京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「Make-up Shadow」(さる作)
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アイラインを施し、唇に色を沿え、無垢な素顔から色々な顔へと変わって行く・・・。聖女にも悪女にも・・・其の変化は自由自在。此れが彼の中の変化に例えるとしたならば、今・・・私達の目の前に居る夜神月は何処に位置しているのだろう・・・。

『・・・・竜崎さん〜・・そんなに見詰めてられると遣り辛いんだけど・・・そんなにお化粧が珍しいのぉ?あ、それとも海砂に見惚れてるとか??』

弥海砂が私の顔を凝視しながら話し掛けて来る。第二の“キラ”として拘束し、共に過ごす様になってから随分と親しげにしてくる人見知りしない少女は、私が“キラ”と信じて疑わない夜神月の恋人らしい・・。

『・・そんな訳無いでしょう・・唯、女性と言うのは大変だなぁと思っただけですよ。』

『まぁね・・・ちゃんとして無いと馬鹿にされるし、アフターケアもしないと肌荒れするし・・・流行も有るしね。海砂一応モデルだからさ、勉強しなきゃなんだよね〜・・だ・か・らぁ、ライトと街でデートして勉強したいんだけどな〜?』

『駄目です。』

『!! 何よ!?ケチ!!・・・ねぇ、ライトも笑ってないで何か言ってよ!?』

其の呼び掛けに首を傾げながら答える彼・・夜神月はあくまで冷静に答える。

『はは・・・ミサ、あんまり無茶を言うなよ。大体僕達は誤解を解く為に此処にいるんだぞ?・・・我侭言ったら駄目だろ?』

優しい・・紳士的な、模範的な答えに少々不満気味にしながらも大人しくなる弥海砂・・・一見何も問題無さそうに見えるこの光景に、一抹の不安を感じるのは私だけなんだろうか・・?何の変哲も無い会話の中ですら“キラ”の面影を見てしまうのは、私自身が“キラ”に惹かれ求めているからだろうか・・?最初に出会った彼と、今こうして無垢なる顔で存在する彼は同一人物なんだろうか・・?見えない何かに惑わされて何かを見逃していないだろうか・・・?そんな考えの中で共に過ごす時間を心地良く感じている私は、彼の中に居るかもしれない“キラ”に惹かれているのでは無く、夜神月其の者に惹かれているのだろう。彼ほど話していて惹かれ、癇に障る人間は今まで存在していなかった。私の中の新しい変化をワタリは不安そうに見詰めている・・・だが彼を求め彼に酔い交わす情の何と甘い事か・・。あの指も髪も温もりも全て知り尽くしても、彼の中に眠る真実の顔は見えて来ない・・。仮面を被るならば其れは容易く見破れる物・・所詮は紛い物を見分ける事と同じ。しかし・・女がする様に自分自身に色を沿え、全く違う自分になっているのだとしたら・・・色を添えて行く事で其れと同じ様に気持ちにも色を添えて行くのなら・・・変わって行く“何か”を見逃してしまうかも知れない・・。完璧なる模造品とでも言うのか・・・何時しか其の模造品が本物と呼ばれる時が来るのだろうか?

『・・・?何だよ・・何、人の顔見詰めてるんだよ?』

弥海砂とじゃれあっていた夜神月が、私の顔を訝しげに見ながらそう話し掛ける。今のお前はどんな化粧を施している?天使の容姿をしながらも、悪魔の様に残忍な“キラ”を施しているのか・・其れとも、私が愛して止まない“夜神月”の素顔なのか・・・明日には又違う何かに変わっているのか・・・・楽しいと思ってしまう私に表現し難い気持ちを抱える。

『・・・いえ、ライト君も化粧したら似合うだろうな、と・・・』

『でしょ〜!絶対似合うよね!?ね、ライト・・一回だけやらせて?そしたら大人しく此処に居てあげる。』

『えぇ!? おい、竜崎あんまり無責任な事言うなよ!・・わ、ミサ、馬鹿・・止めろってば!?』

夜神月に覆いかぶさる様に弥海砂がじゃれかかる・・嫌がりながらも何処か手加減している様に見えるこの紳士に、彼女はどんな色を施すのか・・・。目の前に転がる口紅に手を伸ばし蓋を開ける。現れたのは血の様に赤い色・・・目の前に翳し暫し見入る私の肌に付く色が、鮮やかで・・・この赤は彼其の物。残酷で魅入られずに居られない色。私は何時か必ずこの赤を完全に掌握してみせる。        《完》

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