京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「迷路」(さる作)
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『患者の様子はどうだ?』

ドア越しに聞こえて来る先生の声・・。私は今日も空を見上げながら、あの人の来るのを待っているの・・愛しくて憎い・・夜神月の帰りを・・。

『えぇ・・今日も何かを呟きながら空ばかり見ています。この一年と言う物、同じ行動ばかり繰り返す事と言い・・何を聞いても全てあの男の事になってしまう事と言い・・回復の兆しはまったく見られません。』

何を言っているのかしら・・?私は唯・・待っているだけなのに・・如何してこんな・・白くて窓に格子が入っている部屋に居続けなければならないのかしら・・・・?何時も考える事は月の事ばかりなのに、月は竜崎さんの事ばかり考え・・て・・・竜崎・・さん?

『あ・・ああああ・・・いやぁぁぁ!?月、月ぉ!!』

『しまった!!発作だ・・おい!人を呼んでくれ!?其れと安定剤の用意を!?』

『はい!!』

・・・・・重いドアが開き、誰かの走って行く音と入って来る音が重なる・・・。今、とても怖い事を思い出しそうになった・・ううん・・・思い出した・・。何で月が迎えに来てくれないのか・・本当は知っているの・・。月は・・・死んだの・・私を残して・・新しい“L”に殺されたの・・・・必ず帰って来るって約束だけを残して・・・――――。

『海砂さん、落ち着いて!?』

誰も私に触れないで、音を聞かせないで、見詰めないで!!月の姿を・・声を・・感触を・・取り上げないで!?・・・・腕に冷たい・・濡れた感触と小さな痛みが走り、私の意識が薄れて行く・・・眠るのは好き・・来ない明日が見れるから・・・月は逝ってしまった。私を置き去りにして、竜崎さんの待つ世界に逝ってしまった・・。マッツーが教えてくれた・・月の2日前に清美も死んだと・・・月の手伝いをしていたと・・・ねぇ・・月・・・何で私じゃ駄目なの・・?私、月の事こんなに愛してるんだよ・・・?如何して一人にさせるの・・・?貴方の元へ行きたいのに、行けない私・・・貴方が残した最後の言葉が・・“必ず戻る”と言う罪の言葉が・・私をこの世界に縛り付ける・・。私を本当に大切の想って・・巻き込みたくなくてそう言ったんだよね?せめて・・私だけは・・そう思ったんだよね?・・・・・心の奥底に眠る大きな白い影が囁く・・・“嘘愛の船で沖に漕ぎ出せば、何時かは沈み溺れてしまうよ”“早く心配する人の元へ帰っておやり”・・と。止めて・・・!?貴女こそ嘘を付かないで!?嘘愛じゃないわ!?本当よ・・・真実愛してくれてたわ!?・・・・そう言ってくれてたもの・・・誰にも分からないのよ・・月の寂しさも・・幼さも・・・愛も・・・ねぇ、お願いよ月ぉ・・自分から貴方に会いに行けない私を・・言葉に縛られて其れに縋りついている私を迎えに来て・・・!?此処から連れ去って!!・・・・・・・会いたいの・・冷たくしないで・・・忘れないで・・・先生に抱き抱えられてベッドに横たわる・・・優しく毛布を掛け、部屋を出て行く先生は何故あんなに悲しそうなのかしら・・ふと・・格子の向こうに広がる青い空を見る・・広く自由な空を飛び回る鳥は・・きっと貴方・・。あの鳥が此処に舞い降りたら・・きっと私はこの迷宮から出られる・・。其の時をまどろみながら・・・待っているわ・・月・・。遠くで貴方が私の名を叫んだ様に感じた・・・・。



『哀れな子だ・・この先、ずっと心の迷路で同じ道を歩き続ける・・愛を囁く日に滅んだ愛を抱え、心を殺してしまうなんて・・。』

そして世界は闇に閉ざされた・・――――。    《完》

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