京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「Reflections」(さる作)
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ケロロ君が治療を始めてから暫らくの間、僕は落ち着かない気持ちを持て余し彷徨っていた・・。何時も3人で通った道にも・・遊んだ場所にも・・彼の・・ケロロ君の姿が無い事が辛かった。何かに縋り付きたい・・僕が戦いにのめり込んだ理由なんてそんな物だった。強くもなりたかった・・誰の負担にもならない位・・助けになれる様に強くなりたかった。もう・・あの時の様な光景など見たく無かった・・。流れ出す命の紅が目に焼き付いて離れない。流れ行く日々の中で待ち続けると言う責め苦は僕の心を狂わせた。喧嘩や争う事が大嫌いだったのに、今の僕は戦場を駆けずり回る事を進んでしている・・“暗殺者”の名に相応しい行動と賛辞され・・術の取得や体術の鍛錬が辛い現実から引き剥がしてくれる事に喜んだ。疲労で疲れた身体を引き摺る様に家に帰り、又訓練へと出かけて行く。会えない事が分かっていながら僅かな時間の間ケロロ君の所に通い、状態を聞き訓練所へ戻る日々・・たまにギロロ君と擦れ違う時、憔悴しきっているのが分かるのにワザと辛い事を言ったりしてしまう。許せない気持ちと許したい気持ちが僕の中で鬩ぎ合う・・いっその事追い込んで、ギロロ君の方から“離れたい”と言ってくれたらと望みもした。そんな時、ケロロ君のお父さんから“会いに来てくれ”と連絡を貰った。・・・正直、会うのは怖かった。忘れないと言ってくれたケロロ君・・忘れたくないと恐れていたケロロ君は本当に僕を憶えていてくれてるだろうか・・?僕を好きだと言った言葉も・・あの時のキスも・・憶えてくれているだろうか?・・・一番不安に感じているのは僕自身、どちらのケロロ君を好きで・・残っていて欲しいと想っているのか分からない事だった・・。曖昧な答えしか浮かばない自分に苛立ちを感じた。戦う事は強くなっていても、心は思う様に強くはなれない事が悔しかった・・・。ケロロ君に会える日、ギロロ君の煮え切らなさが僕の中に眠る怒りを・・感情を表に出させた。其れは自分自身に対する怒りでもあったと・・今なら思える。戦いに逃げる僕・・戦いから逃げるギロロ君・・ずるくて嫌な感情が隣に座り気落ちしているギロロ君を痛めつける。

『そう言う割には戦場に出て行かないのは何故だい?』

傷ついた様な驚いた様なギロロ君の顔・・・理由なんて分かっているのに・・!?

『ケロロ君を自分の逃げ道にするのは・・僕が許さない・・。』

自分も逃げているのに?・・・ケロロ君のお父さんが出て来て僕が会いに行く時、僕はワザとギロロ君の顔を見ないで行った。その方が傷つく事が分かっていたから・・・汚い僕・・・ずるい僕・・・全てをギロロ君に押し付けて自分は守ろうとする僕こそ本当にケロロ君に会う資格が有るんだろうか・・・?そんな考えを他所に案内された先には、ケロロ君が横たわるポッドが広い空間の中ポツリと存在していた。穢れない存在に思わず躊躇するが、会いたい気持ちが僕の足を動かす。一歩・・又一歩近づいて行くと見慣れた緑色の身体が、今まで胸の奥で渦巻いていた全ての感情を消し去って行くのが分かった。冷たいガラス越しに話し掛ける・・・。

『・・・ケロロ君・・・』

僕の声に直ぐに反応して眼を開き、見詰めてくれる・・そんな当たり前の行動が凄く嬉しくて泣きそうになってしまう。

『・・ふふ・・ゼロロだ・・又夢かなぁ・・夢でも良いな・・』

懐かしい・・優しい・・少し鼻にかかった甘い声・・

『夢じゃないよ・・僕だよ。ケロロ君・・会いたかった・・・・。』

驚いた様に・・けれど気だるそうに眼を開き、其の手を伸ばしてくるケロロ君・・其の手に重ねる様に手を差し出す僕。けれど其の手は冷く硬いガラスに阻まれる・・もどかしくガラス越しに触れ合う僕達に言葉は無かった。刻々と時間だけが過ぎて行く中、ケロロ君が何かを言いたげに唇を動かした・・。僕は一言も逃すまいと耳を澄ませる。

『・・・ゼロロ・・元気だった?・・・ギロロは・・?ギロロも来てるの・・?未だ・・気にしてるかな・・?ゼロロも気にしてる・・?あれは・・我輩が望んでやった事だから・・・大好きだよ・・。』

小さな・・掠れた声が気遣う様に・・労わる様に問い掛けて来る。抱き締めたい、そんな衝動と同時にギロロ君に対しての労わりの言葉がショックだった。嫌っていて欲しかった・・僕だけを見詰めて欲しかった・・僕だけの君であって欲しかった。最後の言葉が無ければ痛みで死んでしまいそうだった。意地汚い自分が嫌だった。

『・・少し元気ないかな・・そんな事より早く元気になってよ・・寂しいよ。』

そう言うだけで精一杯だった。

『君、時間だ。もう一人の子と交代して。』
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