事はおろか、姿を見る事すら出来なくなってしまう事を恐れている。クルルは俺の友達で、クルルの大切な人はギロロで、俺はギロロにとっては唯の人間で…出口の見えない言葉の迷路に、自分さえ見失いそうになる。何時か…公園で告白して来た彼女もこんな風に想いを巡らせていたのだろうか?

『あの子…どうしたかなぁ?もう少し優しくしてあげれば良かったかな…。』

俺には持てない勇気を彼女は振り絞り、俺に告白して来たのに俺は何て冷たい…。気持ちを偽る事は出来なくとも、もっと話しておけば良かったと、改めて思った。

『やっぱり女の子には敵わないや…俺は会えなくなったり、嫌われたりするかも知れないって考えたら…出来ない‥よ。 』

考えるだけでこんなにも苦しいのなら、言わずにいる苦しさの方が楽に思える。俺らしくない、狡い考えが俺の行くべき道を見えなくさせる。

『…気分でも変えるかな。』

雨音だけが響く部屋に、音楽をかけて考えや気持ちを切り替えようとする…。でも一度灯が付いた想いを消せない様に、そんな事で変えられる程簡単じゃないと返って思い知らされる。迷宮に入り込んでしまった俺が解放される事は、恐らく無いだろう。

『ギロロ…俺…君が……君の事が…』

決して届かぬ想いを呟く。聞いていたのは冷たい物言わぬ銀の雨だけだった…――。             《完》

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