京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「愛の言霊 - Spiritual -」(さる作)
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俺はずっと一人だ。

生きるのも・・・きっと死ぬ時も・・・誰も俺を好きじゃない。俺も誰も好きにならない。早く大人になりたい・・・自由になりたい・・・何時もそんな事を考えていた・・・。

アルルから開放され、少しは幸福になれるのかと思っていた・・―――。現実はそんなに甘くは無かった。俺の母親と言われるクララはアルルの実の娘で、俺は其の二人の間に出来た子供だと聞かされた・・・実際、二人が営みをして出来た子供では無く人工的に創られた子供・・・・愛情も感情も何も無い、唯の生命体・・・一緒に創られた筈の二人は何時の間にか消えていた。闇ブローカーの手に堕ちたらしいと俺を保護した軍人が教えてくれた・・・出来る限り探すと・・。二人と過ごした時間は短かったが、とても優しくて温かい人達だったと思う・・・俺が有る程度成長する為のベビーシッター代わりだったのかも知れない。もう会えないと言う悲しみよりも、一緒に行けなかった悲しみの方が強かったのを覚えている・・・。俺は寂しさを紛らわす為に、色んな研究に没頭した。幸い頭だけはアルル以上と言われ、軍から大切に扱う様にとのお達しが出たお陰で誰からも何も言われなくなった。俺の作った物は軍の上層部で喜ばれ、俺は尻尾の付いたままで階級を貰ったがこの施設からは抜け出す事が出来なかった・・・そんなある日、俺は大佐なる成る人物に呼ばれ、クララと共に本部へと赴いた。暗い・・表情の乏しい軍人共が忙しなく動き回る本部内は俺の興味をそそるには充分だった。逆光で顔が良く見えない状態で大佐が話し掛けて来る。

『ご足労を掛けた・・・話と言うのは他でもない。少々困った事が起きてね・・・クルル・・君の手を借りたい・・。』

有無を言わせない様な・・重い・・強い口調に反抗したのは俺では無く、クララだった。

『!?・・・お言葉ですが大佐、何故この子なんです?当研究所には優秀な研究員は沢山居ります・・こんな子供に任せる等・・・』

そう言いながら俺を一瞥するクララの眼は、嫌悪感で満ちていた。俺は其の眼を馬鹿にする様に眼鏡を上げた。

『・・クク・・良いぜぇ。俺で役に立つなら何でもやってやるよ・・・但し、ひとつ条件がある・・。』

『ほぅ・・・何だ?・・・言ってみろ・・。』

横柄な俺の言葉を気にする事無く大佐は興味深そうに聞き返して来た。クララは憎たらしげに俺を見詰めている・・。

『あの研究所から出たいんだ・・。』

『!? クルル?何を勝手な事を・・・!?』

クララが噛み付きそうな勢いで俺の肩を掴む。俺は其の手を強く振り払った。出来る限りの嫌悪感を眼に、クララを睨み付ける・・。大佐は少し考え・・何も動じていない口調で答えた。

『・・・・・良いだろう。但し場所は此方で指定するが良いか・・・?』

『・・あぁ、あそこ以外なら何処でも良いぜぇ・・。』

『ふむ・・・お前の年齢なら、軍の養成所に行くのが妥当だろう・・・今回の依頼が成功したら・・だがな。』

『ク〜ククク・・俺様の辞書に“失敗”の文字は無いぜぇ・・ッ!?』

横柄な言い方が勘に障ったのか・・・其れとも勝手に出て行く事を決めた怒りなのか・・俺はクララに横っ面を叩かれ、倒れた。怒りで語尾が震えるクララが怒鳴り散らす。

『・・・いい加減になさい!?・・大佐、まさか本気では・・・・・』

『クララ博士・・・私は今・・クルルと話をしているんだ・・・・言葉を挟むな・・・』

威圧的な言葉に絶句し、表情の強張るクララを、俺は横目で見て笑った。

『・・博士、貴女は私達の話の邪魔だ・・少しの間席を外して頂けるかな?』

それは刃向かう事を許さない絶対的な命令だった。クララはワナワナと震えながら大佐を見ていたが、直ぐに外へ出て行った。扉が閉まるのを確認し、大佐が俺に話し掛けて来る。

『さて・・・クルル・・君の仕事だが、先程も言った様に少しばかり厄介でね・・実の所、君に失敗されると非常に困った事になるんだが・・・本当に大丈夫なのかね?それに分かっていると思うが、もしも失敗したなら君も只では済まない・・それでもやるかね?』

『・・何をすれば良い?』

長い間願ってきた事が叶うかも知れないチャンスを逃す手はない・・万一失敗した所で、誰が悲しむ?そんな事を考える俺を大佐は暫らくの間黙って見詰めていた。

『・・・覚悟は出来ていると・・そう言う訳だな。良いだろう、私に着いて来たまえ。』
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